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中川大輔八段【将棋のこと】

私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。

藤井聡太五冠が強いです。改めて言うことではないのは解っているのですがとにかく強い。メチャ強い。もはや負けることが不思議だと思えるほどに強いです。そんな藤井五冠が昨日負けまして不思議な気分になる。羽生先生が勝ったのに不思議な気分になるという不思議な事態にそれこそ不思議な気分になりました。そんな藤井五冠がこれまた不思議なことにNHK杯だけ戦績が悪い。誰と戦っても強い、時間関係なく強い、先後も気にせず強い、そんな五冠がこの棋戦だけ相性が悪そうだという不思議。とはいえあくまでも悪そうというだけでただの思い過ごしですよと今期は順当に勝ち上がってきました。そして先週、相対したのがベテランの中川大輔八段。藤井五冠が目当てだったのに対局前インタビューで中川八段に気持ちを持っていかれました。

話の流れからスッとファイティングポーズを取り、サッと閃光のような左のパンチを放った中川八段。渋い、カッコ良過ぎる!山口恵梨子女流でなくとも、あれは「カッコイイ」と言いたくなります。NHK杯のインタビューでは何年か周期であのような楽しいパフォーマンスを準備・披露してくれる棋士が出てきます。対局相手を隙がないと褒め称えておいて、その台詞を自身は噛みまくるという隙だらけで愛嬌のある七段とか、批判が出そうなモノマネを披露してまでも将棋を楽しいものとして普及させようと人一倍熱心だった元八段とか。
ただ、今回の中川八段には準備してきたパフォーマンスだとは思えない部分がありました。準備にしては自然過ぎると。ただでさえ対局前なのに不慣れな行動を起こそうとすると前述の七段のように大抵は緊張して失敗します。それがまたファンには貴重で悪いことではないのですが、そういう気負いや気配が全く感じられませんでした。思い返すと放ったパンチは左。中川八段の指し手は右なので右利きと考えると、あれはジャブということになります。将棋好きで格闘技好きの方ならばお判りいただけると思いますが、あの打ち手でのあの打ち方はジャブなんです。準備のパフォーマンスなら利き手の右ストレートか派手なアッパーというトドメのパンチポーズを選ぶような気がします。でも披露したのは一発を入れる為の前段階で放つ左のジャブ。これからの本番で無敵の五冠にまさに一発を喰らわしてやるぞという意気込みが具現化した気合いのジャブ。対局前の高揚感と秘めたる闘志がインタビューに応えている間に高まって中川八段自身も気がついたら体が勝手に披露していたパフォーマンスだったのではないでしょうか。それくらい自然で人柄どおりの似合いのポーズでした。

本番の対局ではじりじりと盛り上がって行こうとしたジャブの隙をついて先に攻められてしまった中川八段。評価値的には一瞬だけ持ち直したようでしたが、そのチャンスを捉え切れずに猛攻耐えれず屈しました。それでも老獪な位取りとノーガードの如く机下まで手を下げた姿で静かに熟考する大人な対局姿勢に、良いものを見させて頂いたと十分に満足いたしました。

藤井五冠と戦う機会を得たベテラン棋士は皆一様に個性的な輝きを放つように見受けられます。永年棋界で戦ってきて、ある意味で慣れや職業化してしまった将棋に対して再び純粋な気持ちで向き合っているように感じます。負けることが不思議と思われるほどの天才に、それこそ勝負は後回しで今までの全てをぶつけたい。そんな気持ちが盤上・盤外でベテラン棋士それぞれの将棋観を映し出していく。その先生本来の個性溢れる輝きに私は目を奪われてしまうのかもしれません。

中川八段と言えば、登山・ファッション・スポーツとアクティブで派手なイメージの個性ばかりが取り上げられがちです。そのイメージに違わぬファイティングポーズはもちろん魅力的ですが、じっくりとした戦いを好む静かで落ち着いた対局姿勢が示すその将棋観もまた最高に魅力的だったりします。ここまで来てなんですが、私も中川先生を見習ってぐちゃぐちゃ言わずに簡潔に書くべきでしたね。

中川大輔八段は「カッコイイ」です。

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