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住み込みバイトを脱走した時の話vol.4
シャワーを覗かれていることに確かに気づいたにも関わらず、私がとった行動は「なかったことにする」だった。
いや、結果的に恐怖心から何も言い出せなかっただけなんだけど。
大体の性的被害は怖くて抵抗できないからっていう理由で受け入れる人が多い気がする。例えば痴漢に遭って「この人痴漢です!」って言える人ってマジすごいなって思う。
そんなこんなで1日目が終了した。
だいぶやべーおっさんと、陸の孤島みたいなところで1ヶ月。お先真っ暗とはこのことだと思った。
ケチで、スケベで、何もいいことがない。
2日目も、ギャラリーはただただ暇だった。脳が死にそうなほどに。
3人ほどお客が来たので、収入は300円。これだけでは到底暮らしてはいけない。時々観光客の写真撮影を手伝ったり、写真集の売り上げなどで生計を立てている模様だが、大体は社会人だった頃の貯蓄で食い繋いでいるのかもしれない。1日千円とはいえ、なんで住み込みを雇った?
営業時間後の出入りは自由だったので、夜、旭川に住む友人Kさんが迎えにきてくれて、居酒屋に行った。
Kさんに、住み込み先がいかにヤバいかを語ると
「そんなん辞めちゃえば?」
と言ってきた。
「え、でも1ヶ月くらいお世話になるって言ったばっかりなのに?」
根が真面目な私は、そこから逃げるという選択肢を持つこと自体、想像がつかなかったのだ。
Kさんとは、高校の頃、深夜のチャットで知り合い、この日が初対面だった。
彼は、元々東京でグラフィックデザイナーをしていたのだけど、北海道出身で、父親の経営する写真店を継ぐために戻っていたのだった。
私が写真を始めるきっかけをくれたのは、実は彼だった。まだ1度も会ったことのなかった高校生の私に、Nikonの一眼レフをプレゼントしてくれたことがあって、そこから写真に興味を持つようになった。デザイナーを辞めて北海道に戻ることが決まった時、1ヶ月くらいヨーロッパを放浪することになり、行く先々から毎週のように絵葉書をくれた。特に恋愛感情とかそういう意味でのつながりではなく、歳の離れた仲の良い友達という意味で、その関係は長く続いていた。Kさんのハンドルネームは、アメリカのメタルバンドKoЯnからきている。
ひとまず、感動の対面を終えてまた牢獄へ戻る。
「辞める」という選択肢を頭に浮かべながら、その日は眠りについた。
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