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足助のおばさんと教育 19 高校生5

夢のつづき 5

    夢のつづき
第5回 二度目の春
(前号まで:千種高校に入学して一年がたった。ダサイ少女だった由芽子のまわりにも、青春の日々が巡ってきていた。)
 二年生になってはじめての日、由芽子は松田君と同じクラスになりたいと淡い期待を抱いて登校した。クラス分けの発表された紙を1組から順に見ていく。なかなか自分の名前がない。また、松田君の名前もなかった。(これはひょっとして……)と期待が高まる中、あった! 9組である。由芽子も松田君もともに9組である。こんなことも本当にあるのだ。この嬉しさは、誰にも言えない。同じ組とは言っても、松田君と共有できる話題があるわけもない。相変わらずダサイ自分を自覚していた由芽子には、松田くんを遠くから眺めているだけで十分幸せだった。
「やあ」
と声をかけてきたのは後田くんだった。
「同じ組だね、よろしく」
隣には水田くんもいる。
「3人一緒とは、奇遇だなあ」
笑っている後田くんの声を背中に聞いて、由芽子は再度クラス分け表を見直した。たしかに後田くんと水田君の名前がある。蛇足だが西原君も同じクラスだった。これは、オールスターキャスティングではないか。高校二年生、花のセブンティーン……。青春ドラマの始まりのような二年目の春であった。
 クラスでの自己紹介の時、由芽子は萩尾望都の大ファンであることを話題にした。すると、松田君は、松本零士のファンであるとともに萩尾望都の作品にも注目しているといって由芽子の方を見て笑ったのである。由芽子の舞い上がらんばかりの気持ちを想像してほしい。それこそまさに、少女マンガ的展開である。しかし、現実に由芽子のそばに現れたのは、水田君の方であった。
 水田君は、前期の生徒会長選挙に立候補することになっていた。選挙とはいっても、対立候補などは出ない。ほとんど90パーセントの信任で選出されるという選挙である。生徒会長に華々しさなどない。貧乏くじをひいただけのことだ。それでも、責任感の強い水田君に、由芽子も多少の気持ちの揺れを感じていたことはいなめない。
 その年、新聞部には新入生とともに転入生がひとり現れた。岡村さんという転入生は、以前の学校でも新聞部に所属していたので、そのまま移籍してきたつもりだったらしいが、彼女の考えていた新聞部と由芽子たちのやっている活動はかなり質の違う物だった。岡村さんの以前の学校では、運動部の試合などがあると、公然と授業を休んで取材にいくことができるという、半ば特権的な部活動だったらしい。それを幾分自慢げに話す岡村さんに、俗っぽい物を感じて由芽子は興ざめしたが、岡村さんはすぐに由芽子たちのやっていることになじんでいった。そもそも、千種高校に転入で入ってくるなんて、相当頭のよかった人に違いないのだ。原発も差別問題も、彼女は瞬く間にひとかどの評論家になっていった。
 その岡村さんが、水田君にほの字なのに、まもなく由芽子は気がついた。部室を訪れる水田君を見ると、彼女の表情が輝いている。その頃には、さすがの由芽子も水田君が自分を目当てにやってくることに気がついていたので、岡村さんが少々気の毒ではあったが、自分の気持ちにも自信がもてずにいた。
(続く)(2008年1月26日 記)

(元ブログ 夢のつづき 5: Here Come the 足助のおばさん (asukenoobasann.com)

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