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「ナラタージュ」長考中!!

島本理生さんの「ナラタージュ」を読みました。演劇部に所属していた工藤泉と顧問の葉山先生が互いに思い合い、年月を重ねていくお話でした。

お話は前半と後半で印象がガラリと変わります。私は特に前半の大学生活を送る主人公の暮らしぶりがとっても好きでした。元演劇部の泉が、母校のお芝居にOGとして参加する日々が丁寧に綴られています。

食べるもの着るものの細やかな描写と、演劇に参加する大学生のグループ交際がとても楽しそうで「リア充、いいなぁ〜。」と、泉の素朴で丁寧な暮らしを疑似体験した気持ちになりました。

泉に好意を持つ小田君がとってもいい子で優しくて紳士な彼との初々しいお付き合いの様子もすごく好きでした。

後、泉が葉山先生に好意を持つきっかけが、彼女のクラスメイトとのトラブルへの介入だったのですが、そのトラブルの表現や彼女が傷ついた過程がとても丁寧でした。そうね、別に暴力じゃなくても、クラス中からハブられなくても、ほんの一言でも、決定的に傷つくこともあるよね。って言う。

そこでまた葉山先生の所作に救われると言うか、その存在に救われる泉の心情が心に滲みました。

そんな風に時を過ごしたら、もう致命的に運命の人だよねって思いました。

ただところが、後半になると運命の女神が運命のキングコングに変身します。金属でもねじ曲げますなって勢いです、残酷でヒリヒリするような展開となります。

主人公の泉も作者もこの恋に勝るものなし!!なんですよね。あれだけ丁寧に泉とクラスメイトのトラブルを綴っていたのに、演劇部の在校生の柚子ちゃん、新藤君へはとっても乱暴な運命を与えます。彼氏の小野君も、きっちり嫌な奴にしてしまいます。後半になると、前半の主要メンバーの扱いが雑になるので、そこは肩透かしを食った気持ちになりました。皆、魅力的な面々だったのだから、色々あって疎遠になりました〜にしないで欲しかったです。

にしても、です。きっと「ナラタージュ」の主題は大学生の女の子の初々しい感性によって綴られる日々ではないんですよね。

メインテーマは、運命の恋をして、それが結ばれなかったらどうやって昇華するか、なのだと思いました。後、裏?テーマは性と言うものの儚さ、女性にとっての荷の重さ、ですかね。

恋と言う視点だけを切り取るとするなら、別にいいと思うんです。泉が葉山先生を好きでそれでいいと思う。彼女が彼を好きなのは当然だと思う。それが故に優しい恋人を傷つけても、愛しあえども前進できない葉山先生がいるからこそ、優しい恋人に空いた部分を埋めて欲しいと。それはそれで全然分かる。叶わない恋を死ぬまで引きずります。上等だと思います。

ただ、なんだろう?泉は気付いてないけど、作者もあんまり追求してないけど、葉山先生はずっとずっと泉を大切に愛していたのは本書を通じて変わらない姿勢だったと思うのです。だから、ラストに葉山先生の思いを聞いて泉が驚くんですが、読んでた私からしたら、あんた葉山先生の気持ちはずっと、そうだったじゃん!今更、驚くかいなー!?って言う気持ちが沸きました。

そしてね、仕方ないことなんだけど、運命の恋をして、その恋に未来がなかったら、どーしたらいいのかね?って言う全人類の疑問ですよね。その解決方法として、一生この人を好きでいますって回答があるのもいいとして、なんかさ、思い方がヘルシーじゃない、前向きじゃないんですよね。忘れられない恋をしたって、地に足ついた幸せを得ていいじゃん。人生長いのにそんな、そんな思い出をアメ玉みたいにしゃぶり続けてそれだけで生きていけるのかな。私だとしたらああ、なんか閉塞感。文学がノンフィクションならではの、大きな飛躍を見たかったなーと思ったのでした。

ずっとずっと誰かを好きでいるって決めたのに、そうやって自分の心の自由を認めたんだから、恋と性と思い出のドレイから抜け出して欲しいよーと思った次第です。

今度はこの方の、エッセイや紀行文等も読めたらいいなあと思いました。真面目で性に開眼したら不良ぽくなっちゃったけど、あなたの性格地に足がついてるタイプなんだからさ、なんか、そーゆーの無理しないで自分大事にしてよー、言いたくなるような気がしました。

ではでは、またいつかどこかで長考中にお会いしましょう。






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