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番外編:マッカーシズムの失敗を踏まえて考える、ナイキは共産主義者かどうか?

前回のコラムでは、マッカーシズムの失敗について検証しました。せっかくですので、その失敗を踏まえて、私自身、”ガーシー”ならぬ、”マッカーシー”してみたいと思います。

■マッカーシズムの失敗は、共産主義を理解し切れていなかった!? : 日本人が知るべき赤いアメリカ(5)

前回コラムを3分で

今回のコラムに関係する、前回のコラムの内容の抜粋となります。すでに読んでいただいた方は飛ばしてください。

フーヴァFBI長官による共産主義者の分析

フーヴァFBI長官による共産主義者の5分類
1)公然の共産党員:共産党に所属していることを公表した上で、活動している
2)非公然の共産党員:共産主義者であることや、共産党員であることを隠し、共産党の秘密活動に従事する人
3)フェロー・トラベラーズ(党の同伴者):共産党とは関係なしに、自発的に共産党を支援する人
4)オポチュニスツ(機会主義者):自己の利益確保が目的で、一時的に共産党に協力する人
5)デュープス(騙されやすい人):一見、イイコトに見える(聞こえる)、共産党やその関連組織のキャンペーンに共感して、知らず知らずのうちに共産党に利用される人

ナイキ関連の情報

2020年にオーストラリア戦略制作研究所は、新疆ウイグル自治区に住むウイグル人の強制労働に関わっている企業として83社の実名を挙げましたが、その1つがナイキでした。

前回のコラム

ASPIの報告書にあった、奴隷労働を使ったナイキのケーススタディ:
ASPIの報告書で掲載されているケーススタディでは、強制労働の実態をわかりにくくしている、巧妙な正体隠しスキームが明らかにされています。

ナイキが取引している青島泰光制鞋有限公司は、中国の山東省青島市にあり、この会社の親会社は韓国のコングロマリットTaekwang Group
です。この工場に新疆南部のホータン県とカシュガル県出身のウイグル人が送り込まれいるのだと言います。

ASPIの報告書(https://www.aspi.org.au/report/uyghurs-sale)より

❸巧妙な正体隠しスキームに気が付けなかった可能性
(前略)
新疆ウイグル自治区の住民を強制労働させていると言っても、その工場が必ず新疆にあるわけではありませんし、一見、中国共産党とは無関係そうな外国資本の会社をフロント企業に使っているケースもあるのです。
仮にナイキが「自分の取引企業は韓国であり、新疆の強制労働問題とは関係ない」と言い切ってしまえば、命がけの内部告発を待つ以外は、証明が大変困難になります。実際、ナイキは、ASPIの調査に誤りがあるというような発言をしていました。
しかし、報告があった同年11月、ニューヨーク・タイムズ紙は、米国議会で議論されていた「ウイグル強制労働防止法案」について、ナイキやコカ・コーラ、アップルが議員に働きかけ、法律発効時の効果が弱まるように条文を修正しようとしていると報じていました。ナイキは同紙に対し、ロビー活動を否定したものの、議会側との”建設的な議論をしている”と微妙な回答。とは言え、この件についても、ナイキが実際どうか?というこれ以上の証明は、なかなか難しいかと思います。

前回のコラム

検証:ナイキは共産主義者か?

ナイキは共産主義者ではなかったと仮定する、と?

検証の前に。ナイキが、強制労働を行うような企業との付き合いもなく、人権を守ろうとする法案に反対するロビー活動もしていなかった・・・つまり、ナイキは共産主義者ではなかったと仮定します。

ここ近年のナイキは、高い人権意識があり、様々な社会問題に関わろうとする態度が見られるWOKE(意識高い系お目覚め)企業としての様々な活動が知られています。その活躍は、アメリカ国内にとどまらず、世界各国で、あらゆる人種差別がないか、少しでも疑いがあるようことがあればそれを誇張して”CM”の形で社会に問題提起します。日本でもいろいろあったかと思います。

ナイキのこの手の活動の支持者たちも、それが社会全体に横行している大きな問題かどうかということよりも、重要なのは問題提起することだと主張していました。ここでは一旦、この手法を「あり」とします。

