Kindle Unlimitedの本を流し読みする(4冊; ④-⑦)

目を通した四冊を紹介。

④ 『魔女の薬草箱』

★西村祐子『魔女の薬草箱』(山と渓谷社)
https://www.amazon.co.jp/dp/B01BOJ4WJA/

 古来ヨーロッパに伝わる薬草について、歴史とともに紹介した本。「ヴァルプルギスの夜」などの伝説のほか、小説や古事など引かれていておもしろい。
 散瞳作用があり、女性が瞳を美しく見せるために用いられたというベラドンナ(その名も「美しい婦人」)はよく言及される植物であるが、それだけに留まらず、関連して複数のエピソードを挙げているのもよかった。たとえば:

ドイツ人のシーボルト(1796〜1866年)は日本にやってきたとき、ベラドンナを携えていたようだ。そして、江戸の眼科医の前で実際にこれを使って目の手術をしてみせた。その効力に医師たちは驚嘆し、その薬草の名前を知りたがった。シーボルトは差し出された日本の植物図鑑を見て、日本に自生している「ハシリドコロ」(Scopolia japonica)がそれだと告げた。

『魔女の薬草箱』p.33

ちなみに、ベラドンナはドイツ語で「気が狂ったサクランボ」(Tollkirsche)というそうだ。

⑤ 『創作者のためのドイツ語ネーミング辞典』

★ 『創作者のためのドイツ語ネーミング辞典 ドイツの伝説から人名、文化まで』(伸井太一、ホビージャパン、2019)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07SF683YY/

 上で挙げた④ 『魔女の薬草箱』でも、植物のドイツ語名がたくさん挙げられていたが、ドイツ語名には謎のかっこよさがある気がする。関連して本書を挙げる。

 この本は「マンガ・アニメ・ゲーム好きな日本人がかっこいいと感じる響きの言葉」を重点的に選んで掲載しているそうだ。著者は「中二病で学ぶドイツ語セミナー」の講師をしているとのことだが、講義名すごいな。

「人間の章」ではドイツ人名の由来を掲載している。たとえば:
 ・アルツハイマー Alzheimer は地名 Alzheimに由来。(p.102)
 ・ヴェーバー  Weber は「はたを織る者」に由来(p.102)
 ・コッホ Koch は「料理する者」に由来(p.105)
 ・シューベルト Schubert やシューマッハー Schumacher、シューマン Schumann は「靴屋」に由来(p.105)
などが目についた。

 「日本人の名字のドイツ語表現」というのがおもしろかった(pp.114-116)。特に、「対応するドイツ語の名字がドイツ人の名字にもある」という解説がなおのことおもしろい。たとえば、
 ・青木 Grünbaum (グリュンバウム; '緑の-木')
などは、確かにGoogle検索するとWikipediaの項目が出てくる。他にも、
 ・鈴木 Klilngelbaum(クリンゲルバウム; '鈴-木')
 ・田中 Feldsmitte(フェルツミッテ; '稲田-中'としてReisfeldsmitteとも)
などのドイツ語訳(?)があり、ドイツ語っぽい趣が醸し出されている。

 人名に関して思い出した。数学者の矢野健太郎が、「お前の名字は何という意味だ」と外国の数学者にたずねられ、「Vector field (ベクトル場)だ」と答えたところ、数学用語にちょうど対応していることから、あまりにもうまくできすぎていて信じてもらえなかった、という『ゆかいな数学者たち』(新潮文庫)のエピソードを思い出した。

ある時、外国の数学者との場で「矢野」という名前の意味について話題になった時、矢=Vector、野=Fieldで、矢野=ベクトル場であると説明したが、ベクトル場(Vector Field)は微分幾何学で用いる基本的な概念であり、うまくできすぎているため即座には信じてもらえなかった。さらに「では小林昭七はどういう意味か」と問われて「小林=Littlewood」と答えたが、これも当時リトルウッドという有名な数学者がいたため信じてもらえなかった。居合わせたのが欧米人のみであったために、冗談と思われたのである。そこに、たまたま部屋へ入ってきた陳省身に確認してもらい、ようやく信じてもらえた。

(Wikipedia:矢野健太郎)

 よく「発音がかっこいい」と言われる分度器 Winkelmesser(ヴィンケルメッサー)ボールペン Kugelschreiber(クーゲルシュライバー)だが、「ドイツ語ネイティブの感性では「日本人がなぜクーゲルシュライバーを『かっこいい』と思うのか、まったく理解できない」(p.174)そうだ。言葉のイメージというのも多様だ。ちなみに:

