見出し画像

音楽 1. 寺尾紗穂「一羽が二羽に」

冒頭がいまだに聞き取れない。「〜の背中」は確実に聞き取れるのだが、その肝心の前が聞き取れない。

「森」とも聞こえるけど、「森の背中」というのはおかしいし、「鳥居」ではないかというのがもっぱらの候補である。「鳥居の背中」というと、笠木の部分を言っているのではないか、という解釈は許してもらえそうだ。単純に「鳥」なのかな。もちろん、Apple Musicで聴かず、CDを購入すればいいのだが…

ただ、とても美しい曲である。二羽の鳥をそのまま情景描写するのだけれど、そこにひとを重ね合わせ、ある種の希望を見出している。

尾長が舞い降りてきて、つがいになる。それを観察し、描写する「私」。「うらやましくて、美しくて、涙がでそう」。

むかし、大学の授業で、動物に人間を重ね合わせすぎることの問題について習ったことがある。「ダーウィンがきた!」などでみるような、ペンギンの親子愛などなど。これは人間のカテゴリー内部で通用するに過ぎない倫理観などを、動物にも当てはめて、恣意的に理解しようとする行為だと。むしろ人間の価値観などを超えたものがあるということを動物たちは教えてくれるものではないのだろうか、と。

もちろん、そうだと思う。(子供をネグレクトするパンダや、交尾ののちオスを捕食するカマキリなどが最たる例かもしれない。)ただ、動物たちのなかに、人間の希望を見出すことくらいは許されるのではないだろうか。動物たちにそれ以上の期待はしてはいけないが、いま私たちが享受することができていないものについて、尾長をみて「夢を見る」ことくらいは許されるだろう。

寺尾紗穂の声は、尾長のつがいに憧れる人間を歌い上げる。ピアノとフルートのシンプルなアンサンブルがそれを支える。芯があり、また童話のような優しさをそなえた彼女の歌声は、二羽の尾長を通じて、世界の核にあるような包み合うものに触れている。

一方では美しい世界があり、一方では耐えられないほどの現実がある。このふたつをつなぐとても美しい歌声に触れられるというのが、私たちの希望でもあるのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?