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私たちの生活と、そばにある版画

2022年5月12日 カロク採訪紀 磯崎未菜

町田市立国際版画美術館へ

今日は午後から町田市立国際版画美術館に行った。
メンバーは変わらず、NOOKメンバーの瀬尾さんと中村くんと私の3人。

町田市立国際版画美術館は町田駅から歩いて15分くらい。ここには版画作品を鑑賞するだけではなく、実際に作るための一般工房とアトリエがあり、一般開放されている。版画制作に明るくない人のための実技講座も開催されているので、以前から機会があれば参加してみたいなと思っていた。(施設利用のための詳しい情報はこちらから)

傘をさそうか悩むくらいのしとしと雨。芹ヶ谷公園を通って美術館に到着。

外観を撮り忘れちゃったのでHPからお借りしました🙏

展覧会「彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった」

今日の目当ては7月3日(日)まで開催中の展覧会 「彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった」
幸運なことに本展の企画構成をされている学芸員の町村悠香さんとお会いできたので、最初に全体をざっと回りながら展示構成について説明していただいた。

本展では、戦後日本で展開した「戦後版画運動」(1947年から10年間ほど)と「教育版画運動」(1951-1990年代後半)の二つの民衆版画運動を軸に、プロ、アマチュア問わずたくさんの版画作品が紹介されている。これまで大きな美術史の枠組みから取りこぼされ、しかし私たち市民の生活と密接に関わっている民衆表現についての展覧会で、会場に入ると一目で確認できる膨大な作品や資料と、丁寧な説明がなされたキャプション。
約4年の時間をかけられたという研究の成果に、この時点で感銘とリスペクトの気持ちがビシバシ押し寄せていた。

撮影できる場所が限られていたため、写真は少なめ。

<展示構成>
1章 中国木刻のインパクト 1947-
2章 戦後版画運動 時代に即応する美術 1949-
3章 教育版画運動と「生活版画」 1951-
4章 ローカルへ グローバルへ 版画がつなぐネットワーク
5章 ライフワークと表現の追求 
6章 教育版画運動の開花 1950年代-90年代

身近にある表現としての版画

◎版画のいいところ◎
・材料費が安い(紙、インク、擦るもの、拾ってきたものなどから気軽にイメージを作ることができる)
・気軽に持ち運び、誰かにプレゼントしたり、郵便で送り合って交流できる
・技術による下手さ、巧さが絵ほど前に出てこない
・みんなで協力して大きな絵や紙芝居をつくることができる
・大人数で制作している場合、刷る日が決まっているので、作品が完成する日が一緒になり、みんなで鑑賞できる
・最後までイメージがどうなるかわからない部分があり、刷るときになって一気にブァっと現れるので楽しい
・たくさん刷れるので、運動のポスターづくりなどに適している

中村大地くんが撮っていた、青森の小学校で共同制作された版画紙芝居

生活のイメージは土地によってさまざま

全国約35都道府県の、主に学校や平和運動のコミュニティで作られた約80冊に及ぶ版画集が並んだブースは、その時代の土地の暮らしが現れていて表紙を眺めるだけで楽しかった。
労働や自然が自分たちの暮らしと密接に結びついている分、生活のイメージが豊富で多様なのは地方のほうだなぁと思った。
東京に戻ってきてから、やはり見るものが似ているというか、単一的だという気がする。東京での生活のイメージを増やすには、どういうことをやったら良いんだろうか。東京で風景が生まれるとしたら、それはどういうものなんだろうか。

意志を現す小さなナイフ

以前、仙台の志賀理恵子さんのアトリエで、メキシコのオアハカで版画のリサーチをしていた清水チナツさんと長崎由幹さんのトーク「存在を示す -アーティストたちは路上で表現する- 」を聞いた。今もオアハカで活動している竹田鎭三郎さんという画家が現地で美術教師になったときに、先住民の生徒たちが、自分たちの立場や文化が何度も政治利用されてきた歴史から、意思表示をあまりせずにただただ黙っていることが気になったという。それが授業で版画をやり始め、彫刻刀というナイフを持ち、“彫る"というかすかな暴力性を持った作業を行うことが、自ら意志を持ち、誰かと話しをするようなエネルギーにつながっていったという話をされていたのがとても印象的だった。

日本の戦後の版画表現とそのうねりを見て、これほど日常的に自分たちの暮らしを観察し、それを文字にしたり版画にしたりしてお互いに鑑賞しあって、さらにはそれらを画集にまとめアーカイブするという経験をしていたら、なにか自分以上の主体で誰かとなにかを一緒に考えたくなったときに、こういうふうにやったらいいかもなと思い出せそうだと思った。それは今を生きる勇気になりそうだ、と率直に思う。
悶々と内にこもって考えるんじゃなく、とにかくみんなでやってみたらいいんだよね。言葉だけじゃなくいろいろな方法で、できるだけ簡単に、楽しく。その手法として、版画はとても良い。

すでに読み過ぎてぼろぼろになってきてしまった展覧会の図録。
本展の内容がぎゅぎゅっとつまっており、後世にもマストハブな1冊。展覧会に行く方も、ちょっと都合が合わないぞという方も、どこかで手に入れることをオススメします。
※と、思っていたらもう完売してしまったようです・・・!
図書館などでぜひ手に取ってみてください。

磯崎未菜(アーティスト・映像作家)



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