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再生可能エネルギー:社会的公正なグリーンエネルギー転換への道筋(2021年10月28日開催)

Nordic Talksシリーズは、持続可能な未来に向けて変化を起こそうと行動している北欧と世界各地の人々との間で行われる対話です。

10月28日、Nordic Talks Japanシリーズ第1回目として、エネルギー転換における公正な移行をテーマに開催しました。会場は東京・新木場の木材会館に加え、Zoomでストリーミング配信も行われました。

開会の挨拶にはインガ M. W. ニーハマル駐日ノルウェー大使が、閉会の挨拶にはピーター・タクスィー・イェンセン駐日デンマーク大使がそれぞれ登壇。スピーカーには、Brian Motherway氏(国際エネルギー機関 Head of Energy Efficiency)、長嶋モニカ氏( InfluenceMap 日本カントリーマネージャー)、Håkon Sælen氏(CICERO シニアリサーチャー)の3名をお迎えしました。モデレーターは、ICEF運営委員長、元国際エネルギー機関事務局長の田中伸男氏が務めました。

以下、登壇者の発言の抜粋です(全編録画はこちらからご覧いただけます)。

IEAレポート:「人間中心のクリーンエネルギーへの移行」

まず、それぞれのスピーカーに、公正な移行に向けた自身の活動を紹介していただきました。

IEAのBrian Motherway氏は、公正な移行に関するIEAの最近の発表を紹介。

「ちょうど2日前、IEAのGlobal Commission on People Centered Clean Energy Transitionは、各国政府が従うべき12の提言を発表しました。この提言は2つの基本的な価値観に基づいています。1つ目は、クリーンエネルギーへの移行は、人々のためのものであり、人々についてのものであるということ。2つ目は、エネルギー移行は、包括的で平等、公平でなければ成功しないということです。提言は4つのテーマで構成されています。「働きがいのある人間らしい仕事と労働者保護」、「社会的・経済的発展」、「公平性、社会的包摂、公正さ」、「人々の積極的な参加」です。国が違えば道筋やエネルギー源も異なりますが、人間中心の原則は横断的です。」

「何よりも勧めるべきなのは、働きがいのある人間らしい仕事の確保です。ちょうど今日IEAが、2021年にクリーンエネルギーに向けて行われるレベルの投資は、今後2,3年で500万人の新規雇用を創出するという、最新の分析結果を発表しました。政府の政策は、被害を受けている可能性のある産業分野の人々を中心に、広く恩恵が行き渡るように、うまく設計されるべきです。」

日本の気候変動政策の決定プロセスは公正か

続いて、InfluenceMap日本カントリーマネージャーの長嶋モニカ氏が、昨年8月に発表したレポート「日本の経済・業界団体と気候変動政策」の内容を紹介しました。

「日本では、GDP総付加価値のわずか10%を占める狭いグループの産業だけが、気候変動政策に関わっていることが分かりました。それらの産業は、鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機械、石油・石油化学、石炭です。政府の委員会メンバーは、重工業の代表者によって占められており、その発言は化石燃料のバリューチェーンに沿ったものとなっています。一方、日本のGDP総付加価値の70%以上はサービス業によるものであり、実際には気候変動対策に積極的であるのにも関わらず、積極的に政策決定に参加する機会が得られていないことが分かりました。」

「日本のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応は、金融セクターを前進させる素晴らしいスタートではありますが、情報開示の質をチェックするためには、第三者による評価が重要です。そのために、私たちはFinanceMapを運営しています。開示内容がパリ協定に沿っているかどうか、また、どれだけ早く移行の準備ができているかを分析しており、特に北欧の年金基金は、この分野での私たちの活動に関心を示しています」。

