「2024年問題」の解決方法

 2024年4月1日、日本国政府は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律 (働き方改革法)」を施行した。
 法律施行に伴い、トラック運転手の時間外労働に上限規制 (960時間) が適用され、日本は、急激なトラック運転手の減収、離職増加、人員不足等が発生する「2024年問題」に直面している。
 現在のところ、日本国政府の「2024年問題」への強制力のある対応策は、「総重量が8t以上のトラックの高速道路に於ける最高速度を80km/hから90km/hに引き上げ」、『「自動車運送業」全体で2万4,500人を上限に外国人の職業ドライバーを受け入れ (移民政策)』、『中型・大型車の「AT限定免許」新設』等であるが、どれも的を得た対策とはいえず、財界の低賃金カルテル利権、財務省の緊縮財政、警察庁の運転免許試験利権、法務省 (出入国在留管理庁) の移民利権、経済産業省による「中小零細企業淘汰からのM&A、大企業による買収」推進、国土交通省の自動運転推進、そして、内閣府によるスマートシティ推進といった裏の狙いが見え隠れする。
 財界や行政官僚による、上から目線の押しつけ政策では、トラック運転手、中小零細の運送企業、消費者にとって望ましい「2024年問題」への対応策とはなり得ない。

 近年の日本の運送を巡る、労働者、企業、需給の状況は下記の通りである。

 公益社団法人 全日本トラック協会の『「2022年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」について』によると、2022年度の男性運転者 (普通、準中型、中型、大型、けん引) の平均年収は4,743,600円、女性運転手 (普通、準中型、中型、大型、けん引) の平均年収は3,639,600円だった。

 また、2022年 賃金構造基本統計調査 によると、大型トラック運転手の平均年収は4,773,700円、大型車を除くトラック運転手の平均年収は4,379,400円だった。

 2022年 国民生活基礎調査 の「所得金額階級別世帯数の相対度数分布」によると、中央値は423万円、平均値は545万7千円なので、トラック運転手の年収の平均値は、日本国民の世帯年収の中央値よりは少し上であるが、平均値以下ということになる。

 ちなみに、2022年 賃金構造基本統計調査 によると、バス運転手の平均年収は3,987,100円で、トラック運転手の平均年収を392,300~786,600円下回っており、人員不足、路線バスの減便や路線廃止、修学旅行の観光バスを手配できない等、「2024年問題」の影響はバス業界にも及んでいる。

 公益社団法人 全日本トラック協会は、2022年度の会員2558社の決算報告より経営状況を分析した結果、約57%の企業が赤字だったことを公表した。

 2019年5月、公益社団法人 鉄道貨物協会は「平成30年度 本部委員会報告書」の中で、営業用トラック運転手は、2025年に208,436人、2028年には278,072人 不足するとの試算を公表した。

 2022年11月11日、株式会社 NX総合研究所は、2019年度比で、2024年度は輸送量が14.2% 不足(4.0億t 不足)、2030年度は34.1% 不足(9.4億t 不足)と試算した。

 上記のデータを基に、トラック運転手、中小零細の運送企業、バス運転手、消費者にとって望ましい「2024年問題」への対応策を下記に提案する。


1. 準中型自動車 運転免許、中型自動車 第1種 運転免許中型自動車 第2種 運転免許を廃止し、普通自動車 第1種 運転免許、普通自動車 第2種 運転免許で車両総重量8tの自動車までを運転できるようにする。
 運転免許の区分を2007年6月1日以前の状態に戻し、4tトラックを運転できる人の人口を増やす。現在の中型自動車 第1種 運転免許8t未満限定 保有者は6,000万人程度は存在する。

2. 大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許の試験を簡素化し、一発試験を復活させる。
 現在、大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許を取得するには、路上練習 (2時間×5回) や路上試験が課されるようになったことにより、「大型トラックや大型バスを保有している、且つ、路上練習 (2時間×5回) に付き合ってくれる家族または友人」が身近に居る人以外は、事実上、自動車学校に通わないと難しい状況にある。しかし、かつては、一発試験で容易かつ安価に免許取得できる時代があった。仮免許取得後の路上練習 (2時間×5回)、路上試験、試験合格後の大型車講習、応急救護処置講習の廃止等により、大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許試験にかかる時間と費用を現在の大型特殊自動車 第1種 運転免許、けん引 第1種 運転免許の試験と同等レベルにまで抑えることで、大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許の取得者を増やすことができる。

