はじめての美術館展示のために、かっこいい印刷について調べてやってみたまとめ

写真を展示する経緯

フリーランスの映像カメラマンとして仕事をしている自分は写真を撮り続けていました。自分で見たりSNSにポストして反応をみたりで楽しんでいたのですが、プロにも見てもらいたい。それに写真の仕事もたくさんしてみたい。これをきっかけに2年前から写真の公募に応募しはじめ、APAアワード2024の作品部門に入選しました。

東京都写真美術館で2/24~3/10
https://topmuseum.jp/
京都市美術館で4/30~5/5
https://kyotocity-kyocera.museum/
作品を展示することになりました。

自分の写真をたくさんの人に見てもらえる機会を得られて嬉しい!憧れの美術館デビューだ!やったー!!!と喜んでいるのも束の間、主催者の公益社団法人 日本広告写真家協会から送られてきたメールを読むと、
「A2サイズに印刷して額装の業者さんに送る」
が展示の条件で、期間以内に送らなければ取り消しになるとのこと。

自分の仕事のフィールドは映像で出し先は常にモニター。モニターへの出力は基本的には作っている自分の環境で見えるデータのまま。写真を紙へ印刷した経験は同人誌で写真集を2冊作った程度。しかも基本的には印刷屋さんに色とかほぼ丸投げ状態。モニターは光っていますが、紙は光っていません。

「とにかくやばい状態のしょぼいのを出したくない!!!!!」

そんなわけでいろいろ調べて最後には満足いくかたちで展示ができたので、皆さんが写真を展示するときに役に立ったらうれしいです。

授賞式前の写真。ドアノーのパリ市庁舎前のキスが入り口に飾ってあり、
キャパのオハマビーチ、植田正治の砂丘が続く。プレッシャーがすごい。

アート印刷はデカい

今回の指定された印刷サイズはA2で、額装はなし。業者さんがパネルに直接はる絵画作品に近い展示方法でした。A2は一般的なコピー用紙(A4)の4倍のサイズ。大きさを知るために、家でA4をテープで繋ぎ合わせてデカさに慄きました。

A2は大体人間の膝上くらい

今回自分が撮った作品は街で撮ったスナップ写真。主題が大きく写っているわけでもなく、引いた画面です。色彩も派手じゃなく、作品の内容的に派手にしたくない。本当は額があって厚紙があって写真がある感じにしたかったのですが、展示方法に沿いません。

悩んで「この作品をこの大きさで鑑賞は紙質をこだわるしかない!」という結論に辿り着きました。

写真の展示、こういうイメージでした


紙はいろいろある

今まで自分が印刷した紙はヴァンヌーヴォという紙です。テカリすぎず上品な光沢があり手触りもよく適度にしなっていい感じ。裏写りも当然なし。THE上質!という感じの紙で、大変気に入っていて同人誌を出すときは印刷代がちょっと高いけどこれにしています。こちらのリンクにあるように写真集にも使われているものです。

今回は1枚で写真ドーン!なのもあって、紙ももっと分厚くて重たく、それにいろいろな紙を試したい。印刷されているという印象じゃなくて「写真そのものがそこにある」という風にしたい。色々探してPHOTOPRIさんのお試しサービス全種類(8000円)を注文しました。こちらはアート系の印刷をwebから頼める会社さんで、代表の方はカメラマンでも活動していてる印刷屋さん。このお試しサービスで印刷できる紙はキャノンやエプソンやPICTORICO、イルフォードやHahnemuhleなどの写真関連の会社がだしている写真用紙から和紙まであり、このさまざまな紙にA5のフチありで印刷してくれます。これを試してHahnemuhle社のPhoto Rag Barytaで本番印刷をすることに決めました。A2サイズは7600円。とても良い印刷の写真をプリントすることができました。


インクか、感光剤か

写真に詳しい方はピンときたかもしれませんが、紙の名前に含まれているBarytaの文字。バライタ読みます。バライタとは印画紙のこと。この紙は印画紙の風合いを再現した印刷用紙で、これを知ったときに私が思ったことは「本物の印画紙に焼いてみたい!!!!!」でした。
大学生だったとき授業でモノクロプリントをやっていて、作品っぽい写真というと暗室で引き伸ばし機を使って印画紙に焼く写真だったからです。ただ印画紙に出せるのはフィルムだけで、今回のデータはデジタルだしカラーだしできないと思っていました。無理矢理やるにしても暗室にプロジェクターを用意して印画紙へ照射する?など、現実的でない作業のイメージが湧いている状態です。しかし実際に調べると、デジタルデータを印画紙に印刷することはできました。その技術をラムダプリントといいます。

