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声が世界に届くまで── #世界同時演劇『Lost and Found』制作後記

これから語るのは、本日からアーカイブ配信が始まるノーミーツの演劇『Lost and Found』が出来上がるまでの舞台裏を、企画・プロデュースの私、松本祐輝の視点から振り返った物語です。
この風変りな企画が完成するまでの過程を、本編とともにご覧いただけますと幸いです。
アーカイブ映像はこちらから。
(末尾に役者さんからのメッセージもございます!是非ご覧ください!)

「これから稽古を重ねていく中で、セリフに慣れてしまうかもしれない。でも、コミュニケーションは本来、「自分の言葉が伝わらないかもしれない」という不安からなるものだと思う。その感覚を大切にしてほしい」

初回の本読みで脚本演出の小御門が語り、その後の稽古の中で何度も繰り返す言葉であった。この言葉は、今回の「世界同時演劇」を象徴するかのような言葉だ。
自分の言葉や思い、声が伝わるのだろうか、という不安は、コミュニケーションにおいて確かに発生し得るものだ。
特に、世界と特に繋がりの無い僕らノーミーツのチームが虚空に投げた物語という声が、本当に世界に届くのかは、最後まで不安の連続であったが、結果的に世界の役者さんに届き、沢山の方の支えによって広がり、33カ国2,500人を超えるお客さん、そして中国bilibiliでの同時配信では延べ14,000人の方に見て頂いた企画にまでなった。

どこだって劇場にできる。そこが世界だっていい。

まずはこの劇を知らない方に向けて今回の企画について説明させてほしい。
「世界同時演劇」は、世界各国、別々の場所にいる役者がオンラインを通じて同時に演技をし、一つの演劇を作り上げるプロジェクトである。

2020年、最初の緊急事態宣言下で、皆が外に出れなかった時に生まれたノーミーツは、Zoomを使った演劇から始まり、観客の投票によって結末が変わる「選択式演劇」や、サンリオピューロランドやニッポン放送、空港、海辺といった、劇場ではない場所を劇場にして生放送で送る生放送演劇など、オンラインでしかできない演劇の新しい表現に挑戦してきた。

今回の「Lost and Found」では、日本ではゲストハウスを舞台とし、複数のカメラを設置、さらに海外から、外国人のキャストが出演する。さらに全編に字幕が用意され、世界のどこからでも楽しめる。
演劇の専門家だけでなく、圧倒的な配信チームにエンジニアチームがいるノーミーツだからこそできる、そんなノーミーツの舞台を拡張していく試みの集大成とも言える挑戦だった。

世界各地と、日本ユースホステルの間を往復しながら劇が作られる

虚空に向かって声を投げかけ続けて

この構想が出来たきっかけは、1年前、この文章を書いている僕がプロデューサーとしてノーミーツに参画したことだった。本業で中国を中心とした国際共同制作をしてきた自分は、ノーミーツの『むこうのくに』を見て以降、企画を通じて世界を繋ぎたいとずっと思っていた。そこに元々のメンバーが乗ってくれたことで実現のための模索が始まったのである。

正直「市場」は見えていなかった。様々な人に聞く中で、オンライン演劇という試み自体は、コロナを機に世界各地で行われていることは分かったが、基本的にはオフラインでの演劇ができない期間の代用品であり、ノーミーツのようにその表現を極めているチームもいなければ、ターゲットと言える人たちも見えていなかった。

中国に絞ったライブコマースといった、より明確なターゲットのあるアイデアも出ていたが、それでも、このチームだからこそできる、「世界を繋げる」という、少し無謀だが、もやっていない、理想論のような企画にチャレンジしてみたいという信念があった。

一方、今回企画を作った主要メンバーは、決して海外に明るいメンバーというわけではなかった。僕自身は中国にこそ経験知見はあったが、英語圏には全く縁がなく、小御門さんに至っては何と、海外に出た経験すらなかったのだ。

明確な届け先の見えない企画を作る過程は、虚空に理想論を投げ込んでいくような、空虚で苦しい期間だった。何度も企画を作っては崩し、その過程だけで半年以上が過ぎていった。

クリエイター育成事業の成果発表会で展示させて頂いた時 企画はまだ道半ばだった

ここで紹介しなければならないのが、この企画の実現が今回助成を頂いた「文化庁メディア芸術祭クリエイター育成支援事業」様のおかげだということ。人も技術も多くかかるこの企画は助成金を頂かなければ成り立たなかったし、そのおかげで無料公演という思い切った方法に出ることができた。何より遅々として進まない暖かく企画を見守り続けてくださった文化庁の皆様とアドバイザーのタナカカツキさんと山本加奈さんがいなければ、途中で心が折れて企画を閉じてしまっていただろう。
来年以降メディア芸術祭の募集がなくなってしまったという悲しいニュースも聞いたが、この無謀だが確かな意義のある企画は、文化庁の皆さんの支えがなければ決して実現しなかったのだということは、これからもずっと声を大きくして伝えたいと考えている。
 
