2019 F1 Rd.14 イタリアGP FP3/予選

今年のイタリアGPで唯一であろう「完全にドライな一日」になりました2日目。決勝も雨の予報なので抜きにくいモンツァでどれだけ良いグリッドを掴めるかがポイントになりました。そして…

フリー走行3

F1のフリー走行の前に行われたF3の決勝でアレクサンダー・ペローニ(カンポス)のマシンが最終コーナー・パラボリカでオーバーラン。縁石に乗り上げて車体の底にダメージを負ってダウンフォースを喪失、宙に舞い上がりフェンスに激突するアクシデントが発生しました。

動画を見ましたがフォーミュラカーの宿命とも言えます「急激なダウンフォースの喪失」の危険性をまざまざと表しました。幸運なことにペローニに大きなケガはありませんでしたが、非常に危険なアクシデントでした。同様の事故は1997年の全日本F3選手権で横山崇選手(享年25)が亡くなる悲劇が挙げられます。今回はHALOが機能したとも言えますが、衝撃的なアクシデントでした。前戦ベルギーGPで起きたアントワヌ・ユベール選手(享年23)の事故もあり、オールドサーキットの安全性を問われることになるでしょう。

フリー走行3はパラボリカの損傷したフェンスや看板の撤去、原因となった縁石を削り取るためにコースオープンが10分遅れ、50分間のセッションとなりました。

各車ドライコンディションでのロングランをこなし、残り時間15分を切ると予選に向けてのアタックが始まります。先陣を切ったのはフェラーリの2台。ティフォシたちで埋め尽くされたモンツァが沸き立ちます。このアタックでセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)がセッション最速1:20.331をマーク。

他チームもアタックを開始。このセッションではレッドブルのマックス・フェルスタッペンが2番手に食い込み、ホンダPUの好調をアピールしました。またルノーも好調で5番手にダニエル・リカルド、7番手にニコ・ヒュルケンベルグに入りました。

TOP3は
セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
バルテリ・ボッタス(メルセデス)
各PU勢が拮抗したセッションで、ベッテルから15番手のランド・ノリス(マクラーレン)までが1秒以内という白熱したセッションになりました。

予選Q1

ここ数戦の予選はトゥ(スリップストリーム)の位置取りで大渋滞が起き、またF3予選で同様の混乱が発生。レーシングディレクターは「極端なスロー走行にはルールを厳密に適応する」と発表しました。

まずはウィリアムズの2台がコースに入りタイムアタック、続いて各チームがコースイン、Q1突破を目指します。フリー走行3でも好調だったルノーは予選でも速さを維持。ヒュルケンベルグが2番手、リカルドは5番手と下馬評を覆す走りを見せました。

各車タイムを出す中でモンツァを得意とするセルジオ・ペレス(レーシングポイント)が残り5分でマシントラブルでコース脇に停止。赤旗中断となります。ペレスは得意のモンツァでQ1突破を逃してしまいます。

セッション再開してすぐ後、タイムを出していないフェルスタッペンがストップ。ホンダF1のテクニカルマネージャー田辺豊治氏によると「縁石に乗り上げた際、タイアが激しく空転し、エンジン回転が上がりプロテクションモードに入った為、FIAのトルク監視システムが介入しました。その結果、走行中にパワーを落とすことになりました」と説明。フェルスタッペンは無線で「パワーが無くなった」と報告しましたが、PUにはトラブルは無い模様です。結局フェルスタッペンはタイム計測無しで予選を終えてしまいます。

Q1で脱落したのは
ロマン・グロージャン(ハース)
セルジオ・ペレス(レーシングポイント)
ジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)
ロバート・クビサ(ウィリアムズ)
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

予選Q2

1回目のアタックではルイス・ハミルトン(メルセデス)がフェラーリ勢を抑えてトップタイムをマーク。ルノーのリカルドもボッタスより速い4番手のタイムを叩き出し、依然として好調をアピールしました。

そして2回目のアタック、懸念されていた大渋滞が発生し始めます。各車はトゥの位置取り合戦を行い、走行スピードは極端に下がり始め、できるだけ前に他車を走らせてトゥを使ってタイムを伸ばそうと心理戦の様相を呈します。

