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足助のおばさんと教育 15 高校生1

夢のつづき  1

フロッピーから再生した昔の作品を紹介します。前回と同じく12回連載の予定です。
    夢のつづき
第1回 ひさかたの……                             
 1976年のその日、由芽子は父とともに8時すぎに家を出た。ひどい寝グセのついた髪を必死でなでつけていたのに、せっかちな父は、もう出かけると言う。せっかくあこがれの千種高校の制服に身を包みながら、由芽子は寝グセの髪を気にしながらの入学式になってしまった。
 寝グセばかりでなく、由芽子は度の強いメガネをかけていた。このメガネのせいで、由芽子はガリ勉に見られがちだったが、これはマンガの読みすぎが原因である。この時期、マンガ家になりたいというのが、由芽子の淡い夢であり、スケッチブックには萩尾望都をまねた絵が何枚も何枚もかきためてあった。同時に、小説めいたものを書いて友人に見せる事が喜びだった。千種高校でもそんな生活が続けられると、不覚にも由芽子は考えていたのである。
 入学式は、10時からだった。由芽子と父はバスと地下鉄を乗り継いでも9時前に千種高校についてしまった。が、せっかちな親子は他にもいるらしく、所在なげに歩いている数組がいた。クラス分けの張り出されたボードを見に行く。由芽子は10組の38番と表示されていた。同じ中学からたった一人、同じく千種へ進学してきた佐々木万里が同じクラスになっていた。万里は、正真正銘のガリ勉だったから、やなやつと一緒になっちゃったな、と一瞬思ったが、ここは千種高校である。いずれ劣らぬガリ勉ぞろいに違いないのだ。万里ごときに手を焼いてもいられまい。
 と、思ったところへ万里が現れた。驚いたことにメガネをはずして、髪の毛はカールさせている。これが万里かといぶかったが、向こうは親しげに話しかけてくる。万里は「センパイ!」と由芽子を呼んだ。中学時代の由芽子のあだ名である。改めて見ると、色白の万里は案外可愛い。由芽子は、急に寝グセにメガネの自分が恥ずかしくてたまらなくなった。
「佐々木さん、メガネどうしたの?」
 由芽子は、わざと他人行儀に尋ねてみる。
「コンタクト。母親がね、年頃なんだから少しは見かけを構いなさいって」
 由芽子の母は、そこまで気を使ってくれない。どうも万里に一本とられどうしで、勝手のつかめぬ由芽子であった。
 講堂でおこなわれた入学式では、べらんめいな口調の校長が、来たるべき入試改革(共通一次試験)に備えて、勉学に励んでほしい、と言われたが、高校入試を終えたばかりの由芽子にとって、それがどれ程の重みを持つものかは、見当もつかなかった。いや、興味がなかったと言う方が正確だろう。 どうせガリ勉ぞろい、という由芽子の読みは、万里を筆頭にはずれどうしだった。入学式のあと、教室に入って自己紹介があったのだが、スポーツで県大会レベルで活躍していた人、プロレスの大ファンで、自らもレスラーになりたがっている人、バンドを組みたいのでメンバー募集中だという人(これは、西原くんといって、どういうわけか由芽子と3年間ずーっと同じクラスになる。)……。
 女子は全体の4分の1しかいなかったが、いずれ劣らぬ可愛い子ぞろいなのに驚いた。寝グセにメガネなんてのは、由芽子一人だった。おまけに万里が、由芽子のことを「センパイ」と呼ぶものだから、由芽子一人が、可愛らしさからはなれてしまう。
 青春の真っ盛りに、はなからハンディをおった、由芽子の春であった。 (続く)(2008年月22日 記)

(元ブログ 夢のつづき  1: Here Come the 足助のおばさん (asukenoobasann.com)

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