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死に損ないのくたびれ儲け

それは何の前触れもなく突然やってきた。
明け方3時くらいから発熱。40度近くある。どうかしたんだろうか。
翌日、今年度から引き受けたテレビ局の審議委員の最初の会議があった。
そのことで私は緊張していたのかもしれない。だって、あたしだよ。
有名大学出の何かキャリアがあるわけじゃなし、ボンクラと言われ続けて58年。
今更何もどうも変わりようもなく、健康だけが取り柄だったものの、それも38歳で叶わなくなった我が身を振り返ったところで、どうすることもできない。子宮がんになったことを今更悔やみたくないし、まさかの10年後に発症した後遺症と共存。そんなでも生きている。生きるためにあたりまえに生活もするし、仕事もする。ジャないと、カナダでの就労を無事終えて帰国できなかったし、その後に呼ばれた冨永組の白鍵と黒鍵への参加も難しかったであろう。子宮がんの後遺症であるリンパ浮腫と共存して生きている、それが今の私。左側の下肢にリンパ液が滞って起きる浮腫みを抱えて生きている。予防のためにリハビリに通院し、普段は着圧のキツイ弾性ストッキングや装備具を装着している。気をつけるべきことは、肌に怪我をしない、虫刺され、日焼けも同様。そして疲労やストレスを溜めない。そんなこと無理!という毎日だった。
しかもその上、ボンクラなのだ。もう致命的である。ニャー。


熱が一向に下がらないので、いつものようにジスロマックを投与。
大抵はこれでどうにかなる。でもこれは喉の炎症の場合。なのでこれも効かない。ロキソニンを服用。ちょっと熱が下がるもまたすぐ上がる。そして悪寒が始まる。どうかしたんだろうか。思い当たる二、三の事柄を考えるも、熱と悪寒でどうにも脳が働かない。それよりも会議だ。会議はどうする。初回なのに局へ行けないとはなんという失態。明け方家人を起こして相談に乗ってもらう。家人は初回の会議に出席しないことでの先々のことを懸念していた。しかし発熱があってはこのご時世入館不可能であろう。朝を待つ。そして、担当に連絡。初回だがzoom参加に切り替えていただく。それでも怪しいがどうにか頑張れるはず。ロキソニン服用。冷や汗と悪寒。吐き気。それでも何とか洋服に着替えzoomで参加。途中嘔吐もありつつ何とか会議終了。本当ならばここで緊急に病院へ行けばよかったのだが、会議が終わった安堵と翌日の仕事のことで頭がいっぱいだった。今日またジスロマックを投与してロキソニンで乗り切ろう。震えと悪寒と発熱と嘔吐で呪われた夜を過ごす。朝、ふらふらの状態だけどロキソニンで解熱。どうにか解熱し、仕事場へ。いつもなら自走するがタクシーに乗る。自走出来ぬほど視界が朧げで揺れて斜めっていた。タクシー降車し、道にまよったのか、仕事場まで彷徨う。なんとか辿り着いたものの、ボンクラゆえ、日にちを間違えてしまった。仕事は翌日だった。よし、このまま病院だ。まずは解熱だ。ロキソニンをまたまた今度は2錠服用。体温計は36度後半。何とか病院へ滑り込むも、どうももうおかしい。私という生命体の全てに力が入らない。そこを何とか血液検査へ。結果が出るまで待たされるのだが、イッタンモメンのように薄々ヒラヒラで椅子に座っていられない。そのまま別室の治療室で休ませてもらう。

血液検査の結果は白血球18000以上、炎症反応も30という異常値だった。途端に医師や看護師たちがバタバタと動き出し、点滴を始めた。どうもみんなの行動が忙しない。我が身に何が起こっているのか?すると、入院という言葉が飛び交う。冗談じゃない、明日仕事場に行かねばならない。今日はひとまず帰りたいと主張。医師たちは呆れ顔だった。こんな瀕死な状態なのに?そんな状況を理解してないのは私だけだった。死にそうだとかピンと来なかった。白血球とか炎症反応とかもよくわからないほど苦しさの向こう側でひとりぼんやりしてた。あとで、医師が言うには、あのまま帰らせるわけには行かなかった、もし帰ったらもうお亡くなりになられても仕方のない状況でした。だからどうしても緊急入院して処置を早くしたかったのです。と。身震いした。


私の病名は蜂窩織炎が悪化した丹毒だった。

リンパ浮腫が悪化してしまうと、リンパ液が下肢に溜まる。
そこにばい菌が入ると温床になりそこから培養され体中に菌が回る。
やがては血中に入り敗血症になってあっという間にご臨終というわけだ。

そんなことって、まさか? あるのだ。
一瞬、真っ白になった。また死ヌ寸前?もう自分が死にたい時に死にたいわけで今じゃないだろう。でも死は何の予告もなく向こうから勝手にやってくる。こうして私が観念しているを待っているのだ。




