【読書感想】向こう側が見えた本
持て余すほどの時間を読書に費やすことが多くなったので、感想でも書いてみよう・・・。
今日は、本でも読もうかと家の本棚を眺めてみたら見つけた一冊。
夫が職場の人から譲り受けてきた物らしい。
読んだ後、何でもっと早くこの本に出合わなかったんだろう、と悔しくなった。
初版は二〇一六年で、芥川賞を受賞している。
コンビニ人間/村田沙耶香
主人公の吉倉恵子は、幼い頃から周りの子供とは違う行動・言動が多く、 ”普通な子” を望む母からは「どうすれば『治る』のかしら」と嘆かれる日々だった。
自分でも治らなくてはと思う反面、”普通” というものが分からなかった。
大学進学と同時に始めたコンビニのアルバイトには、挨拶の仕方から接客、雑務に至るまでマニュアルがあり、それ通りに振舞えば ”普通” の人間として社会から受け入れられた。
三十六歳になる頃、相変わらずコンビニ店員としての人生に満足していた恵子だが、次第に周囲からは「結婚は?」「ずっとコンビニで働くの?」という ”恵子が普通ではない” かのような反応が返ってくるようになる。
そんな時、白羽という新しいアルバイトの男性が入り、恵子の日常が徐々に変化していく・・・。
感想
主人公の恵子の幼い頃の描写は、確かに他の子とは違いその思考回路は独特で、恐怖を感じる程だった。
けれどコンビニ店員になった恵子は、とても完璧に優秀な店員で、自分のコンビニバイト時代を思い出してクスッとしてしまった。
ただ、私生活の恵子になるとその思考はやはり変わっていて、世の中に馴染む事は難しいだろうな・・・と感じた。
この本は、現代の ”普通であること” についてとても考えさせられる。
確かに私も「普通、○○だよね。」「普通の人なら○○しないよね。」なんて言葉は山ほど使ってきた。
けれど、その ”普通” という基準は何だっただろう。
大体は、周りの多数がやっている・言っている事を基準にしていたと思う。
なので、自分の中から湧き上がって来る感情とか意見は、少数派だったらすぐに消してしまう。
なんだか、改めて考えてみると勿体ないなと思った。
第一印象は悪くないなと思った服も、次の瞬間、流行に照らし合わせて合致しないと手から放してしまう。
その作業は、対象が物であっても人であっても同じ事だったと思う。
これからの人生、この勿体ないをどれだけ減らせるかが、自分の価値を上げてくれるような気がする。
そしてもう一点。
登場する恵子の周りの人々は、決して悪意を持って話している訳ではないのだけれど、会話の節々に ”普通の女性像” が見え隠れして、それに当てはまらない人を暗に卑下している。
普通の女性像とは、修学が終わったら数年社会に出て、良い頃合いになったら結婚して、子供を産んで子育てをする。
それが出来ていないと、「どうなの?そろそろ?」と口を揃えて責め立てられる。
誰しも、表立ってこんな女性像について公言したら、誰かを傷つけてて社会から批判される事を理解しているはずなのに、日常ではそれを忘れて平気で誰かを傷つける。
この普通の女性像は、これからどんどん変えていく必要があるし、そもそも普通の女性像なんて一日も早く無くなるべきだと思った。
さいごに、何故だか言葉ではうまく表現出来ないのだけれど、この物語を読んでいると書き手が透けて見えるような感覚があった。
世の中のどの物語も、主人公の設定には作者の思いや経験が反映されているとは思うけれど、今までにはないくらい、それを強く感じた一冊だった。
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