そんな時間が過ぎていく一方で、世界そのものも変わりつつあった。コロナだけでなく、ウクライナでの戦争等様々な問題が起きた中、中国と日本という、主義主張の正反対の立場にいる2カ国の議論を同時に見ていた自分は「このコロナが終わった後、もう一度普通に話すことはできるのだろうか」という絶望に包まれた。これをきっかけに「コロナで無くなってしまった場所=ゲストハウスを舞台に、世界の色々な場所にいる人たちどうしが、自分たちの事を語る作品にしたい」という原案が出てくると、小御門さんの驚異的なまとめの力もあり、やっと企画として完成したのだった。

世界同時オーディションで、初めて声が世界に届いた

企画ができたはいいが、ノーミーツには海外の役者の方のつては殆どなかった。自分たちがまだ出会えていない海外の役者と出会いたい、実験公演らしく、その手段も実験的なものでありたい。その思いで始めたオーディション準備は本当に、本当に大変だった。

脚本もできていない段階での、日中英3カ国語での情報解禁。HPやビジュアルを急ピッチで準備し、何とか探し出したアメリカと中国のメディアとオーディションサイトに登録、さらに英語でのオーディションを日英の二カ国語で実行しなければならない。

このあまりにも無謀なオーディション、そしてここから始まる制作を実現できたのは、もう一人のプロデューサー、梅田ゆりかさんのおかげに他ならない。ノーミーツの初期メンバーであり、オンライン演劇の経験が誰より豊富な梅田さんは、頼りない自分の替わりに企画から制作まで、全ての過程を担い、リードしてくれていた。この企画の思い付きは自分だが、企画の魂は間違いなく彼女だった。

そしてもう一人欠かせないのがアシスタントプロデューサーの白浜美夏さんだ。イギリスで演劇を学ぶ彼女は日中英三カ国語を操るスーパーウーマンで、オーディションから稽古場、本番の前説からカーテンコールまで、過酷な通訳の全てを担ってくれた。イギリスからリモートでスタッフワークをこなしてくれた彼女は、通訳という立場からどんどん成長し、本番前にはなんと日本に帰国し、現場から多言語のコミュニケーションをしんがってくれるようになってくれた彼女は本当に頼もしい存在だった。

そんなオーディションには、なんと14カ国から200人もの方が応募してくれた。そして嬉しいことに、多くの方達が、自由に世界が行き来できない中で繋げ直したいという企画の意図に共感し、応募してくださったのだ。特に当時、コロナによる行動制限が厳しかった中国からは、もう一度演劇をしたい、世界と繋がりたいと感じた方々が多く応募してくれた。

こうして、素晴らしいキャストと出会えたオーディションは、同時に自分たちにとって初めて、虚空に向かって投げていた思いが、対岸に通じたことを実感できる場になったのだ。

声を形にしてくれた、スタッフワークの数々

ここで、実際に見た皆さんの感想の中でも出てきた、ノーミーツのテックチームの舞台裏についても紹介したい。

まず印象に残るのは、演劇にも関わらず変わっていくカットワークと通話画面のコントロールだろう。普通の演劇ではありえないだろうこの演出は、ノーミーツの誇る配信隊長、藤原遼さんのおかげである。場面転換にとどまらず、日中プラットフォームでの同時配信や、字幕配信といったイレギュラーな対応があったにも関わらず、遼さんの尽力のおかげで無事にやり切ることができた。

ホステルの2階に作られた、配信ブースの「一部」

まるで映画のようなカメラワークは、水落さん、宮原拓也監督という、『あの夜を覚えている』でも大活躍した二人のおかげである。水落さんは美術の構成から、印象的なプロジェクター演出まで手掛けてくれた。 

そして、本公演で一番の核心的な要素は、生配信にも関わらず字幕が出るということだろう。このシステムの構築には、土田悠輝さん、藤木良祐さん、 渡辺基暉さんらをはじめとするノーミーツの誇るZAのエンジニアチーム、そして自動翻訳システムで活躍している鈴木一平さんのおかげで会った。