さて、前回コラムの事例でも取り上げた、中国でのウイグル人の強制労働問題についてです。強制労働の問題は、健康や生命の危険があるレベルでの特定の人種に対する人権問題です。対象となっているのはウイグル人だけではありません。共産党に邪魔になった特定のグループは、再教育の名の下、強制労働を強いられていると言います。共産党自身に認めさせるほどの具体的な証拠を、外部の人間が入手するのは無理である以上、具体的な証拠をあげての事実認定は、困難なことかもしれません。
(ASPIの報告書だけでなく、国際機関や、各国政府は事実認定しているという事実は一旦横に置いておきます。また、ナイキの下請け工場が外国人への監視が厳しい新疆ではなく、青島にあり、工場に行けばそこにウイグル人のグループが働いているかは一目瞭然であり、中国にある子会社のことを韓国の親会社に調査させれば良いのでは・・・ということも横に置いておきます)。

しかし、ナイキが問題視している人権問題は、その社会に大規模に広がる差別問題ではなく、個人が受けた差別体験談をベースにしたもので、”問題提起”こそが重要だと言います。小さな問題も見逃さず、社会問題として取り上げることこそ、意義があるのだ!っと、ナイキ支持者はおっしゃっていました。

ウイグルをはじめとする特定層に対する強制労働等の弾圧は、たまたま一部企業が行なっていることで、中国全体の問題ではないとします。それでも、世界に実情を知ってほしいと、個人の辛い体験談や、自らや家族の置かれた命の危険な現状をシェアする活動を行う個人は中国にたくさんいます。ナイキが求める個人の体験談は、問題なく集めることができるのです。

ナイキさん、今こそ、問題提起をするべき時です!
彼らの体験をベースにしたCMを制作し、中国国内でCM放映することで、
中国社会に広く、問題提起をしたらよいのではないでしょうか。

人種差別について問題提起したCMが放映されたのは、2020年のことです。2022年の北京オリンピック前には、人権を重視する人・組織は、何らかの形でオリンピックをボイコットし、意思表明を行なっていました。

さて、ナイキの中国版・人種差別問題提起CMはいつ放映されるのでしょうか?

最初に”ナイキは共産主義者ではない”と仮定しました。そうすると、ナイキの、ウイグル人の強制労働問題に対する反応はあまりにも鈍すぎるのですナイキは90年代にも、インドネシアやベトナムの児童強制労働で批判を受けていて、低コストのための人権を無視した企業活動に対する批判は、今回が初めてではありません。
ヴェイパーフライ等、速く走れるマラソンシューズを売り出している企業として、この反応の鈍さは、企業イメージとしてどうでしょう。

利益追求のためのダブスタか?

中国国内の人権問題について、今のナイキがCMを作成することは絶対にあり得ないことです。ナイキにとって中国は、超重要なマーケットだからです。ナイキだけではありません。

アメリカのスポーツ関連企業にとって、中国は重要なお客様。

2019年、NBAのヒューストン・ロケッツのダリル・モーリーGMが、香港で続く反政府・民主化デモを支持するツイート(「香港の民主化デモを支持します!」くらいの内容)をしたところ、中国で大炎上。発言したGMの謝罪だけでは収まらず、ロケッツの試合が中国国内で放映中止に追い込まれたり、NBAが会見を開いたり・・・と、大事件のようになってしまったことを、ご存知でしょうか?

この時、”ドコ”とは報じられていなかったと思いますが、アメリカのスポンサー企業からも、NBAやヒューストン・ロケッツにかなりの圧力がかかったそうです。ちなみに、モーリーGMは2020年10月、”円満”退団を発表しました。両者は2019年3月に、5年の延長契約に合意したばかりだったのですが・・・。さらに、モーリーGM在任中の成果は次の通りで・・・だからこそ2019年に契約延長が決まったのだと思うのですが・・・。

ロケッツはモーリーの在任中にプレイオフに10回進出8シーズン連続のプレイオフ出場は現在のNBAで最長の数字となっている。2015年と18年にはウェスタン・カンファレンス・ファイナルまで勝ち進んだ。2017-18シーズンには、球団記録のレギュラーシーズン65勝をマークしている。

https://www.sportingnews.com/jp/nba/news/statements-regarding-houston-rockets-general-manager-daryl-morey/16nec1ob8ahdx105pjp3seu1o6

そう言えば・・・。

香港でも弾圧を受けた民主活動家はたくさんいますが、
彼らの体験談をもとに、ナイキは”問題提起CM”を作らないのでしょうか?

”ドコ”(ロケッツやNBAに圧力をかけた企業)の中に、ナイキが入っているかどうかはわかりませんが、炎上当時、北京のナイキショップからは、ロケッツ関連グッズが撤去されたという話もあります。先ほど、「”ナイキは共産主義者ではない”とすると、ナイキの、ウイグル人の強制労働問題に対する反応はあまりにも鈍すぎる」と述べました。しかし、「民主活動の支持ツイートで、中国を怒らせたロケッツ関連グッズを撤去する」という、その真逆の反応は、逆に素早いものだったのです。さすが俊足シューズの開発者!

