居眠り君:日本語を勉強したくないけど仕方なく・・

日本語をやむを得ず勉強しているひと、というのは私の生徒には基本的にいません。特に北米やヨーロッパの方で日本語を習っている方は、趣味で習っている人がほとんどなのではないかと思います。日本語が好きで習っている人とのレッスンは楽しいし、私にとっていい刺激になります。
つまり私は今まで楽しいレッスンしかしたことがなかったのです。
ただ、最近ついに日本語をやむを得ず勉強している生徒に出会ってしまいま
した。もちろんモチベーションはゼロです。

最初から雲行きは怪しかった

北米在住の男子中学生(R君)で、8月のトライアルから様子がおかしかったのです。声が異様に小さい、英語で質問をしても反応が極端にうすいといった具合です。その時は、お年頃だし恥ずかしいのかなと思って、明るく接していました。その後、お母様からメッセージがあり、JLPT5級に12月に合格したいとのこと。「通常30-40回程度のレッスンで合格できますよ。もちろん週に数時間程度の宿題はしてもらいますけど」とお答えしました。
直後に週に4回のレッスンを予約していただけました。JLPTまで4か月あり、60回以上のレッスンを受けることになります。仮にR君がレッスン外で勉強をしなくても、JLPT5級は余裕だろうと安心していました。

レッスン中に寝ている

初期のレッスンは、R君の住んでいるところの現地時間で昼間に入っていました。学校の休暇中だったようです。覚えるスピードはかなり遅く、何とかひらがな、カタカナを完了。ひらがな、カタカナ習得に時間がかかる人はたまにいるので、そんなに心配しませんでした。
私にとって初体験だったのは教科書を本格的に使い始めてからでした。
げんきを使って文法の学習を始めましたが、「私の後について繰り返してください」という指示も無言を決め込むことが多く、読み始めても極端にゆっくり読むので一向に進みません。

居眠り開始

そして、学校が始まると朝6時にレッスンの予約を入れ始めたのです。最初間違いかと思って確認しましたが、ほかの時間は忙しいとのこと。
R君は時間通りレッスンルームに入りますが、目をつぶってごにょごにょしゃべることが多いです。また、寝転がっているのか体勢が極端に悪く、徐々にカメラの枠外に沈んでいます。目を覚まさせようと、音読をさせたり、簡単な質問をしたりして声を出させますが、こちらの聞き取れない声でごにょごにょ答えたり、黙りこんだり、音読は数文字を読んで、その後どこを読むのかわからずに黙って、寝ると問題行動が目立ちました。
何かが明らかにおかしかったのですが、「お年頃だから」と思いレッスンを重ねれば信頼関係ができR君も話しやすくなると思って気長に待っていました。

目を開けてレッスン受けてね

プライドが高くて、分かったふりをして質問を一切しない、宿題を一切しないなど授業がスムーズとは言いがたい生徒は今までに何人もいました。それでも、私がサラッっとヒントを画面に出しして正しい答えに導いたり、語彙を一緒に復習したりでレッスンはゆっくりでも前進していました。
ただ、R君は10回以上レッスンを重ねても。「わたしについて繰り返してください」という指示にも無言を決め込む、教科書の音読も異様にゆっくり読む、といった感じでレッスンが一切進まないのです。
R君に私の指示は聞こえているとわかっていながら思わず "Hello?""Are you there?", "Can you hear me?", "Is everything OK?" (「もしもーし」、「いらっしゃいますかー」「聞こえてますか」「何か問題ありますか」)と半ば嫌味な質問をぶつけてしまいました。
何回かは”Can you please open your eyes?”(「目を開けてレッスン受けてねー」)といってしまったこともあります。
それに対する反応も小声で"Yeah"または無言で軽くうなづくだけです。
覚えるスピードがゆっくりな生徒にイライラしたことはありませんが、1時間この調子だとフラストレーションがたまり、生徒に嫌味をいう自分が嫌になってしまいます。
何度か、具合が悪いのか、どうして日本語を勉強しているのか(英語で)ききましたが、明確は答えは聞けず、無理やり聞き出すのも嫌だろうと思いレッスンに戻っていました。

親御さんとお話し

10回目ぐらいのレッスンから親御さんと話すことも考えたのですが、親に告げ口をしてさらに心を閉ざされてもと思い、30回ぐらいのレッスンが終わってしまいました。R君は律儀に出席はしますが、30回のレッスンでGenkiの4課、動詞の過去形がやっと終わったところです。一般的な生徒の3倍以上の時間がかかっています。
ここで、R君のお母さんからトライアルレッスンの時ぶりにメッセージがきて「Rはどう?12月のJLPTに受かりそう?」と聞かれました。このタイミングを逃したら終わりだと思い、「進捗が遅く心配している。R君もレッスン中とても眠そうにしている。良かったら一度お母様と話したい」と返事をして、お母様との面談が実現しました。
20分ほどのお話しでしたが、ざっくばらんにお話をして、数学とフランス語もオンラインチューターに習っているが進捗に問題はない、ベッドの上でレッスンを受けていることはお母さんからも日ごろから注意している、お年頃なのでお母さんがレッスンをずっと見張っているわけにもいかないが、授業態度に問題があることはうすうす気づいていた、というお話が聞けました。そしてどうも日本語の勉強はお母様のアイデアだということも分かりました。既にフランス語、英語、中国語が話せるので、もう1か国語を初歩レベルでもいいから話せるようにするのが親御さんの希望らしく、言語をR君に選ばせたら日本語だったそうです。ここで話が繋がりました。

いやいやながら一番楽な選択肢が日本語

以前にR君から何とか聞き出した日本語を学習している理由というのが「中国語に似ているから」だったのです。やる気が出ないわけです。日本語の初級レベルでは、中国語の知識が役に立つことはそんなにありません。長文の読解などでは漢字を知っていると有利ですが、R君はもちろんそのレベルに達していません。
解決策は見つかりませんでしたが、お母様には「朝6時のレッスンで眠そうに見えるから、ベッドではなくデスクでレッスンを受けるようにお話ししてください。私もR君のモチベーションが上がるようにレッスンの方法を考えてみます」とお伝えして終了しました。

ちょっとだけ改善

どうもお母さんからお叱りがあったらしく、その後数回の授業はデスクで受けていました。授業中寝ていないといだけで、一応レッスンはゆっくりながら進むし、まあまあだったのですが、案の定その後数回でまただらけてしまいました。

意外だった打開策

実はR君とのレッスンはここ数回順調です。JLPTの日が近くなったので「げんき」を使うのをあきらめて「日本語総まとめ」を使い始めたのです。「日本語総まとめ」はN5の漢字の学習からスタートです。R君の得意分野です。すいすい進み、これでモチベーションが付いたらしく、このペースで進めば一応試験範囲をカバーできそうなのです。まだ油断なりませんがひとまず、私のストレスは減りました。
もっと早くに、いろいろな方法を試せばよかったと思います。
(2023年1月追記:ゆっくりながらJLPT対策本を終わらせることができ、12月に受験、1月末に合格の報告がいただけました!)




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