Excelにてまとめた字幕を、オペレーターがポン出しできるようにする。その複雑なシステムを、誰が見ても分かりやすいUIに落とし込んで頂いた字幕に関わらず、稽古場・カーテンコールの自動翻訳や、オンライン劇場ZAそのものの多言語対応など、大工事が必要だった中で、柔軟に対応してくれた彼ら無しには、世界中の人達が一緒に観劇し、チャット欄で多言語で交流するという、理想的な形は実現し得なかったことだろう
(このシステムの凄さについては本当に語るところが沢山あるので、今後のテックチームの皆さんの発信に期待したい)

そして声は届き始める

本作でも難しかったのは広報であった。そもそも市場が無い所にどうやって作品を打ち込んでいくのか。
これらを裏から支えてくれたのがノーミーツの広報チームは、今作でも一番多国籍なチームだった。小田切萌さん、佐藤瑞葉さん、オギユカさんというノーミーツを支え続けてきた3人に加え、ヨーロッパから前述の白浜さんとスロベニアから吉田妙子さん、中国からIris Yangさん、Zoe Jinさんが参加してくれたのだ。日中英3つのチームが別々の方向性で動いているものをまとめる作業は非常に大変な作業で、リーダーシップを取ってくれた小田切さんを中心とした日本チームの3人には頭が上がらない。

目指す先が難しい広報の中で最初から柱としてあったのは「上手くいくか分からない企画だからこそ、ちゃんと過程を出していこう」ということだった。オーディションの広報に力を入れたり、毎回の稽古ごとにその日のハイライトを上げていったり、感想を出していったり。一見地道な一つ一つの広報とPRの結果として、オンライン劇場ZAでの2,500人観劇という、当初の想定を超える人数の視聴数に繋がった。

Irisさんを中心として進めた中国向けの宣伝は、日本でも人気のあるコスプレイヤーのSherryさんに出演頂いたこともあり、様々な施策を練ることができた。その中でも企画の初期化から相談に乗って頂いていた中国インフルエンサーの山下智博さんには、キャスティングへの協力から、ご自身のbilibiliアカウントでの配信から宣伝への協力、さらには特別出演など、本当に広い分野での協力を頂いた。ここ最近の不安定な情勢下において、微妙なテーマの作品で、炎上もなく、中国において延べ12,000人視聴という素晴らしい数のお客さんに楽しんで頂けたこと、これは山下さん無しでは成り立たなかっただろう。

日本に負けず劣らずの盛り上がりとなったbilibiliの中国会場

最も大変だったのは日中以外の世界に向けの宣伝だった。日本・中国と違い本当にゼロからのスタートだった宣伝は吉子さんに無しには成り立たなかった。エディンバラ演劇祭のオンライン部門への出演や、英語圏向けのSNS更新などチャレンジしたことは多くあったが、特にゲストハウスでの同時上演プロジェクトは、着実に海外にも広がり、最終的に世界各地からの宣伝協力及び上映会を実現することができ、フィクションであるこの企画が、現実とリンクした、本当に意義のある企画となったのだった。

劇伴もまた、「世界同時演劇」という営みを象徴するチームとなった。音楽プロデューサーである河原嶺旭さんは、日本で作曲家として成功していたにも関わらず単身で中国に乗り込み、中国でも作曲家・音楽プロデューサーとして大成。日本人アーティストはまず取れない中国の音楽プラットフォームでのトップ入りを経験している凄まじい方である。そんな河原さんと、中国から来日された作曲家のハン・テンコクさんは2人による音楽は、日本や中国、さらにはアラブやアフリカの伝統楽器までが合わさっていた。奏者にガチタンバリン大石竜輔さん、アンサンブルにハセガワダイスケさんという豪華な布陣で作られた音楽は、まさに「世界同時演劇」を象徴する音楽だったと言えるだろう。

稽古、そして世界と繋がった

こうして、様々な人の協力で始まった世界を繋ぐ稽古が始まった。

世界を繋ぐ稽古の大変さ、それはとにもかくにもコミュニケーションの問題に尽きる。連絡一本とっても3カ国語で、それぞれのツールを使わないといけない。通訳を挟むので稽古の時間も1.5倍になる。さらに、地球の反対側の出演者もいるため、稽古の時間は深夜と早朝が中心。都合のいい時間もバラバラで、国内なら何となくできたことに数倍の手間と時間がかかる。想定の数倍大変な過程だった。

役者さんの受け答えも人によって全然違う。基本的に日本の役者さんより主張は強く、我が道を行く人が多い。お互いの思いがちゃんと伝わっているかを確認するためにも、稽古はディスカッションの時間を多く取りながら進んでいった。

