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The Beatles「Words Of Love」(公式YouTubeミュージックビデオ)

ビートルズが今年のグラミー賞を受賞したという。といっても、ブログに記事を上げて以来、もはや一度も聴いていないあの「新曲」のことではなくて、2022年11月に公開されていた「I'm Only Sleeping」の映像がベスト・ミュージック・ビデオ部門で受賞したのだそう。

もちろんビートルズがグラミー賞を取ったのはこれが初めてではなくて、調べてみればすでに1965年に「A Hard Day's Night」とグループ自身が2部門で受賞している。1967年にはなぜか65年の「Michelle」が「ソング・オブ・ザ・イヤー」に輝くという、どうにも頓珍漢な出来事もあったようだ。何がどうであれグラミー賞は自分にとってあまり興味のあるトピックではない。「I'm Only Sleeping」の映像はたしかに途方もない手間のかかった素晴らしい出来で、人生は夢うつつ、過去も未来もあっという間に過ぎ去っていく、というテーマもよく伝わってくる。しかし全編がアーティストによる油絵で構成されていて、本人たちは実写では登場しない。やはり、小中学生の頃からビートルズに憧れ続けてきた自分としては、本物の4人が揃ったビジュアルの輝きにかなうものは何もない、とどうしたって思う。

自分が前々から大好きで、いつか記事を書こうと思っていたビートルズの公式ミュージックビデオはこれではなくて、10年以上前の2013年に公開された「Words Of Love」なのである。初期ビートルズへの愛情にあふれたとてもチャーミングな映像で、最高に素敵。

使われている音楽は「Beatles For Sale」収録のバージョンではなく、1963年8月20日のBBCラジオ番組「Pop Go The Beatles」のために収録された、いわゆる「BBCライブ」からのもの。英国ローカルのスターとして駆け出したばかりのビートルズがもちろん実写で登場するし、その4人のドタバタ道中に茶々を入れるようにちょこちょこと小ネタが仕掛けてあって、英国的ユーモア全開でとても楽しい。まだデビューアルバムが出る前の1963年1月、マル・エヴァンズの運転でロンドンからリヴァプールに戻る道中でのエピソードも再現されている。走行中、小石がフロントガラスに当たってひびが入ったせいで前方が見えなくなり、エヴァンズが拳でガラスをぶち破って視界を確保。真冬の冷たい風が車内に入ってきて、凍えるビートルズの4人はどうにか暖を取ろうと、ウィスキーを飲みながら後部座席でサンドイッチのように互いの上に重なって寝そべるという、「アンソロジー」で語られたあのエピソードである。2分半に満たない短さだけど、見れば見るほど細かく作り込まれたネタがじわじわ来る作りになっている。自分はこういうのが好きなのだ。それに何しろ、「Words Of Love」のしかもBBCバージョンなんて、選曲が最高すぎるではないか。

1964年の「抱きしめたい」で全米制覇を成し遂げ、世界規模のビートルマニアの狂騒に巻き込まれる直前、「A Hard Day's Night」までのビートルズは、自分にとって何物にも替え難い特別な存在。この2分半の映像には、自分がどうしようもなく憧れてやまない初期ビートルズと、駆け出しの彼らを取り囲む地元ファンたちへの愛がたっぷり詰まっている。制作者のクレジットは見当たらないのだけど、本当に自分にとってはドンピシャの内容なので、初期ビートルズ好きの同志として、グラミー賞は進呈できないけど、ここで心からのハグと感謝を贈りたい。


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