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ケーキの箱

仕事が落ち着いていたので、フレックス勤務を利用して病院に行った。いつも通り、ピルと痛み止めをもらいに。平日の変な時間に病院にいくと、小学生の時熱を出して普段は見れない時間帯のTV番組を見たときの感覚を思い出す。色んな人がいろんな事情を抱えてここにいるんだろうなと思う。特に婦人科は。

帰り道にケーキ屋さんがあった。この街ももうすぐ引っ越す。もう来ないかもしれない。
最近はダイエットというか、筋トレ回数を増やして食事に若干気をつけていたので甘いものを積極的に買うことはしなくなっていたが、入ってみた。

かわいらしいタルトがあったので購入した。コーヒーを淹れよう。

ケーキの箱は、持ち歩いていると「この人、絶対にケーキを買ったな」とわかるところが面白い。疲れた顔をしたサラリーマンも、平日にダル着で病院にいく私も、尊いものを持ち歩いている。

ふと昨日のことを思い出す。落ち込んでいた後輩にランチを奢っていや出しますよと返されたときに「美味しいものでも食べてね、ケーキとか!」と返した。そういえば自分で自分ひとりのために甘くてかわいらしいものを買い、落ち着いた空間で食べるということをしばらくしていなかった。

この一ヶ月は、余白を埋め続ける一ヶ月だった。同棲していて結婚の話も出ていた10年来の親友兼パートナー(パートナー時期は3年だが)に不貞をされ、家から追い出し、それに蓋をするように人と会って、エンタメを摂取して、身体を動かして、リモートで作業できる日も無駄に出社を繰り返していた。作戦は成功で、悲しくなることも苦しくなること泣くことももあったが、なんとかその気持ちに引きずり込まれ続けないように仕事をこなし、引っ越しの準備をすすめ、日常生活を送れていた。

でもケーキを衝動的に購入した帰り道、白い小さな箱を持ちながら涙が出そうだった。お金も時間も使っていたけど、自分で自分に優しくする時間を落ち着いて確保する、ということは案外できていなかったのかもしれない。

ケーキの箱を持って歩いても、道行くカップルや小さな子ども連れの夫婦を見ると少し苦しい。私は今日の良い天気の日に、ケーキみたいないいものを買った、そんなできごとを日常的に共有する相手がもういない。だから書いている。見た目の可愛さで選んだアメリカンチェリーのタルトは、思いに反してチェリーがすっぱかった。


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