オタク界で生きるとは

再び好きなことや人を共有できる友達ができ、オタクライフ満喫!となるはずだったのですが、実際はそう上手くいきませんでした。

デビューをしているグループがコンサートや舞台を開催する場合、その旨がファンへ告知されます。そしてチケットさえ入手すれば会いに行くことができるのですが、まだデビューをしていない子達の出演が告知されることはほぼありません。デビューは果たしてないもののグループに所属しており、それなりの人気がある場合は、同事務所の先輩のバックとして事前に記載、発表されることもありますが私が応援していた子の場合は、一応グループに属しているものの事前に知る術はない状態でした。故に実際に会いに行くには数日間あるコンサートや舞台の初日が終わってからネットや人脈を駆使して出演の有無の情報を得るか、普段どのグループのバックで踊っていることが多いか、同時期に複数のグループがコンサートや舞台を開催している場合どのグループのバックに配属されるかを自分で分析し、事前にチケットの申し込みをするか、の二択しかありませんでした。前者の方法だと確実ですが大手有名事務所であることから、コンサートが始まってからチケットを入手することは正規ルートではほぼ不可能な為、後者の方法で会いに行くしかありませんでした。所謂賭けです。

しかし当時中学生の私にとってその方法は金銭的にかなり難しいものでした。コンサートに行くようになってからは母にもアイドルが好きだということは伝えており、意外にもアイドルにお金を使うことに対して比較的寛容だったものの、お小遣いの中でチケット代や現地へ足を運ぶ為の交通費などをやりくりする中で、もしコンサートに行っても会えなかったら…と考えると一世一代の賭けだったのです。もちろん主催であるグループのコンサート自体は凄く楽しいのですが、私にとっての主役はたとえ1番後ろの端っこだろうと応援してる子、たった1人です。その子がいなくては主演のいない舞台と同じなのです。開演時間になるまで応援している子がステージに立つかどうか分からない状況に耐え切れなかった私は、オタクを辞めることを決意しました。

辞めるといっても、誰に強要されていた訳でもなく自分の趣味の1つです。辞めるなら勝手に辞めたらいいさ、と大人になった今はそう思うのですが当時のオタクの世界は日本社会におけるブラック企業よりも冷酷なものでした。

まず、大半の人がオタク仲間である友人の中で特に親交が深い子のことを「身内」という名で括っていました。友人と身内の境界線は人それぞれですが身内になると扱い方、扱われ方がうんと変わってくるのです。まず身内という名の称号。そしてアイドル1人につき、その子を応援している子の友達は1人までしか作りません!という独自ルールまで設けています。なので当時、この子気が合いそうだから仲良くなりたいなぁと思っても、◯◯くん推しの友達はもういるので友達になれません!と書かれているとネット上ですら話しかけにいけないのです。この独自ルールは人それぞれでしたが、これがあることにより、友達の中で◯◯くん(ノミの推し)といえばノミちゃんだよね〜という=が生まれます。自分はたくさん応援している人の中の1人だと頭では分かっていても、なんとなく推しは私のものだと思える部分で満たされるものがあったのだと思います。中には推しにリア恋(恋愛感情をもって応援している)の子もいたのでその為にできたルールだったのかもしれません。

このように難関大学レベルの高い門を潜り身内になれても、まだまだ安心はできません。突如行われる「身内整理」というものがあるのです。

メールでの一斉送信や当時流行っていたスイマガという無料メールマガジンサイト内で特定の人のみが受信するこができるプライベートマガジン機能を使い、大抵が予告なしに行われます。突然身内としてのクビを切られる可能性のあるハプニングイベントです。しかしクビを繋ぐ方法は簡単で、大体がこれからも身内でいたいとの旨を記したメールを送信すれば、これからもよろしくね!という返信が届き、あっという間に解決です。稀に数日、数ヶ月以上メールでのやり取りがない場合は有無を言わせず身内切りされることもありますが、このような身内整理は大体が相手がまだ自分を親密な友人として思ってくれているのか、自分を必要としてくれているのかという再確認であり、承認欲求を満たす為のものなので身内整理を告げるメールの見落としさえしなければ、難なくイベントクリアです。しかしどんなに日頃から親しくしていても、そのたった1通を見逃してしまうと突然の打ち切りに合います。こんな恐ろしいことがブラック企業や突然の会社倒産以外にもオタク界に存在していたのです。

この厳しいオタク界では私がオタクを辞めるというのは私だけの問題ではなくなってくるのです。自分で書きながらも少しニヤケていますが、私は引退を表明するべく身内へ連絡することにしたのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?