「いいんだよ 分からないまま」 カネコアヤノの全肯定
2023年最新作『タオルケットは穏やかな』
カネコアヤノ、通算6作目のフルアルバム。
現体制になり「自分で試行錯誤しながら作った本当の1stアルバム」の『祝祭』から数えると4作目となる。
とっても気に入っている。
カネコアヤノのことを好きになってニューアルバムが待ち遠しくて、でもアルバム『燦々』が大好きで個人的にはこの先もナンバーワンかな?
なんて思っていた自分に「お前はカネコアヤノをわかってない!!!」と言ってやりたい。
カネコアヤノ史上、最も一貫したテーマの流れるコンセプトアルバムだと思う。
「聴いた人それぞれに感じてもらえればいい」といつも本人が言っているので、このアルバムへの思いを自分なりにまとめてみたい。
先行配信『気分』の衝撃
今作発表の前に『わたしたちへ』『予感』『気分』の3曲が順に先行配信された。
この中の『気分』が一番初めの大きな衝撃だった。
配信されたその日、ツイッターにてフォローしているカネコアヤノのファンが「初めて『初めて聴いた曲』で泣いた」と言っているのを見かけた。
またまた〜大袈裟なんだからみんな、と思いながら自分も聴いてみた。
大袈裟じゃなかった。
わかる。これは泣ける。
聴く人を泣かせる、感情を揺さぶるすごい曲だなと思った。
「上がったり下がったり」してわたしたちを振り回す「気分」を、揺れ動くように激しく、それでいて繊細に表現した後、「帰ろう 帰ろう 帰ろう」と穏やかに繰り返す。
最後のサビの後のバンドサウンドもすごくいい。
優しく、切ない。
一日の終わりに夕陽を眺めながら「これでいいんだ」「今日もがんばった」と自分を諭せるような。
理想通りにいかなくても、今日という日を讃えられるような。
そんな曲に感じた。
この曲が配信されてしばらくした後、仕事の関係で少し落ち込んでしまったときなんか、すごく胸に響いた。
数ヶ月後、ついにアルバム『タオルケットは穏やかな』がリリースされた。
オフィシャル通販「カネコ商店」にて予約していたCD/LPセットが届く。
先行配信されていた『わたしたちへ』が再録されていてノイズが鳴り響いてびっくり。
より力強くなっていてたまらない。
『季節の果物』の歌詞、面白い。カネコアヤノ節というかんじ。
『もしも』が終盤ゆら帝の曲みたいになっていってすごくインパクトがあった。
などなど、それぞれの曲にいろんな印象を持ったけど、はじめの頃は『気分』の衝撃を超えることはなかった。
数日後に公開されたアルバムタイトル曲『タオルケットは穏やかな』のMVを見るまでは。
MVに感動
アルバムリリースから数日、カネコアヤノが30歳になったその日にタイトル曲のMVが公開になる。
びっくりするくらいよかった。
すぐに繰り返しで何度も見た。
楽曲のイメージが何倍にも膨らむ素晴らしい映像作品だった。
街、人、犬、猫、鳥、花、赤子、見守る大人、空、雲、不思議なオブジェ、遊ぶ子ども、たくさんの家、たくさんの窓。
この世の中にあるもの。
僕らが作ったもの。
ここで暮らしているみんなが息をしていること。
そのすべてを受け入れるような、ありのままを肯定するような、大きなテーマの曲なんだとMVを見て感じた。
ビデオを見るまでこの曲の良さに今ひとつピンときていなかったことが、悔しく恥ずかしくなるくらい素晴らしい作品だった。
カネコアヤノは「分からない」ことも「曖昧な」ことも「いいんだよ」と全肯定して歌ってる。
大事にしたいものを少しずつ大事にするのが大変になっても、考えすぎて熱が出ても、それぞれが迷ってそれぞれに答えを出して、それでいいんだよと歌ってくれる。
アルバム全体に漂うテーマ
MVを見てから、「このままの自分でいいんだ」という前向きな気持ちがアルバム全体に込められていることに気づいた。
『気分』の「帰ろう」というフレーズも、安らげる場所へ戻ろうという肯定的な言葉に聞こえる。
『こんな日に限って』と『タオルケットは穏やかな』に続けて出てくる「鈴の音」は、きっとカネコアヤノ自身の音、歌、曲、バンドの音楽のこと。
時々大事なことを見失いそうになるけど、自分自身の音のする方へ、安心するところへ帰ろう。
そういう思いの込められたキーワードなんじゃないかなと感じた。
自分のことのように感じられる素晴らしい楽曲ばかりなのはこれまでと変わらないが、「いいんだよ」と寄り添ってくれるその力強い言葉と強いメッセージが、今回のアルバムで辿り着いた新しい境地なんじゃないかなと思う。
ヘンテコなアルバムジャケット
今回のアルバムのジャケットを初めて見たとき、ガスタンク?変わってるなー、カネコアヤノっぽいけど、と思った。
けどアルバムを聴きタイトル曲のMVを見た今なら、伝わってくる思いがある。
あのヘンテコな建物?物体?も、わたしたちの一部。
この世界で息をしているわたしたちが作り出した、日々の暮らしの象徴の一つなのだ。
そんなオブジェの前でこちらを振り返った一人の女性が、大好きなアーティストのカネコアヤノが、日々の尊さを僕に伝えてくれた。
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