ちなみに、本書著者がドイツ出身の友人に「響きがかっこいいと思う日本語は?」と尋ねたところ、「Chuusyajyou」(駐車場)と答えが返ってきた。ドイツ語にはなかなかないミステリアスな響きなのだという。

『創作者のためのドイツ語ネーミング辞典』p.174

⑥ 『世界は「日記」でできている: 自分の人生を取り戻す21の日記の技法』

★『世界は「日記」でできている: 自分の人生を取り戻す21の日記の技法』(ゆうびんや、2021)
https://www.amazon.co.jp/dp/B09PBYGP33/

日記買う夜空は常に新しく

神野紗希『すみれそよぐ』

いろいろな日記の型(テンプレ)を紹介する本。それぞれのテンプレには出典がついていて、詳細はその参考文献を参照するとよい(この点は丁寧でとてもよい)。

たとえば、「技法4:5行日記 〜発想法としても効果的〜」では、『あなたを天才にするスマートノート』(岡田斗司夫)で紹介されている5行日記を紹介している。

「見開きで用い、右ページに今日あったことを5つ書く。それぞれ5段階評価する。右ページを見て思ったことを左ページに書いていく」というもの。

また、「技法11:日記療法 〜活用は専門家とご相談のうえで〜」では、精神療法の一つである森田療法について紹介している。林吉夫『1日数行で心を立て直す 森田式ダイアリーのすすめ』を参考文献として挙げているので、これを元にしているようだ(その他、岩井寛『森田療法』講談社も挙げている)。

実際、森田療法では日記を使って指導すると聞く。専門家がいないと難しいのかもしれないが、前掲書ではおそらくアレンジしているのだろう(そういう点で、詳細については文献を参照したほうがよいものも多々みられる)。

テンプレとは関係ないが、日記を書く意義にふれる箇所で、

日記を書くことで小さくても確かにあったポジティブな出来事を拾い上げることは、わたしたちのポジティブなロングテールを見つけることにもなるのです。 それが「幸せのロングテール」です。

『世界は「日記」でできている: 自分の人生を取り戻す21の日記の技法』No.385-

という記述が目にとまった。「幸せのロングテール」という表現が著者オリジナルの表現なのか、人口に膾炙しているものなのかはわからないが、なるほどと思った。

⑦『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』

★『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』(角川書店)
https://www.amazon.co.jp/dp/B091XR6NL7/

表紙に列挙してある人たちの仕事術オムニバス本。ひとつひとつが短いので、響く箇所を適宜見つければよいと思う。山口真由さんの教科書七回読み勉強法についても短くまとまっていてよかった:

まず1~3回目は見出しなどを拾いながら読み流します。これを「サーチライト読み」と呼び、本の全体像を摑んでいく作業とします。次の4、5回目は「平読み」と呼び、重要キーワードを意識しながら普通のスピードで読んで要旨を摑みます。1~3回目で全体像をとらえているので、内容はより頭に入りやすくなっているでしょう。そして、6、7回目は「要約読み」と呼び、内容を頭で要約しながら読んでいきます。この方法で1冊の本を7回読めば、その内容を頭のなかに写し取ることができる

(強調は引用者による。『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』No.775; 山口真由)

本人の要約力が高いので1パラグラフでまとまってしまう。実運用としては教科書の選定、たとえば分野網羅性の高い書籍を選ぶことなども重要になってくるのだろうが、細かい方略の説明としては上記で十分であろう。

その他、

キーメッセージは 13 文字以内にする」 というもの。その理由は、 人間がひと目で内容を理解できる文字数の上限が 13 文字だとされているからです。これは「Yahoo!」などニュースサイトのトピックにもいえることで、タイトルの文字数が 13 文字を超えた途端にクリック率が下がるということがわかっています。
 また、1枚のスライドを 20 秒以上見せると聴衆は眠気を感じるといわれています。そうさせないためには、文字数が多い文章を見せるべきではありません。そういう点からも「キーメッセージは 13 文字以内にする」ことが大切なのです。

(強調は引用者による。『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』No.1790-; 前田鎌利)

プレゼン資料は7±2枚」 にするというもの。 スライドの枚数を5枚から9枚のあいだに収める

(強調は引用者による。『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』No.1796; 前田鎌利)

などといった、人間の認知能力の限界を見据えたプレゼン設計も参考になった。

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