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足助のおばさんと教育 17 高校生3

夢のつづき 3

    夢のつづき
第3回 学校祭
(前号まで:千種高校に入学した由芽子は、新聞部に入部した。そして学校祭の季節を迎えようとしていた)
 千種高校の学校祭は派手である。県立高校の先生たちの間では「学祭は千種を見習え」という事になっているらしい。9月の下旬ごろにおこなわれる学祭に備えて、生徒達は1学期から準備を重ねる。
 千種高校へ来て由芽子には、本当に驚く事ばかりだった。なんと、由芽子のクラスでは、学祭に向けて映画を作ることになったのだ。今のように家庭用ビデオもなく、8ミリフィルムさえレアな70年代に、高校生が映画を撮って編集して、上映するというのだ。一部に、そういう事にたけた生徒がいたという事なのだろうが、由芽子には、いまだに高校生だった自分達が映画(ほんの15分程度のものだが)を制作したという事実が、幻のように感じられる。
 由芽子たちの作った映画は、「UFO対地球防衛軍」というSF特撮映画であった。電器屋から冷蔵庫の段ボール箱をもらってきてコンピューターに仕立て上げ、ロケット花火で対UF0ミサイルを撮影する。そうかと思えば、ベニヤ板一枚ほどのビルの街並みや、石油コンビナートのジオラマをつくり、爆撃を受けて燃え上がるシーンを撮る。因みに、女子の中でたったひとりメガネをかけていた由芽子は、女性科学者の役でコンピューターを操作する場面に出演している。
 バンドメンバーを募集していた西原君は、ジオラマ作成でも中心になっていた。中学までの男子は、みんな自分より頭が悪いと一顧だにした事もなかった由芽子だったが、西原君の存在は魅力的だった。しかし、さらに魅力的な男の子が、西原君の仲間として現れたのだった。
 6組の松田君という彼は、「MATSU」とオリジナルのロゴを自分でデザインした紙製のシルクハットをかぶり、西原君の隣で左手でギターを弾いていた。イラストが得意で、学校の先生たちを似顔でかいたマンガを作ったりもしていた。ハンサムというわけではないが、由芽子の憧れたものを全て身に付けている少年のように思われた。
 しかし、由芽子が松田君に近付ける場面はなかった。彼がクラスにやってくるのは、西原君とバンドの練習をするためであり、それまでせいぜいテレビで歌謡曲を聞くだけだった由芽子には、彼等が演奏している曲については何の知識も持ち合わせない。口を開くだけで場違いな奴と思われそうで、由芽子には曲のタイトルさえ聞き出せなかったのである。(実際、それはロックの中では古典的ともいえる「水の上の煙」という曲であった。)それでも早朝練習のために集まってくる彼等にあわせて、自分も早起きしていた由芽子だった。
 はじめての学祭は、それはそれは刺激に満ちたものだった。映画を作っていたのは、由芽子たちだけではなく、3年生のあるクラスの制作したものは、学校の先生たちを次々に拉致して、校外への逃亡を図るという、教師たちの友情出演に支えられた作品だった。今思うと、付き合ってくれた先生たちに頭が下がるというものだ。
 西原君と松田君たちのバンド演奏も泣けてきそうに素晴らしかった。それを会場の後方からみていただけの由芽子だったが、間違いなく青春の一場面であった。(続く)(2008年1月24日 記)

(元ブログ 夢のつづき 3: Here Come the 足助のおばさん (asukenoobasann.com)

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