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年金払っている(もしくは払っていない)人をさらいにくる現代妖怪の話。

 瀬名秀明さんて薬学者にして作家っていうひとがいまして。昔、「パラサイト・イブ」っていう小説書いて有名になった方です。これは映画や、現スクエアエニックスのゲームの原案にもなっています。

 そんな彼が1997年に発表したのが「BRAIN VALLEY」っていう作品で、当時日本SF大賞とかも受賞したみたいです。

 いま検索してみると、文庫版の表紙イラストがかっこいいっすね。あ、田中達之先生じゃないですか。CANNABISのほうが僕は馴染みあります。リンダキューブとかで有名すね。

 ていうかあれなんすね、田中達之先生、京都精華大学で先生してるんすね。広い意味で同僚じゃないですか。

 で、このBRAIN VALLEY、神様とかUFOみたいな超常現象を脳科学からアプローチする内容で、その中で神様とか宗教っていうのもミームだよっていう話があって。

 このミームで考えると、例えば宗教戦争なんかでも違った見え方がするわけですね。宗教戦争っていうと、宗教Aを信じる人々と、宗教Bを信じている人々の戦い、ってイメージが持たれがちです。しかしミームからすれば、「信仰シェア争い」なんすよね。例えば、パソコン欲しいひとがいるとして、メーカー各社が「弊社のをどうぞ!」とプレゼンし合うと。その人はパソコンは一台しかいらないので、各社はユーザーの購入機会という資源を巡って奪い合うことになるんですね。それに似て、宗教というのも、人の信仰機会という資源を巡って、異なる勢力が奪い合うという構図でみることができるわけです。

 日本人は無宗教なんて言うけど、でも結婚の時はキリスト教で祈るし、葬式の時は仏様に祈るし、家を建てる時は神道だしと、日和見的なんですよね。でもこれもミーム側から見ると、日本は宗教がないんじゃなくて、機会ごとに異なる宗教を使い分けるから、一社独占ができてない、っていうことと言えそうです。

 宗教ってのは、「世界観の説明」です。この世界がどんな因果律で動いているのか、この世界における行動と結果の因果関係の説明の体系ですね。そうして説明される世界観を信じて仰ぐのが「信仰」ですね。だから、いわゆる神様がどうとか、宇宙がどうとか言うことに限らず、例えば「国は税金を正しく使っていない」なんていうのも、一つの宗教だし、それを信じるなら信仰なんですよね。だって、もしかしたら正しく税金を使うかもしれないじゃないですか。少なくとも科学的な手続きを経て確かめられたわけではないことなんです。しかし、科学的に確かめられたことでなくても人々は信じることができて、そうであるがゆえに科学がもたらせない希望や元気みたいなものももたらせます。「良いことをしたら死後天国に行ける」みたいな。この宗教もミームですね。

 プロパガンダとか、政治家の街頭演説とかも、人々に自分の持つミームを受け入れてほしい人々の「繁殖行動」ですね。つまり先述の信仰シェア争奪戦なんだと考えることができて。例えば政治家Aと政治家B、どっちの語る世界観が科学的に正しいか、なんてのは、ここではほとんど問題になってないんです。科学的な手法でそれぞれの論を支えてるわけじゃないもんね。だから、仮に候補者同士に議論させた場合、科学的にどっちの主張が正しいか、ということは結論でなくて、平行線に終わるかもしれないですね。その意味ではラップバトルに近いかもしれないです。

 勘違いしてほしくないのは、「だからダメだ」っていいたいわけじゃなくて、僕らの文化生活はミームで成り立っているわけですから、とりもなおさず「ちゃんといいミームを信仰しなきゃいけませんね」って話なんですよ。ぼくらはミームを拒絶するんではなく、眼の前にあるミームが、一体どんなミームなのか、そのミームを受け入れると、僕らの生活がどう変化するのか、ということに敏感である必要があるよねってことで。メディアリテラシーなんていいますけど、ここで考えたいのはメディアの方ではなく、メディアを通じてやってくるミームに対するリテラシーですね。

 例えば、「悪いことをしたら妖怪にさらわれるよ」なんていう民話あるじゃないですか。あれも一つのミームで、それを信仰した場合、人々は特定の行動をとることを促されたり、逆に妨げられたりします。この場合、ミームは「その共同体を維持するためにやるべきこと」をやらないとか、やっちゃいけないことをすると、妖怪にいたずらされるぞ、と脅すわけです。その民話をガイドとして人々は、その共同体に望ましい行動様式を身につけていったんですね。つまり、「社会化」していったわけです。民話とか怪談とか神話とか、いずれもそういう役割を果たすミームですね。

 じゃあ現代はどんな民話が流通しているのかっていうと、例えば「年金はもうダメだ」みたいなのも一つの信仰だし、「年金はまだ大丈夫」というのも信仰ですよね。お金だって一つの信仰ですね。この紙を持っていけば商品と取り替えてもらえる、ていう宗教をみんなで信じているから機能してるわけですし。年金払っていると(もしくは払っていないと)妖怪にさらわれるよ的な。ちょっと意味違いますけど、「現代妖怪」ってやつはこういう感じなんすかね。困ったら妖怪の仕業。

 現代は宗教がなくなった、ってよくいいますけど、その説に僕は与しなくて。「現代は宗教がなくなった」っていうミームを、僕が受け入れていない、ってことですね。ていうのは、思うに人々は常に何かの世界観を信じていて、妖怪を無意識に恐れていて、もし宗教がなくなったように見えるなら、僕らはむしろ今何を信じているかに無自覚だってことの証左なんじゃないかと。という主張も、一つのミームで。そんなミームが、いま僕の手からキーボードを経て文章となり、noteを通じてあなたの目に届いているわけですね

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