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【アメリカのコロナ事情Vol.7】       ミスインフォデミック(2)PCRの闇①

コロナ禍の元凶?PCR検査

パンデミック当初は、日本では”症状がない人が受けるPCR検査の問題点”についての議論が出ていたかと思います。アメリカでは、そのような議論が一切ありませんでした。

投稿を始めた初期の頃、PCR検査の問題点をシェアしていますが、実はこの頃、”批判記事を書く”ということに、まだまだ迷いがあり、曖昧な表現を使っています。が、周り回ってやっぱりここが元凶だと思いましたので、もう一度、この問題に触れたいと思います。

PCR検査とは?

そもそもPCR検査とは、PCRという遺伝子を増幅させる技術を使った検査であり、この技術により、少量のサンプルでも、検査が可能になりました。発明したキャリー・マリス博士が1993年、ノーベル賞を受賞したというほど、画期的なものです。では、なぜこの画期的な技術について「適切ではない」という主張が出てくるのか? 問題はこの増幅のためのサイクルを何回行ったか?にあります。この回数を表すのがCT(Cycle Threshold)値です。PCR検査そのものに問題があるというのではなく、あくまでもこの設定と使い方に問題があることで、適切な診断・治療、そして、効果的な公衆衛生政策が行えていない状況がパンデミックが始まってから今に至るまで続いています。ここにもミスインフォデミックが発生しています。

議論に入る前に、ネット上で陰謀論のようになっている部分を訂正すると、キャリー・マリス博士が「PCR検査がコロナの診断には使えない」と発言したということを言う人もいますが、マリス博士はそのような発言はしていません。なぜなら・・・

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*写真はマリス博士のサイトのページ

マリス博士は、2019年の夏に亡くなっているからです。優れた科学者であると同時に、かなりヤンチャな方であったようです。PCR検査の構想をデート中に思いついたことを初め、かなりおもしろエピソード満載(マリス博士の奇想天外な人生-ハヤカワ文庫)の方である一方、科学の主流と異なる意見でも恐れずに主張する方だったようで、”エイズの原因はHIVではないというエイズ否認論”や、”地球温暖化否定論”でも知られた方でした。・・・陰謀論を否定しておいて、何ですが、2019年の夏かぁという気はします。生きておられたら、きっとコロナに関しても、特にPCR検査の使い方については、科学の主流と闘う存在だったかもしれないですね。

■エイズと言えば、ファウチ博士!・・・の関連記事:
【ファウチ研】エイズとコロナ、人災による禍としての類似性                    【ファウチ研】世界が信じている”科学”というもの

PCR検査の問題点

PCR検査の問題点をひと言で指摘するならば・・・

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昨年の8月、The New York Times紙で、「Your Coronavirus Test Is Positive. Maybe It Shouldn't Be(コロナ検査での陽性判定。陽性ではない可能性)」という記事が掲載されました。

タイムズ紙が管理するデータベースによると、木曜日、米国では新たに45,604人のコロナウイルス感染者が記録されました。マサチューセッツ州とニューヨーク州での伝染率が全国的に適用されるとしたら、おそらくそのうち実際に隔離して接触者追跡に提出する必要があるのは4,500人だけかもしれない(発行:2020年8月29日更新:2021年4月14日)

この推定によると、陽性者のうち、真のコロナ患者はわずか10%だったかもしれないことなります。

この推定値を出す元になったのが、ハーバード大学T.H. チャン公衆衛生大学院のマイケル・ミーナ博士(疫学者)たちによるPCR検査のCT値についてび問題を提起した研究。高すぎるCT値が治療や隔離の必要がない陽性者を多数出してしまっているため、CT値を適正値に変更するべきというものでした。おそらく実際の数字を見ていただいた方がわかりやすいかと思います。ニューヨークのWadsworthラボがCT値を適正化した際の驚くべき数値が下記の表です。

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同ラボで設定されていたCT値は40。35−40がアメリカでの標準と言われています。同ラボがCT40で設定での検査を行なっていた昨年7月、陽性判定は、872件でした。同じサンプルをCT値35、30に変更した場合、陽性サンプル(872件)が陰性となったケースは、CT35の時に43%、30まで下げると63%だったとのことです。記事中、また、日本の科学者らが指摘する適正値は30以下ですから、同ラボで”陽性”判定を受けた人のうちの63%は、自らの体調を心配する必要もなければ、隔離される必要もなかったということになります。

新型コロナの特徴の1つは、無症状感染者が多いと言われていましたが、実際には、ウイルスが体内に存在していても、感染はしていないという偽陽性だったとも考えられます。感染者数が実際には統計の半分くらいだった場合、今回のパンデミックの扱いも随分違っていたのではないかと思います。

このPCR検査に対する問題提起はCDCも当然、知っていますし、その問題点について理解しています。記事では、CT値30以上になると、ウイルスが死滅してしまうため、結果としてでる数値が感染力のあるウイルスについて調べたものか、死骸を検出してしまったのかがわからなくなるということも、CDCは認めています。なぜ、変更しないのか?と言えば、「検査の感受性等が各社で違うため、検査会社に任せている」というような言い訳をしていました。             

