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物語にのせて

最近ますます本が好きになった。

今年に入ってから、読んだ本は30冊くらい。だいたい2日に1冊のペースで読んでいる。それは、今までと変わりない。速読というほどはやくもなく、丁寧に味わっているわけでもない。好きなときに好きなだけ読む。

最近、数年ぶりに本を貸した。学生時代は、友達と本を貸し借りすることがよくあったけれど、社会人になってから、本を貸し借りすることはほとんどなくなった。自分の好きな本をまちの図書館で借りて返すだけ。

でも、最近本を貸す相手ができた。momo’s図書館にとって久しぶりのお客様は、私の彼氏だ。

彼は、昨年10月に就職して、遠距離が始まった。彼は、博士課程に在籍していた頃、毎日夜遅くまで研究室で実験をしていた。けれど、社会人になり、残業時間が決められて、むしろ時間に余裕ができたようだ。本でも読もうかな、という彼に、私は会うたび数冊本を貸し出す。

今まで彼に貸したのは、『卵の緒』、『カフェかもめ亭』、『光の帝国』、『アルケミスト』、『すきまのおともだちたち』、『星の王子さま』、『空色勾玉』など…、私の大好きな本たち。

本を読むたび、彼は感想を聞かせてくれる。いつもは私から連絡するけれど、彼は本を読み終わると、感想を話したくなるのか、彼からのラインがくる。

彼は、私と違ってもともと本を読むのが好きなわけではない。だから、初めは本を貸しても、ちゃんと読んでくれるのかわからなかったし、感想を言ってくれるなんて、期待してなかった。

彼に初めて貸した本は、恩田陸さんの『光の帝国』。常野(とこの)という不思議な力を持つ人たちの密やかな生きざまを綴った連作短編集。彼の本棚に、蟲師のマンガが置いてあって、この本と世界観が少し似ているような気がしたのだ。この物語を読み終えて、彼は「どうして好みがわかったの?」と不思議そうにしていた。

瀬尾まいこさんの『卵の緒』を貸したときには、「この本、とても短いのに、まとまりがあって、すごく綺麗で…でも読み終わってしまうのがもったいないような…」と私が思っていたことを言葉にしてくれた。

私がこれまでに出会った宝物のような物語だから、その物語を大切にあつかってもらえて、とても嬉しかった。物語を読むことは、旅をするのに少し似ている。普段は遠く離れた場所で暮らす私たちだが、同じ物語を読むことで、言葉や世界を少しだけ共有できる気がした。

あるとき、彼と電話をしていて、「忙しい、時間がないんだ」と言われ、無性に悲しくなったことがあった。時間ができたら、ミヒャエル・エンデの『モモ』を読んで、と言って電話を切った。彼は、しばらくして『モモ』を買って読んでくれた。「モモに会いたいと思い続けながら道路を掃除し続けるベッポは、僕みたいだ」と彼は呟いた。彼も私に会いたいと思っていてくれたことに気づいて、周りくどく彼を責めたことを申し訳なく思った。物語が、言葉にできなかった思いを言葉にしてくれた。

この前、彼は自己紹介文を書くとき、はじめて趣味の欄に「読書」と書いたんだとちょっと誇らしげに言っていた。

二人が異なる趣味を持つのは、当たり前のこと。でも、共通の趣味があるのは、それだけで小さな奇跡だ。