【読書日記】会社のなかの「仕事」 社会のなかの「仕事」
『会社のなかの「仕事」 社会のなかの「仕事」(阿部真大・光文社新書)」を読みました。
こちらの著者は、社会学者で甲南大学教授の阿部真大さん。他にもバイク便ライダーで働く若者たちの実態を描いた「搾取される若者たちーバイク便ライダーは見た!」、地方で暮らす若者たちのリアルな生態を描いた「地方にこもる若者たちー都会と田舎の間に出現した新しい社会」などの著書があります。
この本は、現代日本における長時間労働、カスタマーハラスメント、硬直化した企業文化などの仕事の問題を取り上げて、それらを解決するためには、仕事を会社などの組織ではなく、「社会」のために捉え直すための本です。
そのために必要なのは、求められている仕事の捉え方、いわゆる「仕事観」であり、仕事を個々の会社の組織の役割ではなく、社会の中での役割と位置付けることであると本書は、提言しています。
本書で、私が特に面白いと感じたのは、仕事観を、会社の中での役割を果たすことでなく、社会の中で役割を果たすと捉え直す考え方が、「カスタマーハラスメント」や長時間労働に繋がる「やりがい搾取」の防止になるという本書の考え方です。
もし、仕事が「目の前のお客様の要求に応えること」や「経営者の命令に従うこと」という、会社組織の役割だとすると、お客様からの不当な要求を求められるカスタマーハラスメントや、経営者からの過剰な命令による長時間労働につながる可能性があり、労働者が過酷な環境に置かれてしまいます。
しかし、仕事を「社会の中での役割を果たすものである」と捉え直し、「私たちの仕事は〇〇をすることではなく、△△をすることである」と言える社会的な合意を作り出すことで、労働者が守られる環境を作ることが出来ます。
つまり、目の前のお客様や上司が喜ぶから仕事をするのではなく、社会のなかで自らの役割を果たすために仕事をするのであるという「職業の社会的役割の明確化」により、仕事が無限的に増えていく状況に歯止めをかけるということです。
本書で、もう一つ私が面白いと感じた点は、グローバルなビジネスエリートと、ローカルコミュニティを繋げる「パートタイム田舎就労」の取り組みを、「職業の社会的役割」に「気づき」を与えるものだと言及している点です。
パートタイム田舎就労とは、都市部で働く人が空いた時間に地方でも働くことを意味します。
この取り組みを進めている岐阜県のNPO法人GーNETに曰く「ふるさと兼業」と言われ、「プロボノや兼業、パラレルキャリアという言葉が当たり前に使われるなか、都会で生活しながら地域に関わる、大手企業で活躍しながらNPOや中小企業、ベンチャー企業に関わる、そんな新たな選択肢を提案」しているとのことです。
本書では、パートタイム田舎就労の取り組み例として、コロナ禍の京丹後の飲食店を支援する「ALL TANGO ACTION」が紹介されています。
このプロジェクトに関わった人たちは、企画のアイデア出し、広報、ロゴ作成などそれぞれが得意なことを活かして、京丹後の活性化に関わっているとのことです。
このような、それぞれが仕事で培ったノウハウを活かして、有機的に繋がっていくことが、自らの「職業の社会的役割」を認識するきっかけとなるものであるとのことです。
さらに、これらの地域で活躍する人々の地縁とは異なるネットワークと、「職業」を通じた有機的なつながりが、新しいコミュニティを生み出しているとのことです。つまり、著書は、かつての田舎的な地域のローカルコミュニティはある一方で、ふるさと兼業に関わる人たちが各々の社会的な役割をベースにした「有機的連帯」のリアルな手応えとやりがいを感じていることが印象に残ったとのことです。
この各々の職業的な知見を、ローカルなコミュニティ活性化に活かして、各々が有機的に繋がっていく事例は、私が住んでいる地域(豊島区)でも実際に起きているのを間近に見てきているので、きっと地方、都市部に関わらず、広がっていくと思います。
著者曰く「パートタイム田舎就労」については報酬の低さや、やりがい搾取に繋がる可能性も指摘出来るので留意すべき点はあるものの、これらの取り組みが広がっていくことを期待ひたいとのことです。
本書は、自分の「仕事」と、その役割を捉え直して、社会の中で、どのような役割を果たすものなのかを考える良い契機になると思うので、おススメです。
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