見出し画像

節税スキーム: 仮想通貨を運用(ステーキングやレンディング)した際に、収益と元本の取得価格が平均化してしまう問題の回避。

仮想通貨をレンディングやステーキングなどで運用し、収益を獲得してる人は多いかと思います。
しかし、日本の税法上、含み益がある仮想通貨を運用して収益を獲得した場合、税金の支払額が大きくなってしまうという問題があります。

この記事は、私がこの問題の解決策を思いつき、税理士に確認した際のやり取りを記録したものです。

皆さんの役に立つかもしれないので、記録しておきます。


税理士への問題説明

やりたいこと

現在、1262ETHを保有しており、これを運用することで利回りを得ていこうかと考えております。

運用方法としては、ステーキングを選択しようと考えております。
(ステーキングとは、マイニングのようなものです。マイニングは電気代を対価として仮想通貨を得ますが、ステーキングは保有している仮想通貨をネットワークにロックすることを対価として仮想通貨を得ます。なので経済的には変動金利貸付のようなものだとおもいます。)

課題

ステーキングでは5~10%程度のETHが報酬としてもらえます。
ですので、5%としても、1262ETH×5%=63ETHが年間にもらえることになります。

この63ETHは取得した時点の価格(仮に現在時価17万円)でまず雑所得になります。
63ETH×17万円=1071万円

これにかかる所得税は全然良いのですが、問題はこの後です。

63ETHを売却して円転しようとすると、その63ETHは新たに得た63ETHなのか、もともと持っていた1262ETHの内の63ETHなのかは判別できません。

もともと持っていた1262ETHの取得単価は1.3万円であり、現在時価よりもはるかに低いため、売却すると売却益が発生してしまいます。

そして、国税のガイドラインによると、同一通貨については取得価格は平均するようにとのことです。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
(10 暗号資産の譲渡原価  P.14 によると移動平均または総平均)

すると私の場合、平均取得価格は(1262×1.3 + 63×17)/(1262 + 63) = 2.0万円
となり、ほとんど元々の1262から売ったことになってしまいます。

つまり、売却益63×(17-2.0)= 945万円
が追加で雑所得計上されます。

雑所得はほぼ倍になるため、かりに所得税40%で計算すると、
(1071+945)× 0.4 = 806万円となり、
1071万円の大半を税金でもっていかれることになります。

なんとかして、1262ETHの含み益を保存したまま、ステーキング収益63ETHのみを円転して使い続けたいです。

税理士への質問と回答

節税アイデア

① 自分で法人をつくり、そこに1262ETHを貸し出す。
② 法人でステーキングをして63ETHを入手する。
③ 法人で63ETHを円転する。
④ 円転した1071万円を自分に貸借料としてもどす。

こうすることで自分個人にとっては貸借料1071万円が円で手に入るので取得価格を平均する必要はなくなると思います。

質問(回答付き)

1. そもそもこのスキームは可能でしょうか? 法人の場合、仮想通貨のレンディング事業ということで免許など必要になるのでしょうか?

A. 可能。特段、許認可等は必要ない。

2. 個人間であればどうでしょうか? 家族間の貸借であれば利息は贈与税扱いとなるため、ある程度の金額まではこちらのほうが税は安くなると思いますが、どうでしょうか?

A. ちゃんとした理由があって、実際にその家族がステーキングを運用しているならば可能。
例えば、「実家の方が安定的に24時間PCを稼働できるので、実家の父親に運用を委託している」と言った場合。
税務調査で踏み込まれるリスクもあるので、家族の名義のみを使用しているようなケースだと、ペナルティを科される可能性もある。

3. 法人の仮想通貨は時価評価するとのことですが、資産負債両方時価評価で評価損益はネット0ということで間違いないでしょうか? そうであれば、1262ETHにかかる評価損益は常に0なので新規の63ETHにかかる損益のみが法人の収入となると思います。

A. その通り。

4. ④の法人の収入1071万円をすべて個人に貸借料として払い出すことは可能でしょうか?
というのも、ステーキングの利回りも売却単価も変動するので、これによって法人が得た収入をそのまま全て貸借料にするのは(変動金利だとしても)ハードルが高い気がしています。
貸借料をどれほど柔軟に設定できるか、という問題ですね。
⑴ステーキングで得た収入全てを貸借料とする。
⑵63ETHの期末時点における時価評価額の円を貸借料とする。
⑶円で固定する。
の3パターンが考えられます。
⑵⑶は1071万円との差額は法人資本となり、配当などで個人口座に戻すことになると思います。
⑴は可能でしょうか?