結果、数珠繋ぎでのアタックとなり思うようにタイムを伸ばせないドライバーも出てきます。

Q2で脱落したのは
アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)
ケビン・マグヌッセン(ハース)
ダニール・クビアト(トロロッソ)
ランド・ノリス(マクラーレン)
ピエール・ガスリー(トロロッソ)

予選Q3

1回目のアタックはシャルル・ルクレール(フェラーリ)が1:19.307でトップに立ち、モンツァに集ったティフォシたちを沸かせます。その後にハミルトン、ボッタスと続きます。

しかし、キミ・ライコネン(アルファロメオ)がパラボリカでクラッシュ、赤旗中断となります。この時点でアレクサンダー・アルボン(レッドブル)、ランス・ストロール(レーシングポイント)、ライコネンの3名がタイム計測なしでアタックを終えてしまいます。

そして、懸念されていた問題がついに爆発します。

セッションは残り6分35秒から再開されたものの、ピットから出るマシンはなく、ここでもトゥの位置取り合戦のにらみ合いが続きます。結局残り2分で各車一斉にピットアウト、最後のタイムアタックに向かう「はず」でした。

しかし、ピットアウトした全車のスピードは非常に遅く、またヒュルケンベルグは第1シケインをスルーしてまで後方に位置しようとします。セクター1、セクター2を超えて、残り時間が僅かになってもスピードを上げるマシンは現れません。

各車パラボリカ直前まで粘りスピードをあげメインストレートに戻ってきます。

が、フィニッシュラインを通過できたのはカルロス・サインツ(マクラーレン)とルクレールのみ。それ以降7台のマシンにはチェッカーフラッグが振られ、セッション終了を告げます。アルボンとストロールはタイム計測無しで予選を終えてしまいます。

暫定ポールポジションはルクレール。以下ハミルトン、ボッタス、ベッテル、リカルド、ヒュルケンベルグ、サインツと続いています。
この記事を書いている2019年9月8日3時13分現在、最後のアタックについてFIAは審議中で、確定したグリッドではありません。

露骨過ぎる位置取り合戦

このような「クラッシュやマシントラブルに起因しないアタックの失敗」は非常に稀です。確かにトゥを使いことで0.2秒速くなるとF1公式が発表しているので使わない手はありません。ただ、アルボンとストロールは赤旗中断でアタックできなかったため、タイムを出さないことには全く意味がありません。さらにF3ではこれによるペナルティが10数台に出される事態も発生しています。それにも関わらず何故、同じことを繰り返すのでしょうか。

また、あまりにも遅すぎる走行はタイアやブレーキの温度に直結し、冷えたままでアタックを始めた場合に事故が起きやすくなります。これは非常に危険な行為であり、露骨過ぎる位置取り合戦は個人的な意見として「全くのナンセンス」と言わざるを得ません。

タイム差が殆ど無い集団でのアタックは危険であり、これはレースアクシデントですが、実際にアントワヌ・ユベール選手は集団内でのクラッシュで命を落としたばかりなのです。この位置取り合戦を許容して指示をするチームも、それに従うドライバーも、もっと賢明であるべきです。

30年弱F1を見てきましたが、このような「危険かつ愚かな失敗」は見たことがありません。あまりにも嘆かわしく、モータースポーツの頂点に君臨するF1のあるべき姿では決してありません。強い憤りさえ覚えます。中継を見ていた私はその事態を理解するのに、一瞬では足りませんでした。呆然としてしまいました。

ルールの解釈や隙きを突くことはF1に限らずどのスポーツでも行われることです。しかしながら、今回の事態は非常に危険であり、スポーツマンシップを穢すものとさえ思っています。

F2、F3で重大なアクシデントやペナルティが下ったばかりです。全チームに指示を徹底できなかったFIAの対応も脇が甘いと言わざるを得ないでしょう。

予選の在り方そのものに問題があるのかもしれません。

大きなアクシデントが起きる前に、徹底的に議論し、方向性を見定めることでこの問題が解決することを強く望みます。