というわけで、ここでまず断言できるのは、ナイキが人権問題に関わる姿勢は、ダブルスタンダードだということです。そして、そんなナイキを擁護する論調は、「中国の巨大市場を前に、民間企業は苦しい立場に追い込まれている」というようなものでした。

果たして、それだけそうでしょうか?

ナイキが利益追求のために、ダブスタな態度をとっていることは事実です。しかし、ダブスタをとるナイキの目的が利益追求だけか?と言われれば、少し違うように思います。

人権問題を悪化させる懸念のあるダブスタ

ナイキのダブスタぶりについてもう少し深掘りしていきます。

ナイキがWOKE系CMをアメリカや日本では流すのは、それがお金になるからであり、中国で流さないのはお金にならないからです。民間企業が営利を追求するのは当たり前のことで、利益追求自体は問題ではないどころか、それが民間企業の存在意義かと思います。

問題は、いかにも社会正義のために闘う企業を装っているところです。いっそ「WOKE系CMは、ナイキのマーケティング戦略なんです!売れればなんでもいいんです!」と言ってもらえるとスッキリしますが、あくまで正義を貫いているていであるため、社会に誤ったメッセージを届けることになります。

例えば、私が共産党員だったとして、中国の人権弾圧事件について追及を受けたとしたら、次のような”論破”を試みると思います。

「ナイキのCMを見てください。
アメリカや日本みたいな野蛮な国では、人権差別なんて起きていますが、
そういうことは中国では起きていないのです。
だから、ナイキのWOKE系CMに、中国に対する問題提起はないのでしょう?」

特に”あのナイキだよ”という部分は強調すると思います。

「小さな差別ですら見逃さない、人権意識の高いナイキですよ。
そのナイキが中国には人種差別がないと言っているのだから、
中国で人権弾圧が起きているなんて、とんでもない話!」

ナイキとしては、自社の利益確保のために、”CMの素材にしない自由”を発揮しているだけなのかもしれません。しかし、このようなダブスタの態度ーー他の国に対して問題提起していることに対して、中国では目を瞑るという態度ーーは、「中国国内には人権問題がない」という誤ったメッセージとして利用されかねません。

人権を守る意識が高いと称するナイキの態度が、最も深刻な人権問題を抱える国の人権問題を悪化させることにつながる懸念があるとすれば、ナイキは一体何をしたいのか?という疑問が生じます。

実際に共産党がナイキのダブスタCMを使ったプロパガンダを行なっているかはわかりません。しかし、この手の論調は、中国ではよく聞くものです。

ナイキWOKE系CMの闇

さらにこの問題を深刻にさせるのは、ナイキの資本力と、ナイキが問題提起に使う、CMという媒体の形です。

民間企業はなぜCMを流すのでしょうか?

記憶に残りやすいキャッチコピーや、印象深い絵柄、親しみやすいキャラクター、タレントの魅力等を活用することで、商品やサービスを印象付け、そして、覚えてもらうためです。繰り返しCMを流し、商品やサービスを”目にする””耳にする”機会を増やしていくことで、信頼感を増すことができるという効果もあります。聞いたことのない商品よりも、聞いたことのある商品の方が安心できるのです。

とはいえCMにはコストがかかります。しかし、企業に資本力があれば、繰り返す回数や範囲を広げることができますから、さらに高いCM効果が期待できます。これをとても嫌な言い方で言い換えると、CMには資本力があればより大きな印象力操作ができるという側面があるのです。選挙の勝敗にある資金力が重視される理由は、まさにこれですし、K POPアイドルにあって、日本のアイドルにないものの1つもこれです。

もちろん、CMにも弱点はあります。短時間でアピールしなければならないということです。これは一般の消費財を考えると、わかりやすいのですが、例えば、1つの商品に10個のセールスポイントがあっても、1つのCMにその10個を押し込むことはありません。そんなことをすれば、1つひとつの印象が薄まって、結果的に何の記憶も残らないからです。CMは、”購入につなげる””イメージをよくする”等の目的に沿って、数多くある事実から適切な事実にフォーカスを当て、そこを強調します(日米でCMの作りが違いますので、日本の場合です)。

最初にナイキのCM説明をするにあたり、”誇張”という表現を使いました(世界各国で、あらゆる人種差別がないか、少しでも疑いがあるようことがあればそれを誇張して”CM”の形で社会に問題提起)。ナイキ支持派からすると、「日本にある差別を否定したいがために”誇張”なんて表現を使いやがって」かもしれませんが、CMとはそういうもので、誇張による印象づけのないCMなんて、CMではないのです。

