イノベーター理論・キャズム理論から見た音MADの大衆化について

※この記事は、以前ブロマガに投稿した内容を少し改変したものとなります。あしからず。

 ご無沙汰しております。のむらです。早速ですが「イノベーター理論」と「キャズム理論」とは何なのかをカンタンに説明してから、「音MADの大衆化」との関係について述べたいと思います。


イノベーター理論とは


【イノベーター理論の概要】



「イノベーター理論」と「キャズム理論」。これらは、マーケティングなどの用語です。まず、イノベーター理論とは何のか。この下の図をご覧ください。

出典:キャズム理論とは | イノベーター理論とキャズムを超える戦略を解説

 この図では5つの段階があります。イノベーター(革新者)。アーリーアダプター(初期採用者)アーリーマジョリティ(前期追随者 / 前期大衆)。レイトマジョリティ(後期追随者 / 後期大衆)。ラガード(伝統主義者)。
 この5段階は、商品・サービスがどの段階で普及するかを時間によって分類したものです。


【音MADとイノベーター理論】



 先ほど述べた5つそれぞれの段階について、音MAD作品がどんな層に見られているのかと無理やり結び付けて詳しく説明したいと思います。



 イノベーター(革新者)は、市場全体の2.5%にあたります。商品が発売されてすぐ買う人たちのことです。この人たちは、商品に目新しさや革新的なものに惹かれてしまいます。
 音MAD作品では、音MAD作者にあたる層なのではないでしょうか。目新しさや革新的というのは、その動画の表現力や斬新さなどを評価することと繋がります。



 アーリーアダプター(初期採用者)は、市場全体の13.5%を占めます。流行に敏感であり、自ら判断して製品を購入します。例として、iPhoneが発売されすぐレビューしているYoutuberを見て購入する人とかですかね。
 界隈では、音MAD見る専にあたるかと思われます。多くの作者がマイリスをしている動画や、10選で選ばれた動画などを参考にして、それらの作品がより広がっていく感じに似ているような気がします。
アーリーマジョリティ(前期追随者 / 前期大衆)は、新しいものに興味は持つが慎重に買うかどうか決める人たちです。アーリーアダプターの影響を強く受ける傾向があります。
 上の2つの段階によって、その作品が評価されることによって、ランキングやTOPページ、Twitterでの拡散やタグのシリーズ化などが相まって、視聴しようとするいわゆる昔でいうニコ厨がそれにあたるのではないでしょうか。(現在2021年でも、Youtubeや海外サイトでも多くの音MAD作品を拝見できるので、これにあたる言葉が難しい)
 レイトマジョリティ(後期追随者 / 後期大衆)は、新しいものや流行には慎重で、それが世間で浸透してくると、それに便乗したかのように購入する人たちです。上記のアーリーマジョリティに強い影響を受けます。みんな持ってるから買うみたいな。
 この段階になってくると、ランキングはその動画シリーズで埋め尽くされ、Youtubeには転載、大百科の作成、Twitterやtiktokでバズる、ネット記事が作成される。一般的なネットユーザーに認知され、加えて、学校などでも一部のオタク界隈からその語録が聞こえてくる段階なんじゃないでしょうか。

 ラガード(伝統主義者)は、その商品については保守的で、今の環境に不自由なく満足しているため、わざわざ変化を求めていない人たちのことを指します。前のケータイが壊れたから、連絡ができないからなどやむを得ない理由でスマホに変えた人たちのことですかね。
 これはもう、音MADはもちろんニコ動やYoutubeでそういった動画を見る習慣がない人たちのことでしょうか。SNSでもInstagramなどにいるいわゆる陽キャや、まったくネットを使わない高齢者など、何かこちら側が犯罪や事件を起こさない限り目の当たりにしない層のことを指すのではないでしょうか。




キャズム理論とは


【キャズム理論の概要】



 キャズム理論とは、イノベーター理論で定義された「アーリーアダプター(初期採用者)」から「アーリーマジョリティ(前期追随者 / 前期大衆)」へ、商品やサービスが普及する際の障害のことです。上の図のグラフにおいて、その間に大きな溝があることをキャズムと呼んでいます。




【音MAD作品とキャズム理論】



 キャズム理論から考えると、「イノベーター(革新者)」と「アーリーアダプター(初期採用者)」は、キャズム(溝)の手前に分類しているので、商品の普及にはあまり困難を強いられないでしょう。音MAD作品においては、イノベーター=音MAD作者とアーリーアダプター=音MAD見る専の中で盛り上がっている状態を指します。よくある界隈での流行って感じですね。そこから、いかにしてアーリーマジョリティ、つまりここでいうニコ厨に多く視聴されるかによって、その動画が多くに人に見られる=流行→定番→文化へと発展していくかにつながっていきます。

