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【2023 ver】朝起きて、夜寝るまでの「最高の1日」を考える

私がこの街に恋をしたのはそういえばずっとずっと前のことで「いつかこの街に」から「いまこの街に」へと主語を変えたのは、もう3年も前のこと。
あの頃はこうして本当に住めるだなんて思ってなかったけれど、ほんの少し勇気を出して、誰も背中を押してくれないのなら自分で、と背中を押した。

それだけで人生は変わるのだと、この年齢になってやっと実感したのだ。


朝、目を覚ますたびに幸せな気持ちになる。
胸の内で小さな小鳥が忙しなく羽ばたいているようになんだか心はソワソワとくすぐったくて、ベッドから起き上がるとにんまりしてしまう。
今日も、窓の外を働き者のちいさなリスが木の枝を駆け回り、木の実を探している。



私の朝は比較的はやい。もともとは決して朝型ではないけれど、6時にはなんとか起きるようにしている。部屋の窓にはカーテンがないから(この国では普通だ、ということにしておきたいけれど、単純に揃えるのが面倒くさくて放置している)この時間になると光が直に目に入ってくるのだ。うーっと目を覆って起きあがると、ベッドの足元に寝ている猫がビクッと体を震わせて、一緒に起きたりする。

遠くからはバイクが走り去る音だとか、朝から元気なクラクションだとか、鳥の声だとか、ガサガサのリスと走り回る足音だとかが入り混じって聴こえてくる。そこに重ねてお寺からだろうか。オーンという少し低音の、お祈りのような音も聴こえてくる。心地良い雑音だ。

クロゼットをあけて、ずらりと並んだワンピースから元気なビタミンカラーの黄色を1枚と、店頭用のエプロンを1枚取り出す。
エプロンはあとで持っていく予定の、足元のカゴの中に入れた。

今日は月曜日。
タイでは月曜は黄色の服を着る。全員が全員ではないけれど、私は思い出したようにこうして袖を通す時がある。ぺらっと着替えて、足元に擦り寄ってきた猫に餌をやる。
ちなみにこの子は決して私の飼い猫ではない。最近よくやってくる子だ。この家は風通しが良いからか、虫だの猫だの鳥だの、ありとあらゆるものが遊びにきては気づくといなくなっている。
来るもの拒まず、去るもの追わずのスタンスだ。

ここチェンマイに移り住んで間もない頃は、私の家は街中にある小さなマンションだった。ひと部屋3万円くらいの部屋にひとりで暮らしていて、この街から30分ほどの森の中に友人たち3人で移り住んだのは1年ほど前のこと。
わたしたちはゆるい一人暮らしと、シェアハウスのちょうど真ん中のような暮らし方をしていて、夕飯はまいにち一緒に食べたり、みんなで何かを育ててみたりと、ひとつずつの家は離れているものの、同じちいさな村に暮らすような生き方をしている。
ちょうど、昔の日本のような暮らしを海外でしているのだ。

軽く掃除を済ませ、朝ごはんにスイカスムージーを作ってから窓際の机に腰を下ろす。時計にちらりと目をやると7時前。ここから8時半までは英語の勉強が日課だ。いつものメニューをこなしながらジュースをちびちび飲む。英語の勉強も3年目になって、今では十分日常会話はできるようになった。でも相変わらずビジネス英語はまだまだで、最近はもっぱらその勉強だ。お店で使うことは少ないけれど、やっておいて損はない。というより、こうして朝に勉強する癖がついてしまったのでやめたくない、というのが本音かもしれない。
朝は英語を、そして夜はタイ語を。このバランスが私にはどうやらちょうどいいらしい。

8時半。うんと伸びをしてコーヒーを1杯淹れる。
9時まで休憩したらメールを何本か返して、化粧をして。お店に向かわなければ。

コンコン、とドアをノックする音と同時に、隣に住むMが「今日お店何時から?」と顔を出す。
「開けるなら、そっち行く用事あるからなんか持っていくよ」と声をかけてくれた。私は彼女に今日飾ってほしい花と、ショップカードの補充と、お店の鍵を渡す。ついでにスタッフがもうきてたら、insgatramに今日オープンって書いてって伝えてくれる?と言伝をたのむ。
おっけーとひらひら手を振って、しばらくするとバイクのエンジンがかかる音がした。

