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奈良さんとしげみさんと県美

2月10日(日)久しぶりに青森県立美術館に行ってきた。奈良美智「The Beginning Place」タイトルでもうすでに泣きそうになる。

私の青春は、奈良さんの作品とともにある。青森は、今現在、東京に住む私にとっても生まれた場所であり鬱屈とした青春の場所「The Beginning Place」なのだ。

奈良さん作品とは10代後半に出会って、本を買ったり展示があれば遠くてもほとんど見に行った。初めて買ったSlash with a knife は、生まれて初めての乱丁本(正確には乱丁ではなく、インクの塊が挟まっていた)だった。インクが石炭のように固まり、穴が空いていてズキュンと撃たれた感じが気に入り、交換せずに今もそのまま持っている。


ズキュン 


おそらく私だけではない多くの方が、奈良さんの作品に自分を重ねているのではないだろうか。私はとにかく青森時代ずっと鬱屈としていた。そんな自分を芸術の力で救ってくれたのが奈良さんだった。そもそも青森からドイツに留学するようなハイカラな人がいることにびっくりした。やっぱり弘前すげーと謎の憧れを抱いた。そしてこんなポップでロックな表現をしているなんて田舎者のわたしにとってどれほどの衝撃だったことか。
 私は昔も今も、深い深い水たまりという作品が大好きだ。頭に怪我を負って包帯ぐるぐる巻きの女の子。体の向きと顔の向きが逆で、しかも腰まで水の中に浸かり動きづらそう…あぁ、ものすごくわかる。これ私じゃんと、何度思ったことか。今回改めて作品を見て、しみじみ自分もこの子も抱きしめたい気持ちになった。相変わらず私は今も、深い深い水たまりの中にいる。

深い深い水たまりⅡ

青森県立美術館がオープンした時、私はテレビ局の下っ端カメラマンをしていた。連日ロケやら中継で、美術館にお邪魔していた。できたばかりの県美は、独特の匂いがしていた。アレコホールのシャガールの幕は、とにかく大きくて標準レンズで引ききれなくて撮りづらかった。モタモタしてよく先輩に叱られた。真っ白い壁と白い雪。アイリスオーバーでまた叱られた。
ロゴタイプやVIも本当に素晴らしくて、青森にも文化が来たと(必死の撮影の合間に)心の中で感動していた。
 あれから18年近く経ち、県立美術館の手すりやお手洗いの平べったいシンクはところどころ錆びていた。自分に白髪か生えてきたように、県美もとしをとったなぁと親近感が湧いた。
今回の展示は、月並みな言葉でなんだが、本当に素晴らしかった。県外からの観光客も多かったけれど、地元のおじいちゃんおばあちゃんが見に来られている姿がとってもよかった。覗き込んで見るような展示では、遠慮して後ろからチラリと見ておられるので、どうぞどうぞお近くでといざなった。老若男女、本当に愛されている作家なんだな。
 県民に愛されている作家といえば、もう1人私の大好きな棟方志功である。今回、奈良さんと棟方の作品がコンセプトを持って並んでみられるなんて、大感激だった。こんな展示、高橋しげみさんしかできないキュレーションだと思う。高橋しげみさんは県美の学芸員さんなのだが、しげみさんと気安くお呼びする立場にはなく、一方的に存じ上げているだけである。(テレビの仕事をしていると編集で何時間も顔を見ていると勝手に知り合いだと思い込んでしまう)県美オープンの時はかなりメディアにご出演されたのではないだろうか。インタビューなどで、何度もお世話になったし、しげみさんが解説される棟方作品(二菩薩釈迦十大弟子と大和し美しが特に好き)の解説には愛があって、秀逸で、さらにとても真面目な語り口が大好きで、ずっと覚えていた。今回、そんな高橋さんが奈良さんの展覧会を手掛けられていて、個人的にはもう叫びたいくらいたまらなかった。だって、ロック喫茶 33 1/3を作ろうなんて思いつかないよ。

棟方志功と奈良美智作品の饗宴

語り尽くせぬこの感動。ちょうどいま私自身が路頭に迷い、精神的に辛い時だったので、土地と作品と人の良い気を浴びて、とても生き返った。

最後にこの展示の図録がまた素晴らしいので、ご紹介したい。私のお気に入りは、高橋しげみさんの解説「はじまりの場所へー 東日本大震災後の奈良美智」と、奈良美智×蔵屋美香(横浜美術館館長)の対談である。蔵屋美香さんのインタビューがまたお上手というか、理解が深くてとても勉強になった。奈良さんはきっとこういう信頼できる方達と長くお仕事されているんだなと感じた。最近の個人的テーマである「深く自分を知る」ためのヒントというかお見本のようだった。
あっという間に青春時代は過ぎ去り、中年になってもなお深い深い水たまりでもがいている。なかなか抜け出せない(抜け出す気のない)センチメンタリズム。いっそこのまま潜ってみようか。


見応え、読み応え、圧巻の図録
大好きな部屋
あおもり犬

作品との距離もすごく近く、ガラスもほとんどないため、作品と会話をするように触れ合えます。これが本当に素晴らしいので、会期終盤ですが、行ける方はぜひ!奈良さん、しげみさん、県美、お客様、スタッフさん、ありがとうございました。

#奈良美智 #青森県立美術館 #高橋しげみ #蔵屋美香

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