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路地裏スナックでママのお手伝いをしていた頃 Ep.4

派手な服を持っていなかった私の出勤スタイルは、大体白のブラウスと黒のタイトスカートだった。
でも、ホステスはそういうのじゃダメらしい。
しばらくしてママから「もうちょっとセクシーな服を着てきなさい」との指令を受け、周りのお姉様方の見様見真似でやや露出の高い服を着るようになった。

大体のホステスさんはタクシーで帰っていたけど、私は近所なので徒歩だった。多分露出の高い女が深夜に路地裏をウロウロしているのは無防備なんだと思う。帰りはジャケットを羽織ってはいたものの、やんわり夜職の空気は出てしまってた気はする。

ある日仕事帰りにいつも通り歩いて家に向かっていたら、息を荒くした30代くらいの男性に突然腕を掴まれ、人通りのない袋小路に追い込まれた。
いかにもこの地域に居そうな労働者といった風貌で、とにかく目がギラギラしていた。

何が起きたのか把握できないままポカンとしていると
「お姉さん、何とかしてください」
と彼は言ってきた。
「何とかって何だろう?道に迷って困ってるのかな・・?」

それ以上何も言ってこず、状況が飲み込めないので
「どうしたんですか?」と聞いてみる。
すると、突然1万円札を出してきて
「ここでお願いしますよ、困ってるんです」と一言。

本当にわからなかったので
「何に困ってるんですか?」
と尋ねると
「わかるでしょ?お願いしますよ」

と言って、今度はバッグに無理やり3万円札を詰め込んできた。

そして
「溜まってるんです。手でいいんです」
と、自分の下半身を触り始めた。

あ、これまさかそういう案件ですか・・?

「足りなかったらもっと出すんで・・口ならもっと・・」

反応が鈍く話のわからない女を選んじまったなと思い始めてるのか、彼はだいぶ切なそうな顔つきになっていた。

後日友人にこの件を話したら「手で3万?悪くない」と言われるも
当時はいきなり知らない人にそんな相談を受けるとは思いもよらなかった私は、パニックで頭の中が「?」でいっぱいになってしまった。

(と、いうかそのくらい出せるならお店に行った方が早いのでは・・結構この辺そういう繁華街ですよ?と今なら提案することもできるかも)

まず、手、とか以前に・・
なんで?ここで?それを?
今すぐどうにかしなきゃいけないくらいの状況って何?
男の人って、そんなことがあるの??
この人がこの後暴れたり危険なことが起きるくらいなら、応じた方がいいケースとか、あるの、ないの??
ていうか、何で誰も居ないの??(←多分AM2時過ぎだから)

こんな感じの「?」でいっぱいだった。
ただ、怖いからって応じるのは何か違うんじゃない?と冷静な自分も居て、無造作に詰め込まれた3万円を突き返し、携帯を取り出して電話するふりで相手が一瞬怯んだところをついて、少し明るい道まで走って逃げ、なんとか事なきを得た。

次の日ママにこのことを相談すると、「そういう格好でウロついてる時点で安い女って思われるし、すぐヤレるって思われるんだから当然。立ちんぼか何かと間違えられたんじゃないの?」と一喝されてしまった。

ああ・・世の中って、大人の世界って、とっても理不尽なんだな。

これを書いていて思ったのが、HSS型HSPには「好奇心旺盛が故に、危険を察知していたとしても頭の中であらゆる角度からの会議が始まり、正解を出すまで若干時間がかかる」みたいな特徴があるところ。

普通だったら路地裏に連れ込まれた時点で、即ギャーだのワーだの騒いで走って逃げればいいのに、この人がマジで困ってる人だったらどうしようだとか、まさか自分に限って性の対象に見られるわけないし、何かの間違いではないだろうかとか、ぐるぐるおかしな方向に思考を巡らせてしまう。

過去、性奴隷的ルームシェアの提案を受けた際だって、まともならすぐ断るんじゃないんだろうか?もちろん最終的にはNOっていうのは大前提なのに、なぜかピンチの時に限って「今見えてることと違うことを相手は求めてるのではないか」という謎の楽観性を見出そうとする癖がある。それは草食動物的自己防衛なのかもしれない。

でも本能的にやばい時は大体切り抜けてきたので、大丈夫と言えば大丈夫なんだと思う。

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