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「せーの」で権力を手放す集まりの可能性 − フレデリック・ラルー『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』英治出版、2018

 嘉村 賢州 氏より献本御礼。

<なぜこれほど多くの人々はあんなに働いてからディズニーランドに行くのだろう。テレビゲームはどうしても仕事よりも人気があるのだろう。なぜこれほど多くの労働者引退の時を夢見てその後の計画を立てることに何年もかけるのだろう。その理由は単純だが気が滅入るものだ。私たちは職場を欲求不満の溜まるつまらない場所にしてしまった。社員は言われたことをやるだけ。組織の意思決定に終わる方法がほとんどなく、自分の才能を十分に発揮もできない。当然の帰結として自分の生活を自分である程度コントロールできる楽しみに惹かれるようになる。私が世界中でこれまで関わってきた組織ではたいてい働く人々の上に本社があって、従業員に相談することなく、彼らの生活に著しい影響を及ぼす判断を下している>(100ページ)

 私たち人間は集団を作って暮らすが、集団の中では、パワーゲームや政治的な駆け引き、内部抗争が相次ぎ、誰もが参ってしまう(14ページ)。そういう状況を踏まえて、本書が問うのは、時代遅れとなったピラミッド型組織を置き換えうる組織構造とは何か、そして、参加者が自分のエゴではなく素直な気持ちになって話ができる生産的なミーティングを実現するにはどうすれば良いのだろうかというものだ(15ページ)。
 本書は、これまで人間がその歴史の中で作ってきた集団を発達段階に分けて説明する。原始的部族集団の神秘的組織、暴力の恐怖で統率する衝動型組織、規律と階層による順応型組織、科学的な予測と統制に基づく達成型組織、多様性と平等を尊ぶ多元型組織、そして、本書が考察の主な対象とする進化型組織である。それぞれの組織の段階にテーマカラーが定められており、本書のタイトルとなっているティール(青緑色)とは、この進化型組織に当てられた色合いだ。
 これまで私達がよく知る組織は、衝動型、順応型、達成型であった。これらはトップに権限が集約されるピラミッドのかたちをしている。一方、ここ最近ナウかったのが多元型組織で、これは達成型組織の実力主義に基づく階層構造をしているのだが、意思決定の大半を最前線のメンバーに任せている。現場メンバーは経営陣の承認を得ることなく重要な意思決定ができる。現場にいる人々は圧倒的多数の小さな日々の問題に接している。だからこそ、現場から遥か彼方で組み立てるよりも素晴らしい解決策を見つけられるはずだそういう信頼を寄せられているという(57ページ)。
 しかし一方でこの多元型組織にいては、あらゆる考え方は平等に扱われるため、誰かがこの制度を悪用してとんでもないアイデアを提案しても、平等に扱わねばならなくなる。じゃあこれを権力で縛るのかっていうと、今度はその権力を巡って競争が始まり、やっぱりピラミッド型に返っていってしまか、コンセンサスを重視しすぎてスタックしてしまう(55−56ページ)。
 じゃあどうすんだ、っていうところから提案されるのが、進化型組織である。これまでの組織の問題として本書で考えられているのは、要するに「権力の収奪と集中」だ。

<権力をトップに集め、同じ組織に働く仲間を権力者とそれ以外に分けるような組織は問題を抱えて病んでいく。組織内の権力は戦って勝ち取る価値のある希少なものとみられている。人はこうした状況に置かれると、いつも人間性の影の部分が浮き彫りになってくる。個人的な野望、政治的駆け引き、不信、恐れ、妬みといった感情だ。組織の最下層では諦めと怒りの感情が広がりやすくなる。組織の底辺の力を結集しようと労働組合が生まれる。トップからの権力行使に立ち向かうようになる。トップはトップで労働組合を破壊しようとする。社内全体にモチベーションの穴が広がっている組織をよく見かけるが、これは権力の不平等な分配によって生まれる破壊的な副作用の一つである。職場とは自分らしさを失う楽しく有意義な目的を目指しながら同僚たちと仲間意識は含めるような場所だ。そう感じているのは少数の幸運な人たちだ。圧倒的多数の人々にとって役に服する場所なので、毎日いくらか労力を提供して、その引き換えに給料を得る。これは才能と情熱の無駄遣いに他ならない>(101ページ)

 このように、権力をメンバーから収奪し、集中すると、我々がよく知るピラミッド型統制組織となり、上下の対立が発生する。かといって、権力を平等に配分する多元型は、それはそれでコンセンサス主義に陥ってスタックするか、再度権力闘争に流れてしまう。
 じゃあどうしたらいいか、進化型組織が重視するのは何か。それはどうも権力を集中するのでも、分散するのでもなく、全員で「せーの」で手放して、「誰も使わないこと」であるように読めた。権力とは、政治学では「他人に望まない行為を強制する力」と定義される言葉だ。我々はともすれば簡単に権力を行使し、他人に自分が望むが相手が望まない何かを強制したくなるし、それをお互いがやれば、権力闘争が発生し、その争いの果てにはやはりピラミッド型組織が待っている。
 その誘惑を避け、権力を使わないで組織を運営する。そんなことは可能なのか。これを可能にしている仕掛けとして、「戯曲」の存在があると感じた。

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