ラムダプリントはレーザー光線で印画紙に像を露光させて現像処理をする仕組みで、感光剤が光の像を結んだカラー写真です。
調べると堀内カラー・富士フィルム・写真弘社さんなどなど、いわゆるプロラボと呼ばれているところがやっています。今回は憧れもあり堀内カラーさんに発注。A2サイズで18700円でした。このプリントを頼む時点で締め切りから1週間前のため、テストプリントなしで頼むことになりました。結果はイメージ通りの仕上がりで、質感も印画紙なので写真そのもの。今回はこちらを額装の会社さんにお渡しし、展示することにしました。

写真のデータ作りはRGBなのかもしれない

フルカラー印刷はCMYK4色のインクで作られているので、CMYKでの入稿が当たり前。というかインクで印刷するという条件だと技術的に他にあり得ない。というのが私の思っていたことでした。ですので、レーザーで光を照射している堀内カラーさんだけでなく、インクでプリントしているPHOTOPRIさんもRGBでの入稿だったので驚きました。
そもそもなぜ印刷物をCMYKで扱っているかというとインクによるフルカラー印刷がCMYKとともに歩んできている技術であるため、というのが一番のところのようです。現在のCMYKデータが定義する色はRGBの色域の65%くらい。しかし印刷技術という枠で考えると、これ以上の範囲の色再現も工夫によって可能です。RGBのカラーモードで入稿し、CMYKに変換すると失われてしまう色データを含めて4色の製版+αのインクの版で印刷する、という仕組みで印刷することでフルカラー印刷以上の鮮やかな印刷が可能になるようです。


少し凝った印刷でCMYK外の特色インクというものはありますし、金や銀を使った印刷、紙を凹ます、透けてるシールを貼る、蛍光で光る、透ける、なんていう技法もあります。どれも製版作業が通常と異なり値段も張るのもあって、自分で本を作るときには選択肢に入れてこなかったのですが、写真の印刷はどうやらこちらの世界に近いようです。ラムダプリントも看板にプリントする技術でもあるそうです。奥が深い。

ただ当然4色フルカラー印刷より値段はするのと文章や簡単な図形などはCMYKで必要十分なので、写真がメインコンテンツの印刷物でない場合はCMYKのデータづくりは引き続き必要だと思います。カメラマンがその辺りをやるということはおそらくないはずですが、色域が限られていることをイメージしながら撮影することで成果物が良くなることは十分ある話だとは思います。

データ作り

さて、無事展示できました。と書いてしまったのですが、印刷する前のデータを作る作業について。撮影に使ったカメラはRICHOのGRⅡでした。rawで撮影して画素数は約1690万画素。そのため一般的な印刷用の350dpiだとA2サイズには不足したので少し下げて300dpiにしました。また写真のアスペクト比1:1.5(通常は3:2と表記します)とA版のアスペクト比の1:1.414は微妙に差があるため、断ち落とし(全部の面を印刷する処理)にすると上下合わせて10パーセントを切らないといけなくなってしまい、これは構図に影響します。そのため上下左右に余白を作ったデータを作りました。紙にこだわったのも紙の地がでるので、それを気にしたためでもありました。この解像度合わせてサイズを決めただけのデータを作るのにも実際のA2の紙に線を引いてサイズを検討したり、印刷会社さんにメールを送って確認をしてもらったりなどなど、意外とやることがあります。ほかにも通常のレタッチ的な作業をPHOTOPRIさんで印刷していただいたサンプルと睨めっこしながらLightroomで色を合わせたり、マスクを切って明るさを上げたり下げたり。ソフトはadobeのLightroomでraw現像と色調整、photoshopで解像度をあわせるといった感じでした。

撮影に使ったGRⅡはいわゆる高級コンパクトカメラです。現在後継機であるGRⅢが発売されていて、これがめっちゃ良いカメラなんですが個人的にはこのⅡの手ぶれ補正なしフラッシュ付きが好きです。

観に行く

展示期間が始まるまえに告知ツイートをしたり主催者さんからいただいた招待券をお世話になった人たちに送ったりなどを終えたら、プリントした自分の作品を観に行きます。ドキドキしながら東京都写真美術館に着いて、受付の方に「出展しているものです」と伝えると「そのままどうぞ」と展示会場へ案内されます。当然と言えば当然なことなのですけども、チケットなしで美術館に入れるなんて夢のようで緊張します。案内された会場へいくと、そこには素晴らしい作品の数々。大胆な発想やテクニック、行動力から生まれた見たこともない景色。その中に自分の写真がたしかに飾ってありました。また写真を展示したいと強く思うのでした。写真は楽しい!


作品と息子と私


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