見出し画像

野に、咲く。第九話

野に、咲く。 第九話

「お父さんはパイロット」 中編

僕は幼少期に大人が大人を殴るのを見たことがある。

映画やテレビではなく実際に。 

あれは僕が幼稚園の頃、パチンコに行く父を追いかけていったときの話。

父は僕に、床に落ちているパチンコ玉を拾ってこいと命じた後、台に座り

打ち始めた。「取ってきたよ!」と10個ほどの玉を見せると「もっとたくさん」と。



僕は虱潰しに探したが一つ一つ見つけるのもしんどいなぁと思ったそのとき!

大量のパチンコ玉が入ったドル箱を発見した! 両手に掴みポケットに入るだけ

詰め込み、もうこの際ならドル箱ごと運ぼうと持ち上げた瞬間でした。

雷が落ちたかと思うほどのゲンコツを脳天にくらいます。見るからに反社会組織の

お方がサングラス越しに無言で睨みをきかせていました。僕はコレは取っては

行けないものだと知り足早に父の元へ戻りました。「玉あった?」

「コレだけしかなかった・・」ポケットに残っていたパチンコ玉を渡すと

父はニンマリとし、台のハンドルを回しタバコを吸っていた。

一時間くらいパチンコをした後に換金所へ向かうと、さっきの反社のお兄さんが

立っていました。僕は怖くて父の後ろに隠れると「耳栓しときなさい」と父が言い

ました。 父と反社は何か会話した後、換金所裏へ行き、何かが始まった。


耳を塞いでいても聞こえるほどの衝撃音が鳴り響き、僕は怖くて目も閉じていたの

ですが、怖いもの見たさで隙間から除くと、驚きの光景が待ち構えていました。

父は片手で相手の首を掴み壁に叩きつけ、それでも尚つかみかかってくる相手の

顔面をグーで殴り飛ばすと、相手は刃物を出しました。

父は刃物が見えてなかったのか、グングン近づくと相手は刃物を振り回した後

父から顎に掌底打ちをくらい倒れ込んだ。

二人の間に何があったのか?どういう会話があったのか? 未だ謎のまま

大の字になった反社の人を背にゆっくり歩いて戻ってくる父の右手には

火がついたタバコを持ったままだった。


つづく




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?