3. 自動車免許取得、更新の際の深視力検査の廃止。
 2024年5月から大型の新車のバックカメラ装着が義務化されたので、ほぼ無意味な検査。深視力検査があることを理由に大型自動車 第1種 運転免許、第2種 運転免許の取得を躊躇する中型自動車 第1種 運転免許 8t未満限定 保有者が多く、また、深視力検査をクリアできずに中型自動車 第1種 運転免許、中型自動車 第2種 運転免許、大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許を失効し、普通自動車 第1種 運転免許に格下げになってしまう人もいる (※ 2007年6月1日より前に大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許を取得した人が深視力検査をクリアできなかった場合は、普通自動車 第1種 運転免許ではなく、中型自動車 第1種 運転免許 8t未満限定への格下げとなるが、2007年6月1日以降に大型自動車 第1種 運転免許、大型自動車 第2種 運転免許を取得した人が深視力検査をクリアできなかった場合は、普通自動車 第1種 運転免許への格下げとなる)。車両総重量11t以上のトラックを運転できる人の人口を増やす為、そして、減らさない為には、深視力検査の廃止が必要だ。

4. 正規労働者のトラック運転手、バス運転手に対し、所得保障する。
 例えば、年収600万円未満の正規労働者に対しては、「600万円 - 年収」分を日本国政府が正規労働者に対して直接補填する。

5. 非正規労働者のトラック運転手、バス運転手の最低賃金を時給3,000円近傍に設定する。
 例えば、「600万円 ÷ (260日 × 8時間)」≒ 2,884.62円/時間に設定。

6. 待機時間も含めてトラック運転手に対して上記の時給を支払うことを前提として企業間が契約することを義務化する法律を定める。
 公契約条例の運送版のような法律。

7. 中小零細の運送企業の法人税、消費税、ガソリン税、自動車税、固定資産税をゼロにする。
 財源は新規国債発行。

8. 中小零細の運送企業に対しては、社会保険料の負担を1/4にする。
 財源は新規国債発行。

9. 中小零細の運送企業が所有する貨物用の自動車に対しては、高速道路を無料にする。
 財源は新規国債発行。

10. 「標準的な運賃」に法的な強制力を持たせる。
 「標準的な運賃」を最低賃金の運賃版のような運用に変更し、破った場合は荷主と運送企業に対し刑事罰や罰金が課されるようにする。

11. 運送企業が団結して荷主に対して交渉力を持つようにする。
 独占禁止法を改正し、カルテルを一部容認する。

12. トラック運転手、バス運転手が労働組合を結成し、賃上げや労働環境の改善が不十分であればストライキを起こすようにする。
 
職能別労働組合。

13. 運転手自身が団結して、一般貨物自動車運送事業、有償旅客運送事業を行う合同会社、有限責任事業組合、労働者協同組合等の事業体を設立する。
 最終手段。勤め先の企業が荷主に対して交渉力を持てず、運転手に対して賃上げも労働環境の改善もできなければ、運転手自身が団結して起業する。


 「2024年問題」は、供給力不足と賃金不足が主な問題である。
 運転免許試験制度の規制緩和による運転手の増加と政府主導による運転手の所得の増加を同時に行うことが必要だ。


< 参考資料 >

・ 「平成30年度 本部委員会報告書」(公益社団法人 鉄道貨物協会 / 2019年5月)
https://rfa.or.jp/wp/pdf/guide/activity/30report.pdf

・ 『5.「2024年問題」への対応に向けた動き』(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230406/startup10_0203_03.pdf

・ 「物流の2024年問題に向けた政府の取組について」(農林水産省 / 2023年5月7日)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/ryutu/attach/pdf/buturyu-377.pdf

・ 『「2022年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」について』(公益社団法人 全日本トラック協会 / 2023年8月10日)
https://jta.or.jp/member/chosa/chinginjittai2022.html

・ 「2024年問題対応 高速道路の大型トラック最高速度 時速90キロに」(NHK / 2024年4月1日)

・ 『外国人ドライバー2万5000人を受け入れます! 労働力不足で「自動車運送業」が特定技能制度の対象分野に』(ベストカー / 2024年4月5日)

・ 「全国のトラック運送業者 57%が赤字 業界団体が経営状況を分析」(NHK / 2024年4月8日)

・ 「2024年問題などドライバーが抱える問題についてリアルな現場の話」(垣花正 あなたとハッピー 橋本愛喜 / 2024年6月6日)
https://youtu.be/793EEAPjWpg?t=6121

・ 『トラックドライバーの声を全く理解していない…中・大型車「AT限定免許」新設に失望する理由【物流2024年問題】』(デイリー新潮 橋本愛喜 / 2024年5月3日)

・ 『2024年問題の解決策が、まさかの中型大型車の「AT限定免許新設」』(甲斐正康 / 2024年5月5日)
https://note.com/michibata_kaima/n/nf434af2c802e

・ 「戦慄の24年問題! 荷物が届かなくなる! 現場の悲痛な声を聞いてくれ」(三橋TV 甲斐正康 / 2023年8月30日)
https://www.youtube.com/watch?v=u1BMQSjOgok

・ 「バス運転手の年収は高い?路線バスや観光バスなどの給料の傾向と稼ぐコツをご紹介」(BOMS / 2024年4月23日)


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