仕事をリスケ。全てリスケ。私はすぐに緊急入院した。
血液培養検査のため、瓶に2本も血を取ったがもう悪寒と呆然で訳わからなかった。そこから毎日朝も昼も夜もずっとずっと抗生剤の点滴でばい菌との戦い。病院側だって死なれちゃ困る、何とか生き延びて欲しいわけで。トイレにも行けず安静の日々。ナースがすぐに飛んでくるような1人の部屋だったが、熱やら何やらで部屋全体がカオス。変な夢と幻と看護師と天井と壁と医療器具の音、音、音。ばい菌と戦っているのか何と戦っているのか毎日カオスだった。頭が何か熱帯の虫か何かに突かれたように痛かった。下肢は真っ赤に腫れ上がり、まだらな発疹。熱が引かないので絶えず冷やしていた。皮膚下の奥にばい菌が入り悪化してしまうと下肢を切ることもあるそうだ。まるでクローネンバーグのボディホラー。とにかく連日連夜の点滴。点滴棒との日々。1週間くらいだろうか、抗生剤と輸液の集中攻撃でばい菌はいなくなったようだった。戦いは終わった。本当にゲリラ戦のような戦いだった。心配された敗血症もその手前で済んだからよかった。



習慣性になると言われ、ちょっと気になった。一体どこからばい菌が入ったんだろう。感染ルートを追跡。私は手術で膣が人よりも短く放射線治療で被曝しているので、もしかしたらそこが弱くなってるせいか。たまに出血があったりもする。それか虫に刺されたか。探したが虫に刺された跡もない。ばい菌は空気中にいる。ストレスや疲労が溜まって免疫が落ちるとすぐにひょっこり入ってくるともいう。ああ、もう嫌だ。無敵な体が欲しい。
でも、治ったのだ。SNSで発信した私の言葉を勝手に組み立てて一体誰が書いたのか入院の記事が出ていた。AIか。事務所にでも聞けばいいのに。全部私の発信した言葉が流用というか引用されいた。なんかとても奇妙な気分。
早くに治療できたおかげもあってか今、おかげさまで私は生きている。
でも本当に危なかったと医師は言う。年間に2、3人しか運ばれてこないレアなケースだとも。一日放置してたらあっちにいってたわけだ。信じられないけど。

のちにリハビリの担当にも事情を話す。
深刻な問題だと説明を受ける。蜂窩織炎は部分が小さいが、今回は炎症の範囲が広すぎた。もしかしたら、リンパ管がもうダメになってるのかもしれない。
一度リンパ結合術も視野に入れて予防について考えることも範疇だ。
そして、何より、カナダでもこの足の予防でリンパセラピーにも通ったが、海外でも下肢リンパ浮腫に関しての認知度が浅いこと。もっともっと世の中に知ってもらいたいと思った。共存しなければならない体のリスクとして、もっと知ってほしい。ヘルプカードをアクセサリーみたいにぶら下げているわけでもないのだ。それでも、頑張れる時は頑張りたい。だから階段も頑張って昇降するし、水泳もする。就労も諦めたくない。生活のクオリテイを下げたくもないから、頑張ってこのリンパ浮腫と生きていきたい、生きるのだ。そういう意味では、いつも励ましてくれる医師やリハビリ療法士たち、そして理解の深いスタッフ、カナダでの就労でも将軍のスタッフは本当によく理解して下さったし、私がどうしてもこの役を演じたいという意思を何より尊重してくださった。冨永組の日本でもそれは然り、私の演技を必要としてくれたことに心から感謝している。



でも、これで本当にいいのか。
ふと考える。
誰が私のこんなことに、一時的な同情はしても、リンパ浮腫などどうでもいいわけで。自分がなってないなら、それはどこ吹く風で。どうでも何も関係ないわけで。私が仮に、また蜂窩織炎や丹毒で死に損なったところで、それも一瞬、あゝと思うかもだけど、私の存在などジリジリとおしくらまんじゅう的になくなるわけで。
本当、人なんかあっけなく、逝く。
ストレス疲労を重ねれば病が忍び寄り、疾患リスクを抱えれば、免疫なんか落ちて治るもんも治らない。怪我や事故や何かしらが突然やって来てあっちゅうまにむこう側へいってしまう。
生と死はコインの裏表、表裏一体なのだ。
みなさんもおきをつけなされ。糖尿病や心臓、リスクが大きくなるとなかなかQOLも大変だ。
そして、今や死に損ないの私は、死に損なってくたびれ儲けだ。

さあ、口角あげて。
生きる。
普通に呼吸して、朝を迎え昼を生きて夜に眠る。演じて書いて私は今を生きてゆく。
くたびれ儲けも生きてりゃいられるだけで、
丸儲け。笑って食べてうたうように私は生きたい。

寄り目でみて立体視
冨永組『白鍵と黒鍵の間に』10月公開
退院して直ぐの私はこんなに元気
池松壮亮氏、私、冨永昌敬監督と



Shogunオールラップの一枚
カナダで約9か月帰国もせず
とにかく頑張った
作品がみなさんに届き長く愛されるといいな


リンパの図と私
私はもっと知りたいしもっと共有したい
悩んでいる患者と医療と世界をつなげたい
それこそリンパ会議をしたり
ケアに関するデモンストレーションや
装具などの控除など
しっかり轍を踏んで作り残したい




注意 ここからの引用はもうしないでいただきたい。何かあれば事務所へご一報をよろしくお願い申し上げます。






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