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ジョージ74年北米ツアーの鮮明な映像が発掘される

ビートルズと解散後のメンバーの動向をリアルタイムで追っていた評論家や音楽ファンによる文章を読んでいると、今でもかなりの頻度で見かけるのが、ビートルズ解散直後のジョージはジョンやポールをしのぐ神がかり的な活躍ぶりを見せていたものの、1974年の「Dark Horse」や北米ツアーの「失敗」によってすっかり勢いを失い、以後の活動はどんどん地味になっていく、という評価である。自分がビートルズの熱狂的ファンになったのは80年代前半からであり、当時のジョージはこれまた低評価の「Gone Troppo」を発表した後、音楽業界からは半ば足を洗ったと言われていた時期。ジョージの現状については冴えない評判しか目にすることができず、当時普通に接することができた作品は「All Things Must Pass」やアップル時代のベスト盤(半分はソロ曲、半分はビートルズ時代のジョージ曲という中途半端な選曲)ぐらいで、「その後」についてはほとんど興味を持てなかった。

その他人の評価による自分のジョージ観が完全にひっくり返ったのは、87年にリアルタイムで「Cloud Nine」が発表され、「セット・オン・ユー」が全米1位まで登りつめる大ヒットになり、トラヴェリング・ウィルベリーズが登場し、「低迷期」と言われていたダークホース期の名曲を集めたベスト盤CDが出て、という一連の動きがあったから。ここでようやく、他人の言葉伝いではなく、自分の耳で70年代後半以降のジョージと出会うことができ、「低迷期」なんて全然ウソだったのだ、むしろこちらのジョージこそが最高の最高じゃないか、と気付かされたのである。このことはもう旧ブログで何度も言ってきたし、今後も何度でも繰り返したい。この事実を一人でも多くの音楽ファンに知ってもらうことが自分の使命なのではないか、とすら思っている。愛はすべての人にやってこなければならない。

Spotifyでの再生回数で見たビートルズの人気曲ランキングは、ずっとジョージの「Here Comes The Sun」がダントツのトップである。2024年8月現在、2位の「Come Together」の約7億5000万回に対して、1位の「Here Comes The Sun」は約13億7000万回と、一桁違う。時代はジョージなのである。今ではジョージのダークホース期の名作群は配信でいつでも普通に聴くことができる。ジョージの音楽の真価が知られて、世界中で広く愛されるのはこれからなのだ。

ここまで言った上で、今でもジョージ史の中でほとんど知られない影の部分として存在するのが、最初に書いた「Dark Horse」を引っさげた74年北米ツアーである。過酷なスケジュールで疲れ切っていたジョージは喉を壊しており、インド音楽のパートを含むセットリストに観客は当惑し、ビートルズ曲を演奏するも歌詞の一部を勝手に改変してビートルズファンからは怒りの声が上がり、悲惨な大失敗に終わった、と言われている。悪評に失望したジョージは、91年の日本ツアーまで、17年も本格的な公演を行わなかった。ダークホース期の名作群に対する既存の評価と同様に、これもおそらく当時のマスコミや評論家による風評被害の類であろうと思うのだけど、いかんせん公式なリリースがほぼ皆無であり、実際にどうだったのか確かめる術があまりない。自分は元々ライブ盤というものが苦手であり、ブートレグのライブ盤はあんまり聴く気がしないので、74年ツアーの音源をフルで聴いたことは実はないのである。

今年で、その74年ツアーからちょうど50周年。そろそろ、このタイミングで何か出ないものか、とひそかに期待しているところだ。そこに来て、信頼できる筋から先日教えていただいたのが、その北米ツアー中、1974年11月28日のアトランタ公演で撮影されたという映像が新たに発掘されたというニュース。客席からの撮影のようだが、画質はかなり鮮明。

10分少々の切れ切れの映像ではあるけど、音質は十分に聴けるレベルであり、インド音楽のパートもしっかり入っていて、北米ツアーの様子が短時間ながら克明に体験できる。のっけからスライドギターを弾きまくるジョージ。ロック、ソウル、ファンク、ジャズ、インド音楽を融合させたバラエティ豊かな音楽性。この映像で見る限り観客の反応も良く、インド音楽パートでも大きな拍手喝采が聞こえる。そして何よりも、めちゃくちゃ楽しそうじゃないかジョージ!疲れ切った様子などひとつも感じられず、しょっちゅう白い歯を見せて笑いながら演奏しているし、ビリー・プレストンが前面に出てくる曲では二人で揃ってジャンプを決めている。観客を手拍子で煽るシーンまである!こんなに元気いっぱいに活動的なジョージ、ほかではなかなか見られない。ギターの演奏も切れ味抜群。素晴らしいライブである。やっぱり、そんなことだと思ったよ。はつらつと楽しそうに演奏するジョージの姿が見られるのはとても嬉しい。もっと見たい。

こんな映像が50年も眠っていて、今ごろ発掘されたのも何かの前触れではないのだろうか。50周年記念リリース、本当に期待している。このツアーの全貌がきちんとした形で世に出れば、またジョージ観が根底からひっくり返されることはまず間違いないだろう。

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