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革新のジレンマ

 画像生成AIが世間の注目を集めるようになって、そろそろ1年が経過します。当初は生成される画像の著作権について物議を醸したけど、訴訟もぼちぼち落ち着き始め、いくつか企業でも採用実績が生まれています。Pixivではいったんは容認の姿勢となりましたが、上級ランカーたちの猛反発に遭ってから使用制限がかかるように。結局のところは推進派と反対派の棲み分けが浸透したようで、生成AIと分類された画像に対しては閲覧制限をかける事で目にすることも無くなり、落ち着きを取り戻した感があります。

 反対に玉石混交の環境にある旧Twitter、Xではいまだにぶつかり合いが続いているようです。私は以前よりTwitterを利用していなかったので、何の反発も感じることはない。
 二匹目の猫を飼うに当たって、一旦は先住猫と隔離しながら徐々にお互いを慣らせていく、そんなネコ飼いの話を耳にするが、画像生成AIに関してもそんな配慮が必要だったと、PixivのCASEはそう言っているように見えます。

 私は職業イラストレーターではない。イラストや漫画の制作は趣味の一環だ。生活の糧を得る手段は別にあり、今のところAIに仕事を奪われる心配も感じていない。むしろ問題解決のために率先してAI活用を考えなければならない立ち位置だ。
 画像生成AI反対派には、フリーランスで活動している職業イラストレーターが多いと感じている。要するに「ビジネスモデルの崩壊」に危惧する人々の抵抗だ。これまでのイラスト業と言うのは隙間産業、ニッチの分野だったと考える。なにしろイラスト制作には「絵が描ける」特殊技能が必要で、それが他者に対する参入障壁となっていた。ところが画像生成AIの登場で、その参入障壁が取り払われてしまったことに騒動の発端がある。

 絵の描けなかったAI絵師にしてみれば「してやったり」かも知れませんが、彼らの行った行為はイラストの市場をRED OCEANにしてしまいました。今は手描き派が「著作権」と言う名の既得権を行使して何とか踏み留めようとしていますが、徐々にその効力が薄まった先には「価格破壊」と言う名の相場の暴落が待っています。
 プロンプトのコツさえ掴めば誰でも品質の高いイラストが制作できるのですから、「ネットで探す」というニーズすら薄れていく事でしょう。となれば「手を煩わすよりマシ」という価格まで下げないと、ビジネスとして成立しなくなっていく事が予想されます。せいぜい、ワンコインくらい?
 こんなもの職業にするのは無理、てなりますね。

 手描きのイラストレーターの中には、逆に新しい需要を生み出す方々も現れるでしょう。なにしろ画像生成AIは、より品質を高めるためにオーガニック・データを食わせ続けなければならない問題を抱えています。そのために手描きの絵師が都度、新しい技法を模索して生成画像を高めていく。すでに大手企業が提供する著作権クリーンな画像生成AIは、自社でお抱えの、或いは契約したイラストレーターから学習したモデルが使われているはずです。
 しかしこうした需要も、より高度なテクニックを有した、より独創性の高いイラストレータに集中する懸念があります。絵の描ける人間の中でも、更に淘汰が進んでいく事になるでしょう。

 科学技術向上のためと称して、政府はAI使用の制限をかけず、むしろ積極活用する筋道を立てようとしていますが、これも結局は生成AIサービスを提供する大手企業にカネが流れ、ひとつのニッチ産業を衰退させていくように見えます。その方が経済効果が高いのでしょうが、果たして「国民主権」の原則に適ったものなのでしょうか?
 とはいえ、走り出してしまったものはもう止めようがない。米国でナチス対策として始められた原爆開発が、広島・長崎で炸裂してしまうのを防ぎようがなかった事例に似ている気がします。
 既に中国ではゲームイラストの分野で絵師の失業が進んでいると聞きます。でもそれはAI絵師の台頭ではなく、エンジニアの仕事がちょいと増えただけの話です。むしろ国内需要に対して、経済効果を下げているのではないのでしょうか。

 何かで読んだ「イノベーションのジレンマ」って言葉を思い出します。

イノベーションには以下の2つがある。
 ・持続的イノベーション
 ・破壊的イノベーション
優良企業の持続的イノベーションの成果は、ある段階で顧客のニーズを超えてしまう。その結果、他社の破壊的イノベーションの価値が市場で広く認められ、優良企業の提供してきた従来製品の価値は毀損してしまい、地位を失ってしまう。

 市場の革新は、なにも企業に限った話じゃないってことか。
イラスト制作は、趣味に留めておいた方が賢明ってことかもなぁ…

※「イノベーションのジレンマ」について、NEDOで簡潔にまとめた記事が公開されています。興味のある方はご一読を。


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