ひとり芝居テキスト「つきものがたり:プロローグ」
まもなく夜になります。
私はこの街の夜は嫌いです。
太陽の光は消えたというのに、
街にはまぶしいばかりの光があふれています。
まるで夜になるのが嫌だといわんばかりに。
人々はその光の中で照らされ
昼にはみせたことのない顔を見せます。
それは、あたかも 夜になれば、
モンスターが墓場からよみがえるように。
ただモンスターたちが襲うのは
善良なる市民でも、穢れを知らぬ少女でもなく、
自分たちと同じモンスターたち。
こんなに世界は光にあふれているのに
お互い正体が見えず、おびえ、傷つけあっています。
この街に住み、
夜は憂鬱な時間にしかすぎませんでした。
でも、その憂鬱な時間の中で、
心癒すひとときがありました。
月を観るのが好きでした。
眠らない街の上で、煌煌と輝く月。
昔、私が幼かった頃、
周りが暗い闇に沈み、眠りについている街を
月の明かりが照らしてくれた。
私の住んでいる地上の世界はこんなに目まぐるしく変わっているのに、
空に浮かんでいる月は、いつも変わらず輝いている。
ある時は満月、ある時は半月、ある時は三日月、ある時は新月。
変わり続けているけれど、でも変わることのない そのいとなみ。
月はいつものように
静かに私の元に来て、語りかけてくれました。
私はいつも月を観ている。
月はいつも私を観ている。
月は私に話しかける。
私は月に話しかける。
そうして、過ごした夜の数だけ、
私と月の「ものがたり」がうまれた。
これから話すものがたりは
私のものがたり?
月のものがたり?
あなたは、今、このものがたりをどこで聞いていますか?
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