チェンマイでドーナツ屋をやろうかな、と思い立ったのは随分前の事で、実際にオープンしたのは半年前になる。良い物件がなかなか見つからなかったのだけど、縁もあってちいさなお店をやっと、旧市街の中にオープンすることになったのだ。
本当はニマンヘミン通りの外れの方に借りたかったのだけれど。高くて手が出なかった。きっとまた縁があったらあの場所にも、移れるだろう。

私のお店は本当に小さくて、スタッフが1名とわたし、そしてパートナーがたまに店頭に立つ。米粉を使うドーナツはそれなりに評判が良くて、午前中に売り切れたりもする。

肝心の売り上げはというと、スタッフの給与とお店の家賃でトントンくらい。完全に趣味の域を出ないけれど、わたしにとってはその周りにできているコミュニティに価値がある。
いろんな人がこのお店でつながり、新しい何かが生まれ、私自身がここに暮らす理由になっているのだ。


本業はあいも変わらず、写真とたまに執筆の仕事をしている。
街を撮ったり、最近では人を撮ったりもする。お店の料理やポップを撮らせてもらうことも増えてきた。そこから友達も増えるし、私には合っているコミュニケーション方法だと思う。
その文脈からお店に足を運んでくれる人もいて、撮影中に声をかけてくれたりもする。
この3年、ひたすら ”この街に根付くこと” に重点を置いてきた結果、わたしはこの町の住人としてようやく、なんとか形が出来上がってきたのでは、と最近実感する。


開店のすこし前にお店に足を運ぶと、可愛らしい民族衣装をあしらったタイの服に身を包んだ日本人の女の子がふたり、店先で写真を撮りながらオープンを待ってくれていた。「もうすぐ開店なので、どうぞ」と声をかけると、一瞬驚いてから朗らかに笑った。後ろから小さな声で嬉しそうに「いま日本語だったね」と囁きあっている。

店頭にはドーナツが3種類。それと珈琲とノンカフェインの台湾茶がひとつずつ。メニューはそれだけだ。
店内でもすこしだけ席があるけれど、お持ち帰りがほとんど。
近くには木漏れ日が綺麗に落ちる公園があるから、みんな大体そこでドーナツを食べる。

この日はこの可愛らしいふたりぐみのお客さんを筆頭に、まあなかなか忙しかった。13時にはすべてSold outして、お店の看板をCloseにする。

こうやって早くお店が終わった日はお昼を、近くにあるビーガンカフェ「Reforme Kafe」で食べる。その後何も予定がなければお家に戻って写真の仕分けをしたり、お昼寝をしたりする。

前は予定がないと詰め込みがちだったけれど、最近はそれをしなくなった。年齢のせいなのか、私があちこち旅をするのを辞めて一箇所にとどまるようになったからなのか。
理由はわからないけれど、のんびりと暮らしを楽しんでいる。

お昼ご飯を食べ終わり外を眺めているとMと、MのパートナーからLINEが入る。ふたりもどうやら仕事が早く終わって近くのテラスのあるカフェでお茶しているらしい。少し迷ってから合流することにした。この季節、あの場所は心地よい。
カフェに到着すると私の座る予定だった場所には猫が寝てしまっていた。
こういうところもチェンマイらしい。わたしはその猫を起こさないように浅く腰掛けて、お茶を注文する。
ふたりと知り合ったのはもう10年ほど前の話で、右葉曲折あったものの結局みんなこの街に落ち着いた。
そういう引力がある場所なのだ。


17時前になり空がだんだんと夜の準備を始める頃、みんなであとで夜マーケットを散策する約束をしてから、家に戻る。
ドアを開けるとベッドの上で朝と同じ猫が眠っていて、どこもかしこも、本当にまあのんびりしちゃって。と思わず笑ってしまう。

机でメールと明日の仕込みをもう一度確認してから、パートナーに「みんなとマーケットにいるから仕事終わりにLINEしてね」と一報いれる。

この後はきっといつも通り、20時くらいに帰ってきて湯船にのんびり浸かって、この辺りは静かだからもう22時頃には眠くなってしまう。

今日タイ語の勉強ができるかなあ、マーケットでお酒を飲まなければいけるな、とひとり会議がはじまる。

ゆっくりと、太陽が山の裏へと顔を隠し始めていた。



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これは半年に1度、または1年に1度のペースで取り組む自分の最高を見つめ直す空想日記です。書けば書くほど理想にきっと近づいていきます。たぶん。(私はそうでした)
良ければぜひ、自分の心の声に耳を傾けてみてください。


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過去の空想日記たち(2021年5月verに細かいやり方も載ってます)


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