「ファンなら祝え」は暴力だ

 最近、某大人気アイドルグループの方が結婚されましたね。動揺される方々も多いと思います。まだ受け止められてない方もいると思います。なんたって、アイドルって偶像ですからね。偶像って辞書で引いてみてください。信仰の対象とか比喩として崇拝の対象って出てきますから。さて、アイドルに限らず、芸能人の結婚報道が出ると必ず出てくる「ファンなら祝え」という意見があります。もちろん、お祝いする気持ちは素敵なことですが、私はそれが暴力であると思ってなりません。

 そもそも芸能人の結婚報道に関して誰であれ手放しで喜べるのっておそらく芸能人にそこまで関心がない人だけだと思うんです。私だって興味のない芸能人ならおめでとうって言えるんです。なぜなら、ファンとして接した時間がないから。接した時間が長ければ長いほど色々と複雑な思いも出てくると思うんです。もっと言うと、芸能人でなくともこの現象は起こるんです。
 皆さんが想像しやすいのは「娘が交際相手を紹介しにきたときの父親」でしょうか。これこそ、身内なら喜べと言われてもおかしくないはず。でもできないんです。何故なら大切に大切に育てた娘、色んな所を見てるのにそれが急によく知らない人と将来を共にすることを考えてると打ち明けるのです。もちろん、この時点で受け入れられる方もいるでしょう。それはファンも同じことでその時点でおめでとうと言える方もいます。でも、受け入れられない方もいて当然なんです。身内と芸能人を一緒にするなと思われるかもしれませんが、「接している時間」で考えると同じなんです。それも、家族に関して嫌いという感情は生まれやすくても、好きという感情は認識しにくいじゃないですか。無意識に好きでも、その好きは穏やかな好きであって熱のこもったものではないはず。芸能人に対して抱く好きは激しい熱のこもった好きなはず。接した時間と好きの温度を考えると、少なくとも同じくらい受け入れにくさはあると思います。

 だからこそ、急に結婚報道が出たときにすぐには祝えない人がいて当たり前です。そして、その消化不良な感情はたった一人で処理しなくてはいけません。その処理方法としてTwitterなどで呟くという手段を取る人は少なくないはずです。Twitterでショックを呟くのはテレビのためでも芸能人のためでも他人のためでもなく、自分自身の感情に折り合いをつけるためです。ゆっくりと消化して事実を受け入れる準備をしているだけなんです。考えてもみてほしいんですけど、結婚報道が出たときに「最悪」や「ショック」という言葉はよく見ますが、「別れてしまえ」って言葉あまり見なくないですか?もちろんそう思う方もいるかもしれないんですけど、そこは芸能人ですから。自分がその人と結婚できるとは思ってない人が多いと思います。だから別れてしまえなんて言葉はあまり見ないと思うのですが、いずれにせよ「受け入れなくてはならない」と誰もが思ってるんです。

 「事実を受け入れるために自分の感情を吐露している」人を見て、「ファンなら祝え」と言うのは「悲しいときに涙を流すな」と同義だと思っています。それはあまりにも暴力的ではありませんか。悲しいときに泣くのは当たり前で、その涙が言葉の形をしているにすぎないのです。

 また、最近報道が出た同グループの別の方は、交際相手とのスクープがとられましたがいわゆる「匂わせ」を一切せず、本当の意味で陰ながら応援してた方です。たまたま運悪く報道が出てしまったようなもの。その方の報道が出たとき、今回の結婚報道よりも炎上の火は下火だったと思います。結婚してもおかしくない年齢ですし、その時もファンは受け入れたんです。そしてそのお相手が本当に本人とファンのことを考えてくれていたことが、これまでのゴシップの少なさやSNSでそのお相手と見られる方のアカウントなどの情報が流れなかった・わからなかったことで、その誠実さが伝わっていたのだと思います。対して、今回炎上した方は度重なる「匂わせ」が話題となっていました。これは私の考えですが、「ファンの心を一切考えず、『私この人と付き合ってるのよ』というアピールを自己満足のためにしてしまうような、考えなしな人に失望してしまう」というのがあると思います。もっというと、「そんな人と付き合ってる推しに失望してしまう」人もいると思います。先程の娘が交際相手を紹介しにきたときの父親に例えますが、その交際相手が自分の気に入らない人だったらどうでしょう?娘に相応しくないと思う人ならどうでしょう?少なくとも「もっとふさわしい人がいる」と思ってしまいませんか?誠実でいかにも娘を大切にしているとわかり、親である自分たちのことも気にかけてくれる方と、娘のことは大事にしてても親である自分たちのことを一切考えない方だと受け入れやすさも違うと思います。

 もちろん、結婚された方のファンでも交際報道が出た方のファンでもまだ受け入れられてない・もう受け入れたという時差はあると思いますし、あって当然だと思います。でも、その芸能人とお相手とファンの背景も考えずに「ファンなら祝え」という風潮は、世間による暴力だと思います。

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