経験してない癖にと言ってはいけない

 ある人が何かを発言したときに、たとえその人が経験してない事象だったとしても、経験してない癖にと揶揄してはいけない。もちろん、その人の考え方や勉強不足を批判するのは構わないと思う。でも、経験していないということを批判してしまうと、全ての人が経験していないことを何も発言できないし、ひいては何もできないということになってしまう。

 少し乱暴な例えであるが、例えば出産経験のない女性や男性が産婦人科の医師になれなかったり、子どもがいないと保育士の仕事ができなかったりするだろう。この論理でいくと、病気になったことのない医師がその病気の専門医になれないということにもなる。

 私の属性にもノンセクシャルというセクシャルマイノリティであることや、いじめの被害者で不登校を経験したとか、彼氏に振られてメンタルをやられそうになったとか、親の病気で高校生で一人暮らしを経験したとか、親戚の難病で家族がバラバラになりかけたとか、なかなか濃密な経験をしている。

 もちろん戦争を体験していない世代だけれど、祖母に聞いたり、本やテレビで見聞きしたことから、二度と繰り返してはいけないことだと理解している。悲惨さやつらさも想像ができる。

 経験していないことは、例えば、文献で読んだり、体験談をSNSで見つけたり、当事者から話を聞いて、想像することは誰にでも許されることだし、そうでないといけない。

 とはいえ、例えば私がノンセクについて、他人にわかったような口調で何かを意見されたら、イライラするだろう。当事者に向けて発信することは注意が必要だ。そういうときも、「経験してない癖に」という反論ではなくて、「勉強不足だ」とか「考えがおかしいのではないか」という風に反論をしたい。

 「経験してない癖に」と一蹴したら、そこでお互いの思考が停止してしまう。それだけは絶対に口にしないように気を付けたい。

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