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北京入院物語(20)

 私がその当時国際医療部で受けていた治療は、先に書いたマッサージと針治療、静脈点滴以外に漢方薬の服用がありました。
 通常漢方薬は土なべで煎じて作りますが、この病院ではその製造はシステム化され、専用の製造所があります。
医師の処方箋に従って配合された原料を電動釜に入れると、全自動洗濯機のようにエキスの抽出までボタン1つです。
漢方薬エキスは1回分200cc程度で、洗剤の詰め替え用袋に似たビニール袋にパックされ、朝、夕2回分が製造所からナースステーションまで配達されますので、周さんが食事後、暖めて飲むだけだったのです。



 重要なのは漢方薬の成分がどんなものだろうかという以上に、いかにしてその患者の診断をするかです。
その患者をどう診断したのかということこそ、漢方治療の真髄であり、この診断法が西洋医学で見られない「総合的」なものなのです。

 日本にも漢方薬があり、漢方系の病院もあります。
しかし日本の漢方と中国の漢方では大きな違いがあります。
日本の漢方は江戸中期に入り、一気に日本化が進み日本漢方が形成されました
その輸入する過程で、漢方薬の成分をどうしたらよいかと言う、処方配合の技術を中心に導入されました。

 こういう症状にはこの原料とこの原料という、症状とその配合例をまとめた事例集とでもいうべき本(傷寒雑病論)のみ参考に、患者に漢方薬が処方されました。
陰陽五行学説という原理はあまりに理解が難しかったため、この原理の上に成り立つ独自の難解な診断法は日本に入ってこなかったのです。

 その結果、人に合わすということではなく、症状に合わすということになり各人各様の、1人1人に合った漢方薬が調合できないのが日本の漢方だというのです。

 中国漢方では生体の本来の姿に戻すことを目的とし、そのために治療をします。
ですから難病の原因が分からなくても治療ができます。
一方、非常に乱暴な言い方をすれば、日本の漢方薬はうまく合えば効くということです。

(引用文献)
なぜ中国医学は難病に効くのか
脳神経外科医が見た不思議な効果
酒谷 薫
PHP研究所


北京入院物語(21)

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