だいたい12年前のこと

海、と言うか波が見える部屋で
私は暇つぶしだけをしていた。

音楽を聴いたり映画を観たり
部屋から見える波が良ければ波乗りをしたり
素敵なことも好きなことも
全部ただの暇つぶしだった。



2度目に結婚した男とは
結婚する前からおかしな状況だった。

会社の先輩として出会ったその男は
独身でまぁ男前で、稼ぎもそこそこ良く
何よりえらく女好きと評判で
仕事柄出張が多かったこともあり
本当に「港々に女あり」と言われていた。
(実際にそうだったのだと思う)

男は私がまだ既婚者だった頃から可愛がってくれていて、といえば聞こえは良いが
要するに機会さえあればヤリたい女として
私のことを扱っていたと思う。

出張やプライベートの旅行の度に
ちょっと特別なお土産を買ってきては
それを口実にこっそりランチに誘う、みたいな

それを当時の彼女から嗅ぎつけられて
結果私が探偵に尾行される、みたいな

それを突き付けられた男が
「申し訳ないんだけど彼女と話してほしい」と
当時の夫と団欒中の私に電話してくる、みたいな

そんな状況が薄ーく細ーく続いている最中に
私は離婚をし、男もひとりになり
あれよあれよと言う間に付き合い結婚することになったのだが、これがいけなかった。



男は完璧なモラハラ男だった。

結婚式の夜に殴られた時から(いずれ書くつもり)
いや、両家顔合わせの前に、お前と親の経歴が必要だから釣書を出せ、と言われた時から
私はこれが間違いだと気づいていた。

でもその時の私にはどんどん進んでいく【再婚への道】みたいなものに、ブレーキをかけて間違いを正すだけのエネルギーが残っていなかった。

結果、私は日常生活を監視され
(男は双眼鏡とウェブカメラを駆使していた)
就く仕事や髪型や体重、寝る時間は勿論
個人的な財産までも管理され
(人から贈られた宝飾品も勝手に売られた)
お前みたいな女を大事にするのは俺だけ、と
事あるごとに刷り込まれ
心身ともに閉じ込められて暮らすことになった。



男はよく
俺が死んだら俺のものは全てお前のものになるんだから良いだろう、と言った。

だから私は暇つぶしだけをしていた。

毎日毎日、男が死ぬまでの時間を潰す以外
私には他に何も出来なかった。


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