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大ヒットでシャレにならなくなった"名作マッシュアップ" :シャチクのミカタ

 昨日、下記のようにご紹介した、コトバノキと同時に、Mashup Awardで準優勝した作品です。

 「シャチクのミカタ」も殆ど片仮名名ですね。こちらは、メタデータ社のネガポジAPI を絶妙な捻りで活用した作品。ネガポジAPIは、ネガティブ、ポジティブ各3段階(やや、普通に、非常に)に、どちらでもない中立を加えた7段階で入力文章全体のトーンを判定します。英語では肯定的シンパシー感じるか否定的かというニュアンスをsentimentと呼ぶのでSentiment Analysis=感情解析と誤訳されることもありますが喜怒哀楽の感情を認識するわけではありません。後者はメタデータ社の感情解析APIの役割です。一部で回っている誤訳のせいでややこしくてすみません。

 「人工知能が変える仕事の未来」p.280には、次のように、あっさりとしか紹介されていませんが、3万人以上の登録会員を集め、多方面で紹介され、ウケた作品です。

"シャチクノミカタ:フェイスブックの上司書き込みが一定以上のポジティブ度なら自動でいいね!"

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 作品誕生の背景には、「職場の上司にSNSで友達申請されちゃった。嫌だけど承認するしかないなぁ」という部下の悩みに始まり、上司が『お、俺良いこと書いたぞ。さぁ、みんなが投稿にイイね!しないかな』ときょろきょろ部下の方をみて様子を探るという大変ウザい事態が当時頻発していたという事情があります。※当時は現在のようにびっくり、呆れ、怒り、などのemoticonはなく、「イイね!」一本やりでした。

 こんなとき、立派なシャチクとして振舞うにはどうしたらよいか? もちろん、自然な時間差で、上司の投稿に「イイね!」しなければなりません。しかし、内容を読まずに機械的に「イイね!」をすると、時に悲劇が襲います。ついムカついて毒吐きしちゃった。誰も「イイね!」する前に消しておこう、と思ったのに、部下の「イイね!」がついちゃってる。

 『こいつ、読まずに「イイね!」してるな!!怒怒怒怒怒怒』

このような事態を回避しつつ、AIで自動的に「イイね!」を付与したい。 いつも気にして読んでフォローするなんてウザ過ぎるから。

 そこで、メタデータ社のネガポジAPIが-3~+3まで、7段階のネガポジ判定をするのに作者のひさじゅさんは着目しました。一定の時間間隔、ランダムなどの設定もあったと思いますが、初期設定では、ネガポジAPIが、+1以下のとき、-2以下のとき、のように、どの程度ネガティブであれば、「イイね!」を敢えて付けないようにするか、保留するか、上司の性格や、自分との距離感などに応じて設定を変えることができます。

 「シャチクのミカタ」サービスが自動でイイね!したときは、直後に、その上司の書き込み内容を携帯メールなどに自動送信します。「お、こいつなかなか見どころあるな。俺の良記事に「イイネ!」してくれて。」と思った上司がニヤリとしてその内容の後日談などを話かけてきたときに、話を合わせられるようにしてくれます。至れり尽くせりのサポートといえるでしょう。実際、有料化されても使い続けたいというブログ、称賛のコメントが広がっていきました。

 しかし、約3万3千人のユーザー、ならびに、生暖かく見守ってくれていた野次馬達の眼前で悲劇が起こります。大元FB上のアドオン・アプリとして成立していた「シャチクのミカタ」アプリが再三にわたり、FBに削除されたのです。今も残る、公式サイト(このドメイン名の利用料を払い続けているところに作者の自負と意地を感じます)に経緯が記されています:

「ニュース」には、作者が、利用者様への愛情をこめて機能を追加し、メンテナンスし続けていた履歴が残り、涙を誘います。

"2012/10/14 自動お誕生日おめでとう機能を追加しました。
2012/10/14 フィード購読している方を上司と同様に追加する機能を追加しました。
2012/10/12 日刊上司マガジンを創刊しました。ログイン後メールアドレスを登録しておけば前日の上司のシェアした記事やいいねしたページをメルマガで配信します。
2012/10/17 セルフ登録機能追加。自分自身のシェアした記事やいいねしたページを確認出来るようにしました。"

以上、API開発者が思いもよらなかった面白い応用用途を考案し、捻りを加えて実用性を追求してこられた歴史の一部を振り返ってみました。このような多数(数百)のAPI活用サービス、作品群に接し、ときに育成に協力させていただいた12年の歴史を踏まえて、9/23のハッカソンでも、マッシュアッパー様たちをご支援いたしたい次第です。

 なお、「シャチクのミカタ」作者のひさじゅさんは、その後、起業され、数10人で快適にソフトウェア開発を行い、独特の流儀で順調に受注されていると聞いています。


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