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芸術鑑賞 「女性画家たちの大阪」中之島美術館

気になっていた美術展に行ってきた。最高だった。

何がって絵が素晴らしいのはもちろん、音声ガイドや展示の姿勢にフェミニズムが溢れていた。

・社会の美しさの定義(ルッキズム)に挑戦する作品、
・若さと美への執着(ルッキズムの内面化)を批判的に表現するもの、
・女性の内面的な感情を巧みに表現し、主体としての女性を描いているもの、
・手仕事など(被写体の女性が他者からの視線を気にしていない)自然体の瞬間を切り取ったもの、
・自画像など日本画には馴染みの薄いテーマに挑戦しているものなど、

これなら「女性ならでは」と言われてもわたしは納得する。

描き手がなぜそのテーマを選んだのか?
なぜそのような技法を使ったのか?を想像すると大正から昭和の初めに生きた女性画家たちと心を通わせたような幸せな幻覚に浸れる。

「そうだよねー」って。

私がフェミニストなので、どうしてもフェミニズムを感じられる作品に心もっていかれる。

さらに作品発表当時の世間の反応のクソさも音声ガイドで知ることができて、それもよかった。こういう背景などを研究された研究者に心からの敬意とエールを送りたい。

特に島成園(しま せいえん)の「無題」に対する揶揄は露骨な女性蔑視で気持ち悪い。

「求婚広告 年齢28歳、月収三百円以上あり、本人に痣はなし、右の女に養子婿なる男求む」と書かれたのだ。

女性の平均結婚年齢が21歳の時代に28歳というのは年増(行き遅れ)と言いたいのだろう。

平均月収が30-60円の時代に300円以上は10倍だから、大金持ちである。

島成園の月収が実際に300円以上あったのか分からないが、「逆玉の輿だ」と強調したいのだろう。

わざわざ本人に痣なしと書くのは、ルッキズムど真ん中だ。痣のある女性は結婚しづらかったのだろう。

それがまさに絵のテーマなのだ。この伝わらなさっぷりがすごい。

今の日本社会でも、妻の月収の方が夫の月収よりも高いとプライドを保てない男が多いのに、大正時代はそんな男がもっと多かったと推測する。

そもそも女性はみな結婚したいはず、(そしてみな異性愛者)という決めつけが大前提の揶揄だ。

島成園を傷つけようという意図がありありと感じられるが、女はみな同じように考えると女を一括りにすること自体が貧相な思考だ。

とはいえ、大正時代は生涯未婚率が5%未満だったから、50歳以下の男女の95%は一度は結婚していたのだ。

ちなみに現代の生涯未婚率は男性28.3%、女性17.8%らしい。
今でも未婚の男女はまだまだ肩身が狭いと感じるかもしれないが、
5%未満だった時代と比べるとプレッシャーは段違いだろう。

木谷千種(きたに ちぐさ)が八千草会(やちぐさかい)の設立に際していった言葉がシスターフッドに溢れていて泣けた。

650円の音声ガイドを借りて是非自分で聞いてほしい。わたしは4回も繰り返し聞いたよ。そして聞き取ってメモとった。

「ただいまでは、女として絵を習うのは格別難しくないことですが、その基礎となる美学とか歴史とかいうようなものを女に教えるというのは不自由でありますから、わたしはこれを思い立った次第であります。(中略)私は何でも婦人はお互いに手をとりあって助け合って進まなければ到底男子たちと伍していけないと、このごろことに切に感じるようになりまして、できるだけ私は生徒たちの便宜を図る心になっております」

女の子がなかなか高等教育を受けられなかった時代だったから、絵を描こうにも、教養なしには歴史的なテーマを扱うことが難しかっただろうと思う。

その女性たちに教育の機会と教養を提供しようとする気概に感動しちゃう。

音声ガイドは俳優の木南晴夏さんの声で、関西弁のイントネーションもいいし、低めの声が解説内容とマッチしていて耳に心地よい。

作品数はおよそ100点ほど。
そのうち半分くらいが前期と後期で入れ替わる。
前期もあと一週間ほどなので、早めに行ってほしい。
わたしはもちろん後期も行く。

決定版!女性画家たちの大阪
場所:大阪中之島美術館
会期:2023年12月23日から2024年2月25日
  前期 2023年12月23日から2024年1月21日
  後期 2024年1月23日から2024年2月25日


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