映画感想『ドラえもん 新・のび太の宇宙開拓史』(2009年)
2023年12月22日 AmazonPrime Videoにて鑑賞
アニメとしては前3作からグッとおとなしい作りになった。前作が大暴れしすぎたのもあるけど、今作がそつのない作画になった原因のひとつは、物語のモチーフにもあると思う。
今作のストーリー上、いちばん重要な要素は「重力」だ。そのため、物理的な動きを正確に描写しなければ、話自体の説得力に関わる。だから物理的な動きのリアル度を高くする必要があり、絵柄も前作までのようなグニャグニャ動くダイナミックな作画でなく、リアル寄りにする必要があったんだと思う。
結果的に言えばTVシリーズに近い作画の雰囲気になっている。(ただし、シーンによってメインキャラの画風というか描線の違いが大きい気がして、これはちょっと気になる。)この感じがこれ以降のドラえもん映画でも続いており、前3作よりはずっととっつきやすい方向になっている転換点とも言える。
ということで、今回の一番の注目ポイントは物理的な動きのアニメ表現だと思う。
序盤の日常パートでも、注意して見ると人物が上から下に落下する動きが多い。工事現場の穴、静香の家の木といった高いところから落っこちることがロップルとの精神感応のきっかけになっているけど、地球の重力をしっかり描写するという必要不可欠な伏線にもなっている。その他の地球の場面でもドラえもんやのび太は落ちたりつまずいたりの動きを反復している。一箇所だけ、階段の手すりから2人が落っこちるシーンがギャグ的にスローな動きになっており、そこは徹底してほしかったと少し思ったけど、まあ小難しく見過ぎかもしれない。
畳と宇宙船が繋がってからは、そうした日常描写の積み重ねもあって、コーヤコーヤ人と地球人の重力感の違いがさり気なく表されていて、地味だけどいいアニメーション表現だと思った。落下以外にも、体の動きや髪のなびき方など、物理的にリアル寄りで、かつ表現としてのケレンや色気も失っていない、微妙なバランスの動かし方を全編にわたって概ねキープしていると感じた。流石に’81年版と比べるとアニメ技術は進歩しているなあとシリーズの歴史を感じる。
'81年版映画は意外と漫画版との差異も大きいので、原作漫画のほうが良かったところは概ね漫画準拠にされていて良かった。特に、チャミーとギラーミンのキャラデザが漫画と近くなってたのは良かった。
最終決着がのび太とギラーミンの一騎打ちになってたのも良かったけど、足元が荒野のような地面はでなくコンクリートだったり、あまり間を取ってなかったりして、どうせならもう少し西部劇っぽい雰囲気を出してくれたらよかったのにとも思った。
ドラミを投入した理由が本当によくわからない。この時期レギュラーキャラにしようとしてたのかな。のび太の部屋という究極の日常と宇宙の果てという究極の非日常とがゼロ距離で行き来可能になる、という話なのに、途中で半ば非日常側のドラミが事情を知ってしまうことで、日常と非日常との対比がブレてあまり良くないと思う。
一番不満なのは、超空間の裂け目の行く先がわかってしまったこと。落ちてもわりと何とかなるんだ…って思っちゃったし、どの超空間でも同じ場所に通じているのは宇宙を狭く感じてしまった。
最後の解決は原作だとあまりにも偶然頼りなのでもうひと盛り上がり作ろうとするのもわかるし、上手く話を作ったなとも思う。でも、宇宙の怖さや底知れなさを減じていて、トータルではあまり良い改変と思えなかった。
原作の解決の雑さも、のび太の物語としてシンプルに一本芯を通すためには良いことだったのかもしれないと、翻って原作の印象がより良くなったりした。
ここで原作漫画のことをより本質的に考えてみる。
大長編ドラえもんのフォーマットがまだ固まっていない2作目というタイミングで描かれた原作は、のび太以外のレギュラーメンバーの活躍が極端に限られているなど、シリーズの中でも異色なほどシンプルな「のび太の物語」に終始した作品だ。
さらに究極的に言えば、この話の本来の肝は「位置」「距離」「重力」の3つに集約される、とてもストイックな物語なのではないかとすら思った。 「はるか宇宙という位置がもたらす距離や、上と下という位置がもたらす重力が、それぞれ取っぱらわれたり変化することで生じる可能性」をずっとシュミレーションしている話と考えれば、理想郷へのあこがれもロップルとの友情もスーパーマン的活躍も、全部その中に収まる気がする。
総じて本作は、原作にいろいろ付け足したことで充実度は増してるかもしれないけど、原作が超シンプルゆえに持っていた力強い感動、すなわちのび太が非日常を求める切実さ、距離や位置関係によるロマンや恐怖、別れの悲しさといったことなどが、かえって減ってしまった気もする。
そこまで不満なわけじゃないけど、そんなに良くもないリメイク。
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