「左ききのエレン」物語のつくり方

TVドラマ「左ききのエレン」TBSで最終回が放送されました!ブルーレイが来年4月に発売されます!ぜひ!

で、先日はブルーレイにも収録予定のテレビ未放送のスピンオフ(現在はU-NEXT限定で配信中)の上映会で、後藤監督と対談させて頂いたんですが…

ぼくの物語の作り方を話したら、後藤監督がめちゃくちゃ褒めて下さって。「脚本の世界で、上位数%の人と同じ作り方をしてる」と。ぼくは物語作りの勉強をせずに始めたタイプなので、正直作り方に関しては自信が無くて「多分、プロの人からすると間違ってるんだろう」とずっと思ってました。なので、めちゃくちゃ褒めてもらって、ちょっと気持ちが軽くなった。

もちろん僕のは「技術」では無くて「手癖」みたいなものなので、お伝えした所で参考になるとは思えませんが、自分的にも年末の節目に一度文章にまとめて残しておこうかなと思って、ちょっとザーッと書いてみます。

物語の「始まり方」と「終わり方」から考える。

よく質問で「描きたいシーンから思いつきますか?」とか「キャラクターから思いつきますか?」みたいに聞かれる事がありますが、ぼくは「始まり方と終わり方がセットで浮かぶ」タイプです。

「左ききのエレン」の場合は「女の子が、同級生の男のデッサンに上書きをしている」というシーンと「その女の子が十余年後、デザイナーになった男の広告に上書きをしている」という二つのシーンから浮かびました。

次に、この二人の関係は何だろうかと想像します。友達では無いし、恋人でも無いし、ライバルという感じとも違う、やっぱり友達なのかも知れない、そんな事をしばらくぐるぐる考えました。グラフィティにはより上手い人間しか上書きできないルールがあります。それを踏まえると、きっと女の子は男を認めた上で上書きしてみせているんだろうと。だったら、やっぱり他人では無い。この二人は、きっと「天才と呼ばれる側」と「凡人と認める側」の象徴なんだと。この二人の対立を描こうと思いました。対立と言っても、所謂ライバル関係では無いです。ただ、男の方は「オレ達はライバルだ」と言い張るかも知れない。そこで「ライバルという言葉を避け続けて、ライバルらしい描写を避け続けて、ライバル関係を描こう」と、企画の様なものが出ました。対決したらライバルになってしまうから、対決はさせない。頻繁に会話したら友達になってしまうから、会話もなるべくさせない。そんな二人の関係が何なのかと想像した時に「話した記憶が無い程度のクラスメイト」だと思いました。そこから、ぼくは高校時代を横浜で過ごしたので、高校時代を描くなら横浜がいいなと。そうなってくると、最後も横浜がいいな。ラストシーンに横浜に帰ってくるためにはどうしたらいいんだろう?東京で働くであろう男が横浜にいる理由はなんだろう、広告代理店勤務なら横浜で撮影があったのかも知れない。じゃあ、全てのキャラクターや伏線が、横浜に帰ってくる様にしようと思いました。

劇中で「(人生が)始まったら、始まった時に分かるよ」という海堂のセリフがありますが、それで言うと「女の子が、同級生の男のデッサンに上書きをしている」は、エレンにとって始まった瞬間で、その女の子が十余年後、デザイナーになった男の広告に上書きをしている」は、光一にとって始まった瞬間になっています。つまり、この「始まり方」と「終わり方」は、それぞれ二人の主人公にとって同じ意味がある、セットのシーンです。それを、同じ横浜で再現する。

そこで「始まり方」「終わり方」は見えて来たんですが、その二つをストレートに結びつけると問題が出てきます。上手く言語化出来ないんですが、ぼくはそれを「奇跡が起こり過ぎてる」という表現で考えてます。

奇跡を信じさせるために。

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