また、脚本は日本チームで書いていたからこそ、役者さんの感想、感覚を取り入れることを心掛けながら進んでいった。キャスティング決定後、各役者に取材を行い、本人の経験や現地の様子を吸い上げながら脚本を制作。出来上がったセリフについても、稽古の中で各人の思いや感覚を取り入れながら表現を微調整していった。オーディション前、稽古前、最終稿と進むにつれて、日本からの視点だけではない、地に足の着いた内容へとバージョンアップしていった。

そんな稽古場を支えてくれたのが、岩崎MARK雄大さんであった。
英語台本の翻訳者でもある岩崎さんは、各役者から吸い上げた内容を吸い上げ、脚本のクオリティ―をコントロールしてくださったのみならず、主役のオツハタをはじめ、役者さん全体の英語表現のディレクションも頂いた。それは第二の演出ともいえる内容で、岩崎さん無しに演出のレベルは上がらなかっただろう。また、中国語台本の翻訳者である呉珍珍さんも、オーディション宣伝への協力など、脚本翻訳を越えて影日向に作品を支えて頂いていた。 

また、主役タカハラ役のオツハタさんの努力の挙げないわけにはいかない。不確定要素が多いからこそ、ノーミーツから最も近い存在であるオツハタが現場にいる信頼感は何物にも代えられないものだった。この劇で、オツハタさんは全てのシーンに出演し、しかもセリフの7割は英語という、本当にハードな状況だった。本人曰はく、決して英語が美味いわけではないオツハタさんが、たった一カ月でここまで劇を仕上げてきた背景にどれだけの努力があるのか、僕には計り知れない。

そんなコミュニケーションを経て、遂につながったなと感じた稽古がある。アレクサンドル役のチリの俳優、Evgenyさんとの本番前、最後のシーン稽古である。

Evgenyさんはチリ在住だが、元はロシア出身。今の情勢に誰よりも真剣で、オーディションの際から誰よりもこの劇にモチベーションを持ってくれていた方だった。その役柄は、主人公のタカハラの過剰になった自意識をいさめ、旅の本当の意味について議論をするというもの。物語中で唯一タカハラと口論をする役であり、山場の一つでもある、大切な役だ。

本人の思慮深い性格もあり、稽古は議論に議論を経て進んでいった。その最後の稽古で、「アレクサンドルはタカハラを責めている。でもそれ以上にれらの言葉は自分に向けた後悔でもあるんだ」と言った。
役への理解の深さを感じた小御門は「この役は僕の思想を一番込めた役。Evgenyさんにやってもらえて、本当に頼もしい」という言葉を伝える。
ここから今まで以上に役者の皆をリーダーのように仕切ってくれたEvgenyさん。結果としてこのシーンは劇全体を通じても最も印象的なシーンの一つとなる。

難しい役の難しいコミュニケーション。それを超え、遂に物語の思いが伝わったと感じた瞬間であった。 

どこにいくのかは分からないが、私は今、向かっている

そして迎えた28日本番、ゲネでは無かった接続アクシデントなど、ヒヤッとする場面はあったものの、何とか無事終了することができた。

コメント欄は多言語であふれ、見てくださった人が皆、自分の旅路を振り返っていた。そこにあったのはまさに、僕たちが見たかった世界、そして思いが届いた姿であった。

本当に温かく見守ってくださった観客の皆さんがいたからこそ、この劇は完成しました。本当にありがとうございました。

小御門さんが最初の稽古で役者全員に言った言葉は、今でも鮮明に覚えている

「この物語は、今までの世界を懐かしんだり、コロナ禍が終わったら素晴らしい世界が待っているということを言いたい物語ではない。世界は元には戻らない。それでも変わっていく世界の中で、自分自身を変化させながら前へ進むことができる人間という存在を僕は肯定したい」

世界同時演劇を作る過程は決して理想的なものではなかったし、僕自身反省すべきことも沢山あった。それでも、出来上がったもの、言葉が沢山の方に届いたこと、その事実は変わることはない。この物語のテーマのように。
 
ここまで長文を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。是非本日から始まるアーカイブ配信をご覧になった感想を#LostandFound #世界同時演劇 にて発信頂けますと幸いです。


役者からのメッセージ

オツハタ(タカハラアラシ役)

『LostandFound』は極々私的な物語ですが、Oliverの言葉を借りるなら、本当に「誰かの運命が微かに変わる」ような作品なんじゃないでしょうか。日本から出たことも、英語をまともに扱ったこともない僕でしたが、「言語や文化こそ違えど僕たちは同じ人間で、心で繋がることができる」と心から思えました。それは世界同時公演というこの営み自体がくれた気づきでもあります。世界は広いけど、いつも僕らの隣にある。そんな風に思える公演でした。すべての人に感謝を!