問題を理解しているCDCがこれを広く通知したり、対策を講じることはありませんでした。CDCだけでなく、PCRを取り扱う検査会社もこの問題については、当然、知っているはずです。民間のラボで、指摘したところがあったのでしょうか?ここで興味深い数字があります。

パンデミックで市場は3倍ーPCR検査

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Research and Markets社の調査によると、PCR検査市場は2020年、3倍にまで拡大しています。

Global $13.82 Billion PCR and Realtime PCR Testing Markets, 2015-2020, 2020-2025F, 2030F、                          Polymerase Chain Reaction (PCR) and Real-Time PCR Testing Market Worth $22.4 Billion in 2020, due to the Surge in Number of Tests Being Conducted for the Diagnosis of COVID-19

そもそもパンデミック以前のPCR検査市場は頭打ちの状態でした。20年前には確かに画期的な技術でした。ところが、ゲノム医療業界では検査方法の技術革新も予想を遥かに上回るペースで行われてきて、数年前にはWGS(全ゲノムシーケンス)まで現実のものとなりました。

代替技術の開発は、PCR およびリアルタイム PCR 検査市場の成長を妨げると予想されます。迅速検査であるCRISPRなどの新技術がまもなく発売される予定です。 2020 年 2 月、Sherlock Biosciences Inc. と Mammoth Biosciences は、CRISPR ベースのテクノロジーを使用した改善された診断方法を開始しようとしています。代替検査の開発は、PCR およびリアルタイム PCR 検査市場を妨げると予想されます。(Research and Markets社のレポートより)

そのような中、パンデミックが起こりました。PCR検査が世界中で必要になりました。パンデミック当初、世界的に検査不足が問題になったことを覚えてらっしゃいますか?

なかなか供給量を増やせなかったのには、理由があります。それは、PCR検査はどのラボでも行えるというものではないということです。PCR検査は、専用の機器を使うだけでなく、熟練した検査技師が必要になるため、限られたラボでしか行えません。(ここで中国が”興味深い”動きをしますが、話が逸れるため、別の記事でご紹介します。)

”とにかく、PCR検査を!”は感染対策に役立つか?

ワクチンが出来上がるまで、とにかく「PCR検査を行え!」という雰囲気が全米にありました。アメリカの州によっては、ドライブスルー型の検査場を用意したり、希望する人が無料で検査できる場所を設けたりするところもあったようです。工場等では、ソーシャルディスタンシングが取れない環境にある従業員を対象に、定期検査を実施しているところもありました。大学が新学期を始めるにあたり、教員や学生にPCR検査を義務付けるところもありました。

ここでPCR検査の特性について、今一度、思い出して頂きたいのですが、”PCR検査で陰性”というのは、あくまでも検査した時のサンプルに、感染に必要なウイルス量が鼻の中に存在していなかったというだけのことです。

入国の条件を72時間以内の陰性証明にしている国は少なくありませんが、陰性だったのは、あくまで72時間前のこと。その後、体内でウイルス量が増え、発症するかもしれませんし、空港で感染するかもしれません。陰性証明は1つの基準にはなるかもしれませんが、”陰性証明を持っている人だけが集まったのだから感染の心配はなし”ということにはならないのです。

この点は、ワクチンパスポートの理論ととても似ています。ワクチンパスポートを作ることで、ワクチン完了者が感染リスクがないわけではないのに、完了者だけで集まれば安心(完了者は感染リスクがない)というような誤った印象を与えています。同様に、PCR検査の陰性証明を入場の条件にしたイベント等でも、陰性証明がイベント参加時に感染者でないことを保証しているわけではなく、感染対策は不可欠です。ワクチン完了してなければ、その都度、PCRの陰性証明の提出を求めているところもありますが、その条件をクリアしても、それが感染者でない証明にはならない=感染対策は必要ということを忘れてしまうと、7月に起こったマサチューセッツ州でのワクチン完了者中心に起こったクラスターのようなことになってしまいます。

日本では”症状のない人に行うPCR検査では適切な診断が行えない”とする医師がたくさんいました。前出のマイケル・ミーナ博士によると、PCR検査を感染対策として適切に扱うには、安価な検査を頻繁に行うことが重要です。CT値をなぜ不必要に高い設定にしたのかと言えば、”ウイルスの見逃し”を懸念し、感度をあげたたため、と言われています。ところが、PCR検査の特性(あくまでサンプル採取時の結果でしかない)を考えると、感度を落としても、安価な検査を時間をおいて行う方が返って偽陰性を見逃さないというのです。

これまでのことをまとめると、PCR検査にまつわるミスインフォデミックのせいで、不要に隔離されたり、ロックダウン政策によりビジネスが縮小されたりした人々がいた一方、PCR検査を取り扱える限定されたラボが儲かり、PCR市場は前年度の3倍に拡大するまでのコロナ景気があったということになります。ただし、PCR検査自体が問題なのではなく、問題なのは使い方。




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