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早川義夫「アメンボの歌」

桑田佳祐が23年ぶりに、他のアーティストに楽曲提供した事で話題になった、坂本冬美「ブッダのように私は死んだ」を買いました。

いつもはApple Musicへのリンクなんですが、残念ながらSpotifyでしか配信されていなかったので、そっちを貼っておきます。

で、その楽曲は、ここのところ自分のルーツである「昭和歌謡」への回帰志向が顕著になってきている、今の桑田佳祐らしいなぁと。
CDのキャッチコピーどおり「歌謡サスペンス劇場」って感じの曲ですw

それを坂本冬美が実に、実に見事に歌い上げています。
桑田佳祐がAAA(Act Against AIDS)のチャリティコンサートで歌謡曲をカヴァーして「原曲レイプ」って言われちゃうぐらいに桑田節で歌ってるのと対照のように。桑田の曲を、当代きっての名シンガーである坂本冬美が歌うという、この倒錯的な感じ!その悦びにゾクゾクするわぁ。

あ、今の若い方はご存知ないかもしれませんが。坂本冬美って「演歌歌手」ってイメージでしょうが。その昔、あの忌野清志郎、細野晴臣と一緒にバンド(HIS)を組んでた「ロックシンガー」でもあるんですぜ。これ大事な。

で、それはいいとして。
「23年ぶりに」っていうことは、じゃあ23年前には一体誰に、どんな楽曲提供したのか?と問うて答えられますか?

正解が、今回ご紹介する早川義夫「アメンボの歌」です。

そもそも、早川義夫って誰よ?って人が多いでしょうね。
ええ、はい、まぁそうなんですよ。「知ってる人は知ってる」って枕詞が実にピッタリくるんですよ、この人は。

早川義夫は、「ジャックス」っていう、クレジットカードとか信販会社みたいな名前のバンドを組んでいた方です。
そのジャックスは、1960年代の後半にアルバム2枚を出して解散してしまい、商業的にも決して成功したわけじゃないんですが。
その後のフォークソングのようなドン暗い世界観や、パンクロックを先取りしたかのような先鋭的な歌詞や音楽性で「知る人ぞ知る」っていうバンドでした。

(あ、ここからはいつものApple Musicへのリンクですが。
以後、すべてSpotifyでも聴けます)

1970年代にこの内容で出してたら「さもありなん」なんですが。
これ1960年代の作品ですからね。時代先取りしすぎです。
マジ「人類には10年早すぎる」アルバムだったわけです(当時)。

その後、ソロで「かっこいいということはなんてかっこ悪いんだろう」(後に、何人にものアーティストにカヴァーされる名曲「サルビアの花」を収録)を発表後、早川義夫は、ずーっと音楽活動を休止していたわけですが。
23年後(なんという偶然!)、突如として音楽活動を再開します。

とはいえ時代は、J-Pop全盛で、avex系だ、ビーイング系だので、CDのミリオンセラーがバンバンと飛び交う1990年代真っ只中。
そんな中で、ひっそりと音楽活動を再開しても、そりゃあセールスにめぐまれるわけもなく。
「知ってる人だけ知ってる」の状態のまま、2018年に再度音楽活動を休止しました。

その再始動期に、「当時の」桑田佳祐が、彼の代表的な持ち味である「スケベ系/社会派エイトビートロック」路線ゴリゴリで提供したのが「アメンボの歌」です(ちなみにサザンの「電子狂の詩 01 messenger」と同日発売)

もうね、言い方は悪いけど「歌ってるのが早川義夫で、中身は桑田佳祐そのまんま」です。
早川義夫が、桑田佳祐かサザンオールスターズの未発表曲をカヴァーして歌っている、と言っても信じちゃうんじゃないかな。

でもね、当時CDショップでこれを見つけた時
「"あの"早川義夫が、桑田佳祐が作詞・作曲した新曲だと!?」
と、熱烈な桑田・サザンファンであると同時に、再始動した時から早川義夫を知ってファンになっていた当時の俺は、矢も楯もたまらず衝動的にCDをレジカウンターに持っていったのを覚えています。
それぐらいこの二人のカップリングは「衝撃的」でした。

とはいえ、実は伏線は貼られていて。この曲が出る2、3年前に、先にも出したAAA(Act Against AIDS)のチャリティコンサートの中で、桑田佳祐が「サルビアの花」をカヴァーして歌っていたんですよね。
「知る人ぞ知る」早川義夫というアーティストに、桑田佳祐はそのずっと前からリスペクトを持っていたわけです。

なんでもネットにアーカイブされている今とは違い、当時はネット黎明期。
この楽曲提供に至る「ストーリー」が今でもわからないんですよ。
これ、どっちから言い出して、話をもっていったのか。
そして「まんま桑田佳祐」な曲を、早川義夫はどういう心境で歌ったのか。
楽曲を提供した桑田佳祐は、「桑田佳祐っぽい」この曲を確信犯的にやったのか?はたまたそれは早川義夫からのリクエストだったのか?

当時の音楽雑誌とか読んでたら、どっかにインタビューしたものがあったのかもしれませんが。俺、音楽雑誌とか全く読まない人なので、そこんところが今でも謎のまま残っています。

でも、この歌、好きか嫌いかで言えば「超好き」なんですよね。

桑田佳祐がセルフカバーしても、「まんますぎ」て違和感ゼロでしょうが。
でも、この歌、このメロディ、この歌詞を、あえて早川義夫が歌うからこそ、なんとも言えない「違和感」を超えた先に、そこに生み出される「化学反応(ケミストリー)」があるんですよ。

早川義夫ってこんなのも歌うんだ!っていう、彼の音楽領域の奥深さを垣間見た気がしました。
そこが坂本冬美「ブッダのように私は死んだ」との大きな相違点であり、対照的な部分だと思っています。「ブッダ~」は、端々に桑田節が見え隠れしつつ、「坂本冬美の歌」として作られていて、その大枠は守っている感じ。

一方の「アメンボの歌」は、「早川義夫っぽさ」が本当に無い。
なんというか、早川義夫自身が、自分のセルフイメージを打ち壊しにかかっている。そのために桑田佳祐を利用している。そんな破壊的なインパクトを感じるんですよね。

23年が経って聴きなおしてもなお、その異種混合デスマッチみたいなこの曲のインパクトは、決して色褪せてはいないと思うのです。

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