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公正な移行への抵抗勢力

CICEROの上級研究員であるHåkon Sælen氏は、脱炭素化に対する抵抗勢力について、研究内容を紹介しました。

「クリーンなエネルギー転換に対する抵抗勢力は3つあります。1つ目は、既存の技術を基盤に持つ既存の利益団体です。歴史的に見ても、既存の利害関係者の力を削ぐことは、大きな社会変革には必要不可欠です。2つ目は一般市民。エネルギー価格の上昇に抵抗したり、風力発電に反対して自然保護を主張したりする例があります。また労働者としては、エネルギー転換は、グローバリゼーションやオートメーションに加えて、彼らの仕事に悪影響を与える要因でもあります。3つ目は、エネルギー転換に反対する政党の力です。」

「一般市民の抵抗は、より多くの情報を提供しても抵抗を軽減することはできず、むしろより多くの情報提供は拒否反応が強くなるリスクがあることが分かっています。重要なのは、彼らにとって受け入れられる公共政策を設計することである。」

政策決定には、多様な関係者が関わることが重要

Motherway氏は、目標設定の時期は終わり、今は実行すべき時期に来ていると指摘。 「各国政府が高い目標設定を発表しているのにも関わらず、温室効果ガスの排出量は増え続けています。政府による目標設定は重要ですが、今は実際に行動を起こすべき時です。より多くの行動を開始しなくてはならない。何もしないという選択肢はありません。」

長嶋氏は、政策決定の場に限られた関係者しかアクセスがない日本の現状を問題視。「政策決定者の構成が重要です。日本では、省庁内での議論の参加者は産業界に偏っています。主要大学の学者も少し参加しますが、市民社会からの参加はほとんどありません。問題は、草の根運動の参加者が意思決定者にアクセスできず、高い専門性を持つ人だけがテーブルについていることです」。

「若者グループが気候変動政策に参加しているのは素晴らしいこと。ビジネス界は、新しい世代を議論の参加者に迎えるために、テーブルの席を増やす必要があります。」

Sælen氏は北欧諸国では、意思決定に多様な人々が参加する仕組みがあることを紹介。「北欧諸国の一つの特徴は、労働組合が政策決定プロセスにうまく組み込まれていること。これは、脱炭素化政策や公正な移行を実現するための重要な要素。」 

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ナショナリズムの克服

最後のトピックとして、ナショナリズムの問題が提起されました。モデレーターの田中氏は『21世紀の人類のための21の思考』著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏の言葉「国民国家はグローバルな状況では譲歩する力が非常に弱く、よりグローバルな意識を持ったリーダーが必要である」を引用。どうすれば国際協力を促進できるのか?そもそも国際協力は可能なのか?

Motherway氏「IEAは、すべての国が互いのベスト・プラクティスから学ぶ場。しかし同時に、ナイーブになってもいけません。このレースは一人だけが勝つレースではなく、みんなが勝たなければ誰も勝てないレース。この転換期の中心となるのが国際協力であり、IEAはその場を提供しています。」

長嶋氏「日本では、政府や企業がこの分野で東南アジア諸国との連携を強めている傾向が見られます。この傾向が本当にネット・ゼロ・エミッションを目指すものなのか、それとも、気候変動に対する真の長期的展望を持たない単なる産業戦略なのかを理解しようとしています。国際協力が適切に行われているかどうかを注意深く見極める必要があります。」

Sælen氏「トランプ大統領がパリ協定を離脱したときに見られたように、ナショナリズムは確かに潜在的な障害です。しかし、投資家は国際協力を真剣に受け止めており、より多くの国際協力を求める圧力をかけることに成功しています。さらに、国際協力はもはや国民国家だけのものではなく、企業やサブナショナルな団体が国際交渉に積極的に関わってきており、よい傾向として楽観視しています。」

企業が需要サイド主導の移行に直面している一方で、国民国家は政策のバランスを取り、目標値や炭素価格などの調整に苦悩しています。

Sælen氏「消費者が需要サイドで非常に強い力を発揮していることは事実ですが、消費者に責任を負わせるべきではありません。政策を組み立てる責任があるのは政府なのです。」

最後までお読みいただきありがとうございました。

議論全体は、ぜひこちらの録画よりご覧ください↓

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