彼らは賢明です

 断筆して四足歩行から二足歩行へと戻っていく盟友たちの背中をずっと眺めている。眺めていると、濡れた心臓が乾いて、次第に冷たくなっていく。盟友たちの手指と同じように。まつ毛に霜を付けたまま、彼らの背中を眺めている。

 この歳にもなると、志半ばで果てる者も多い。現実とのすり合わせに上手くいかず広くて歩きやすい道へ、しっかりと舗装された道へ行く。
 自分よりも才能も魅力もある人たちが、一個の立派な人間へと戻っていく。地面に根ざした両手を持ち上げて、髪を撫で、顎をさすり、鼻をこすり、拳をつくって目をこする。夢への道はけもの道だ。人の姿では通ることができない。

 ぼくの友は、ずいぶんと人間に戻っていった。家庭を築いた人もいれば、細々と生活する人もいる。文筆とは逆の職種について成功した者もいる。
彼らは賢明だ。文字で、文章で、言葉で夢を叶えようなんて悠長だ。

 ぼくは見送る側になっていた。彼らの背中をぼんやりと眺めて、ときおり彼らが振り返って見せる皺の深い笑顔に目を細める。哀惜にも似た感情がこみ上げる。それは胸いっぱい満たされる前にどこかへと流れ落ちていく。満ちることなく空っぽになった感情の器は干からびて、少し触っただけで崩れ落ちそうになる。ぼくは器を大事に大事に抱え込んで、雨が降るのを待つ。

 雨は涙かもしれないし、飢えてしたたる唾液かもしれないし、誰かが浴びせる言葉の雨かもしれない。
 生い茂る草木と青臭さに囲まれて、器を抱え込む。ぼくは人間じゃないから二足歩行じゃ歩けない。

寿命が伸びます