A. 法人は事業で収益をあげることが目的なので、収益の全てを貸借料にすることはできない。なので⑴は不可。
⑵⑶は問題ない。
法人の利益となった部分は法人税を払った上で、配当として自分に戻すことになる。

5. イーサリアムのステーキングは、1−2年の間はロックされたままになり、元本もステーキング収益分も引き出すことはできない。
この場合、ステーキング収益の発生はロック解除時点として、その時にまとめて納税するということで良いでしょうか?
個人的には、アップデートが順調に進むかどうかなどの不確実性があるため、ロック解除されるまでは自分の収益にはなっているとは言えず、債権の経過利子のように扱い、ロック解除までは非課税で良いのかと考えています。

A. 明文化されたルールは今はないため、断言はできないが、今の風潮としては収益が計上する度に課税される気はしている。
国税がまた後から解釈を出してくるかもしれないので、後から払わなくてはならなくなるリスクはあると思う。

以上です。

追記:「同族会社間の行為計算否認」について

何人かから「このスキームは「同族会社の行為計算否認」に該当するので税理士に断られました」という連絡を頂きました。

実は、この「同族会社の行為計算否認」で税務署に刺されるリスクがあるから、あんまり広めたくなかったんですよねーw

結論から言うと、僕らは該当しない、セーフだと考えています。

「同族会社の行為計算否認」とは

「同族会社の行為計算否認」とは「税負担の不当な減少を目的として同族会社間で行う行為は無効となる」と言うルールです。

例えば、「自分1人でやってる仕事だけど、法人税の方が個人の所得税より安いから、法人でやってることにしよう!」などと言う場合ですね。 これは、「税金の減少」だけを目的として形式的に法人に収益を付け替えてるだけであり、実態としては自分1人でやってる個人事業なので、この税金の減少が不当と判断されれば、無効となり個人事業として課税されます。

自分の法人でやることを正当化するためには、「税金の減少」以外の正当な目的が必要なのです。 例えば、よくある例として、不動産の資産管理法人を通じた賃貸業ですね。

個人が、自分の資産管理法人に不動産を貸与し、法人名義で入居者を探して又貸しすると言うスキームです。
この場合は、「法人名義の方が入居者が集まりやすい」などという、法人でやることに対して正当なビジネス上のメリットがあります。なので節税だけが目的ではなく、大義名分があるのでセーフなんです。

そもそもこのスキームは「税額の減少」を目的にしていない。

それでは、私のステーキングを法人でやるスキームはどうでしょうか?
一見、「税金の支払いを減少させるためだけに、法人でやったことにしてるだけ」だからアウトに見えますよね。

しかしよーく見てください。 実はこれ、税金の支払いは減ってないんです。

このスキームがやってるのは、「元本(1263ETH)の含み益の実現を遅らせて、課税を遅らせる」だけです。

つまり、日本に居住してる以上、いつかは元本の含み益についても納税するわけですから、少なくとも長期的にはトータルの税金支払いは減りません。

このスキームの目的は「運用収益の改善」。

じゃあ、なんのためにやるかというと「課税のタイミングを遅らせることで、その分、含み益の運用を継続し、運用収益を長期的に得ること」 が目的なわけです。
つまり、長期的な運用収益の改善が目的であり、税金の減少が目的ではないのです。 (節税スキームって書いてるけど、厳密には違います笑) だから、このスキームは「同族会社の行為計算否認」には該当せず、セーフであると我々(僕と税理士)は考えてます。

単年度の税額は減ってるけど、不当ではない。

「でも、単年度の税金支払い額は減ってるし、税金のタイミングをコントロールすることが正当な目的として認められるの?」

という考えもあるかと思います。

仮にそうだとしても、この単年度の税額の減少は不当なものでしょうか?

貸借料を他通貨で支払ってくれる仮想通貨レンディング企業やDefiもあります。そちらを使えば、このスキームと同様の単年度の税額の減少を実現できます。

また株などであれば、口座がわかれている場合は、同一銘柄であっても口座毎に平均取得価格を計算することが認められています。混ざっていないことが保証できるのだから当然だと思います。
仮想通貨も収益と元本のアドレスを分けて混ぜずに管理できるのですから、株と同じように取得価格を分けられるのであれば、このスキームと同様の単年度の税額の減少を実現できるわけです。

さらに、このnoteのコメント欄に税理士さんがコメントしてくれてますが、ストックオプションについての裁判で、「直ちに売却してれば取得価格を平均しない」ということが認められたりしてるようです。

なので、この単年度の税額の減少が、社会通念上「不当な税額の減少」に該当する可能性は低いと考えています。

参考までに、以下は国税庁の「不当性の判断基準」についての意見。
ここでいう「経済的実質に基づいて算定された税額」をちゃんと支払ってると思いませんか?

結論: セーフだと思うけど、自己責任でやってね。

ということで、

  1. 「長期的な税額は減少しない」

  2. 「運用収益の改善が目的」

  3. 「単年度の税額の減少も不当なものではない」

の3つの理由から、僕らはセーフだと考えています。

とはいえ、一見アウトっぽく見えることもあり(事実、多くの税理士はアウトだと考えてしまってる)、税務署が刺してくる可能性もゼロじゃないわけです。(だから広めたくなかったw) でも前述の通り、理屈で考えればセーフだと思うので、税理士を説得し、いざとなれば税務署と裁判で戦い、勝つ自信があるひとは、自己責任でやってください笑

※日本の納税は「自己申告」が原則です。
国民が法律を理解し、自己責任で納税額を計算して支払うことが前提となっています。
このように税理士によって法律の解釈が分かれるようなケースもありますが、法令解釈を決定するのは行政である国税庁ではなく、司法である裁判所です。
国税庁と法令解釈が違ったならば、裁判をすれば良いのです。
だから法律の解釈が分かれるからといって「やってはいけない」ということではありません。
また行政である国税庁に判断を求めても困らせるだけでしょう。(彼らも正解がわかるわけではないから。)
1人の国民として自己責任でご判断ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?