 音MAD界隈におけるキャズムの良い例として、うんこちゃんこと加藤純一氏が配信した「MAD見る枠(2019/08/28)」があります。この動画の17:16、22:05など加藤氏が動画に対しての苦言や、ニコ生とYoutubeのコメントの反応などを見た感じ、
作者の演出がかえって反応が悪くなってしまっている場面が見受けられます。これらは、ニコ生、そして加藤純一氏の配信は見ているが、音MAD界隈を知らない層。
つまり音MAD界隈におけるアーリーマジョリティ=ニコ厨と、その素材の出元や流行の経緯、語録などをよく理解している我々作者=イノベーターや見る専=アーリーアダプターとの間に大きな価値観の差、つまりキャズムが生じていると捉えることができます。



【溝を埋め大衆化させる】



 ここから生じた問題を解決するには、このキャズムを乗り越える演出に工夫をしなければなりません。先ほどの配信を参考にすれば、「素材の味を生かす」ことによって、キャズムを乗り越えることが可能になります。ただこれはあくまでも一例にすぎず、キャズムを乗り越える共通の課題としては、動画がどのようにして多くの人に見られるようになるか、その仕掛けを考えて制作する必要があるのではないでしょうか。
 マーケティングからの視点で動画を制作すれば、音MAD大衆化への道も近いかもしれません。




【多角的にみる音MAD】



 2019年当時、記事を投稿したときは「よく見る演出や戦法をただ模倣しただけの動画を投稿し続けたり、同じような動画を視聴し続けることに危惧している」と述べました。

 同じようなインプットをし続けるというのは、やがて思考停止に繋がり深みのない作品を生み出し続けてしまう危険性があります。これでは、キャズムを超えることは到底できないので超える工夫を考える必要があります。

 
 「二番煎じ」という言葉がありますが、いまのご時世、コンテンツが出現して場合でも過去に先駆者がやっているパターンがあります。音MAD界隈も自分が斬新で面白いと思って制作したものでも、10年前に先駆者がすでにやっていることはザラにあります。数多の表現がやり尽くされた中で単純な発想でゴリ押しするのは、言い方は悪いですがマンネリで劣化した作品を自己満足のために投稿していると捉えられる可能性はあります。

 ここで逆転の発想で過去にあったコンテンツを組み合わせたりうまく活用することでマンネリを防ぐことをできると考えています。10選を例に出すと、上位に来る作品は過去にない斬新な作品や、過去の技術を正統進化させて視聴者の心をつかんで食い込んだ作品が多い印象があります。共通して言えるのは視聴者をどういう仕掛けで面白いと思ってもらえるかの「工夫」がそこにあると考えています。その「工夫」は制作におけるインプットの積み重ねが重要であると考えています。

まとめ
 
【音MADはどうあるべきなのか】

 昨今、世の中すべてがそうだと思うのですが、よく「多様化」という言葉を耳にします。実際、グローバル化やダイバーシティなどと言われていますが、ネットの中でも比較的閉ざされている空間である”音MAD界隈”もその波に押されようとしています。
 ですが、音MAD界隈は非常に人口が少ないジャンルと言えます。しかし作品が多くのネットユーザーに広まればその人口爆発はとてつもないものになります。最近で言うと「アップロードに10年かかった動画」「たべるんご」「ビカビカ戦法」は最たる例でしょう。またSNSを駆使し、多く人から支持を受け独自のコミュニティを構築している作者も複数見受けられます。
 「音MAD界隈」の視点から見れば市場規模はとても小さく見えますが、「音MAD」を含むコンテンツをうまく展開できれば多くの人を取り込むことは可能だと私は考えています。
 昨今の「音MADのイベント化」はよい働きだと個人的には考えています。私が主催した「あらびき音MAD」「音MAD作者格付けチェック」もこのキャズムを越える仕組みづくりの一貫で実施しました。たまたま私はこういった企画・構成を考えるのが他の制作ジャンルより比較的得意であったため実行しただけですが、その越える手段は多岐に渡ると考えています。

 音MADは尺は短いにも関わらず、制作にどうしても時間がかかってしまうジャンルだと思います。せっかく丹精込めて作った作品も日の目を浴びず埋もれてしまうのはもったいないじゃないですか。
 マーケティングの視点からどういった作品がいま需要があるのかをわかった上で制作に取りかかれば、音MADの「別の楽しさ」を見いだせるはずだと信じています。そんな中で、ふと大学で学んだ「イノベーター理論」と「キャズム理論」が、
少し前に話題になった「音MADの大衆化」を結び付けたら面白いんじゃないかと思い、記事にした次第であります。
 よく制作における技術的な記事はよく見ますが、それとは違った視点から見た音MADも面白いんじゃないでしょうか。そういった主張が増えることを楽しみにしています。


おしまい

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