見出し画像

映画「missing」

重たい映画だったけれども、監督の意図するところが掴み切れなかったというのが正直なところ。
いちばん引っかかったのが、沙織里という人物像がよくわからないことだった。
まあ、母親として登場するのだけど。
でも、母親である以前に一人の人間として、この人はどういう人なの?というところが。

自分の印象としては、まだ精神的に幼く、あまり聡明ではなく、おおざっぱで感情的に開放的で・・・?
正直、あまり好ましい印象ではなかったのだけど、それは私自身の偏見に繋がるのだろうか?
美羽がいて普通に幸せだった時期の沙織里がほとんど描かれておらずいきなり「娘を失って混乱している母親」として出てくるので、その様態がもともとの人柄と地続きなのか、事件によって豹変してしまったのか、つまりもともとどういう性格の人なのかがわからない。
だから半狂乱な、時には暴力的な姿をどう受け止めたらいいのかという戸惑いがずっとあった。

その受け止め方がすでにもう「他人事」なのかもしれない、とも思うけど・・・
大事なことは「娘を突然理不尽に失った母親の気持ち」だけ、なのかもしれないけど・・・

映画について

そういうわけで、非常に主観的な感想になります。

辛く、腹立たしい2時間だった。

沙織里と同じ出来事ではないけれど、私は結婚5年目で離婚した時に近い経験をした。
当時はSNSなどなかったけど、顔見知りでも言いたいことは言ってくる。
SNSとちがって大真面目に「あなたのため」と思って「自分はこう思う」をぶつけてくる。
それはそれでキツイものがある。
そんな話をいくら聞かされても、私の中に積もっていくのは
「私が一番辛いのに、誰もわかってくれない」
という感情。
わかって欲しいから周囲の人々に感情を見せる、ぶつける。
表さないとわからないと思うから、出す。
でもその結果、さらに辛いものを受け取ることになる。

心の痛みって単なる外傷と違っていろんな傷が混ざり合ったものだから、その痛みはその複合的な要因を全部わかっている自分以外にはわかりようもないのだ、ということは後になって思う事で、その時は、縋るように人の理解や共感を求めてしまうし、通じないという思いを重ねていく先にある絶望は深い。

結局人はみんな自分の事しか考えていないのだ。
好き勝手言うSNSの人たちも、「寄り添う」と言う言葉を餌の様に使うマスコミも。
沙織里は絶望を重ねながら、そのことに気づいて行ったのだろう。

ラストシーンで思ったのは、美羽は沙織里の心の中に帰ってきたんだな、ということだった。
「青い鳥」ではないけれど、美羽はここにいるじゃない、と気が付いたのだと思う。
そしてこれから先、沙織里は美羽と二人だけで生きて行くんだな、と。
他人への期待を一切捨てて、心の中の美羽と一緒に一人で歩いて行くのだと。
ラストシーンの沙織里を見て、その孤独感と解放感を私は知っている、と思った。

でもそれは決してハッピーエンドではない、ということは書いておきたい。
このラストシーンを「光が見えるラストだった」と感じる人もいるようだけど、それはあくまでも沙織里だけの光であって、人の社会、人の世界の光ではないし、そうであってはならないのでは、と思う。

そして、原点に立ち返って、なぜこの映画が「辛く腹立たしい2時間」だったのかを考えていきたいと思う。

石原さとみについて

主演・石原さとみについて。
今までのイメージから脱皮したかった、ということらしいが。
そのテコ入れのテコにするにはちょっと違ったんじゃないかな、という気がしている。
もちろん熱演だったし名演だったとは思う。
ただ、役者としては素の自分と乖離したものを選んだ方が良かったんじゃないかな、と。

監督がインタビューで彼女のテンションに引っ張られた的なことを言っていて、この沙織里は監督が意図したものだったのかな、と思う事が多々あって。
単純な言い方をすると、石原さとみの演技のテンションで脇が霞んでしまった印象があった。
それも監督の意図するところだったのかな、と思ったり。
温度差、というセリフもあったわけだし。
ただ、ずーーーーっと動悸が激しいようなテンションが続いた末に、あのラストシーンは、なにか心が昇天したような感覚があったのも確か。
だから、全部計算ずくだとしたら、それはそれですごい役者だということだ。

石原さとみって多分、すごく真面目な性格なんだろうな、と拝察する。
いわゆる「芸能人」的な評価や扱いではなく、職業としての「役者」を極めたいんだろうな。
イケメンと言われる男性俳優もだけど、年齢的な過渡期をどう超えるかってことに真剣に向き合ってる俳優のそういう姿勢って案外外に見える気がする。
そして、そういう気概が見える俳優は着実に進化してるようにも感じる。
これからの石原さとみに期待したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?