もし、ナイキが本当に人権問題について広く啓発活動を行いたいのであれば、ドキュメンタリーという手法も選べたはずです。人権問題はそんなにシンプルな問題ではないので、ACで流すような一般論でなく、個別の話を持ち込むのであれば、丁寧に扱う必要があり、CM枠にコンパクトに収まるような単純な問題ではないと思います。それに、数ある事実から1つにフォーカスし、誇張すれば、解決どころか対立をもたらすだけです。実際に、ナイキのCMは対立をもたらしました

このようなCM本来の特徴や、ナイキのCMのテーマを考えると、ナイキのWOKE系CMは、意図的な情報の刷り込みであると邪推できます。このような邪推をするからには、それを行うための目的が必要です。さて、目的は何でしょうか?

共産党「共産主義の統一と、民主主義の分断」のサポート

いきなりですが、共産党員は、共産主義圏内の統一を目指す一方、征服していく予定の民主主義国家については分断させ、国力を落とさせようとしています。中国共産党が香港やウイグルを弾圧するのは、それらが統一国家から分断しようとする動きだからです。一方で、敵対(民主主義)国家において、たとえば、BLMを理由に起こった破壊活動を含むような分断が進めば、相手国を制圧しやすくなります。

これらも兵法をベースとした共産主義者の基本的な戦術の1つ

そして、ナイキのWOKE系CM展開ーー民主主義国家を分断させるための対立を煽るーーは、このような共産党員の活動を明らかに支援しています。フーヴァFBI長官の分析によると、自己の利益確保が目的で、一時的に共産党に協力するのはオポチュニスツです。

このように考えていくと、ナイキはオポチュニスツーーつまり、共産主義者だと言えるのではないでしょうか。

一般的に”ではない”ことを証明することは、悪魔の証明だと言われています。でも、ナイキが共産主義者でない証明は簡単です。中国で、人権弾圧されている人々を取り上げたCM作成・放映することで、社会に広く問題提起しさえすれば良いのですから。

こういう話の展開になると、ナイキはきっと「自分たちには、共産主義的な考えはない」と、思想的な背景から共産主義者でないと主張してくるでしょう。ここで押し切られてしまっては、マッカーシズムの失敗の二の舞になってしまいます。

しつこいようですが、共産主義はイデオロギーではありません。彼らがどういう思想を持っているのかというのは、全く関係なく、重要なのは共産党に協力しているのか?どうかという点です。そして、彼らの行動、態度は、オポチュニストそのもの。

彼らにとって、人権が重要というのであれば、90年代の発展途上国での児童強制労働問題は起こらなかったでしょうし、ウイグル人の強制労働に関するASPIの報告書があたってきた時点でも、もっと素早く適切な対応をしたでしょう。「香港の民主化を支援します」くらいの内容のツイートが炎上したことで、北京の店舗からロケッツ関連グッズを撤去したり、人権を守ろうとする法案に反対するロビー活動等は行わなかったはずです。

ナイキが人権活動に多大な寄付金を行っているのは事実です。ただ、本来の企業のあり方としては、慈善活動への投資の前に、自社商品の製造に携わる労働者に適切な賃金、労働環境を与えることではないでしょうか。弱者を使うことで実現した”低コストで生まれた利益”を、別の弱者とされる人々の支援に使うというのが気味が悪くて仕方がありません。ただ、これを共産主義の視点で見ると、気味の悪さがなくなり、行動の一貫性が見えてきます。もちろん、”利益の確保”です。

ナイキが積極的に取り組む事前活動の対象の1つに、LGBTQがあります。これを電通の視点(マーケティングレポート)で見ると、「LGBTQの市場規模は約6兆円」という数字が出てきます。慈善活動は効果的に行うことができれば、ブランディングになります。
では、ウイグル人の支援には、どのようなメリットがあるでしょうか?中国政府からのマーケットの追い出しというネガティブな要素しか見えてきません。

ナイキの相反する企業活動は、”利益の確保”という観点からすれば一貫性のあるものなのです。そして、中国に対する態度を踏まえても、ナイキはオプチュニスツ・・・共産主義者ということになります。

ここまで散々ナイキ批判と思われるものを展開してきましたが、私は決してナイキ製品が嫌いなわけではありません。ですから、ナイキには共産主義者ではない証明ーー中国でのWOKE系CMの放映ーーをぜひ行っていただけたらなと思います。

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