森川色(クシダミドリ役)

ご観劇いただいた皆様、有難うございました。パンデミックの影響が続く中、こうして世界各地の方々と協力しながら一つの演劇を作り上げられたことは、本当に奇跡のような経験でした。世界がどんなに変わっても、やってきたことは失くなりません。どのくらい先の未来になるか分かりませんが、作中のアラシのように「良かったのかもな」と前向きに笑える自分になりたいし、皆様にもそうあってほしいと願っています。

Deo Clarisse Bashala(Eba役)

この2022年8月、NOMEETS 『Lost and Found』に参加できてとても光栄です。
フレンドリーで親切なチームと一緒に楽しく仕事ができました。
この作品で最も難しかったのは、劇のほとんどが電話での会話をベースにしていることです。だから観客は私たちが何を話し、どのようにそれを話している最中の表情を注目してます。
そのため、限られた小道具で最高の演技をしなければならず、しかもそのほとんどが私たちの会話と表情だけで、その場を魅了しなければなりませんでした。
私はこの挑戦が大好きで、そして、異なる大陸が1つの劇の中で、また3時間以内で、混ざり合うことが大好きです。
NOMEETS、キャスティングクルー、俳優たち、そして演出家に感謝します。
そして、また近いうちに一緒に仕事ができることを心から願っています。


黎珈璐 Lydia(Viola役)

感謝の言葉は沢山ありました。既に個人的に伝えたものもあります。
なので俳優の立場から『Lost and Found』の経験について、オープンに話したいです。
コメント欄やリアルタイムのチャットには、『ドライブ・マイ・カー』の名前が何度も登場しました。 多言語演劇というと、すぐに濱口竜介監督の作品が思い出されますよね。 Nomeetsからオファーを受けた時、私も「車に乗る」という喜びを味わいました、確かにマサチューセッツの美しい林道を走るのは、カリフォルニアの渋滞した危険なハイウェイよりずっと楽しい体験です。 今度は日本で運転してみたいですね。 瀬戸内海から北海道へ。
ただ、『Lost and Found』は題材もアプローチも、は『Drive My Car』とは根本的に異なります。 映画では、チェーホフの古典劇がアンカーポイントとなって、『ワーニャ伯父さん』という骨格の上に、それ自体「理解しあえない」複数の言語が滑らかにリレーしていく。 この重力に逆らうような不気味さこそ、映画における演劇の魅力だと思います。 もちろん、それは監督、俳優、観客が同じ部屋にいることが前提です。 西島俊秀さん演じる主人公が大きな時間の流れの中で体験し、ワーニャ伯父さんとの新たな共感を得ることで、「劇中劇」の構造が現実を拡張していくのです。
『Lost and Found』は、新型コロナウイルスという衝撃に焦点を当て、巧舟さんのゲームのシナリオのように、脚本演出の小御門さんが緊密なプロットと古典的な構成を結びつけ、一晩の物語を作り上げました。
「現在」の文脈の中で、『Lost and Found』は、私がこれまで見た中で最も多様性に富んだ作品で、数カ国の俳優の民族性、場所、職業的背景、演技のスタイル、言語、地理、時間帯の違いを自然に表れています。 監督は、セリフと演出によって、登場人物と俳優を正確かつ繊細に、ニュアンスと思慮深くまとめ上げ、それぞれの役者がが独自の方法で開花させました。 特に、中国から2人の女優を同時に起用し、女性のキャラクターを充実させたことに感謝しています。 一緒に演じたSherryはひときわ愛らしく、私自身も 女性の友情のシーンが楽しかったです。そのシーンでは、私は文化や国の代表ではなく、故郷、遠い場所で、一人の人間、一人の女性として、女性の友人と一緒にいました。私たちは敵ではなく、アジア人女性という名刺をめぐって場所を奪い合うわけでもありません。 私達には替えが聞かないのです。お互いがお互いの差異を必要とし、最後には手を取り合って演劇の葛藤を解決するのですから。
「今」を誠実に描いたという点で、私はNomeetsを本当に尊敬しています。登場人物たちが経験する人生の変化や気持ちの動き、海をまたいだ別離は、実は地球上の住人が体験しているものなのです(残りの半分は、災害、飢餓、疫病、戦争など、さらに大きな苦境ですが)。 残念ながら、私の住むアメリカの演劇界や社会は、このパンデミックを芸術の場で議論する準備がまだ整っていないと感じます。
表現すべき物語を率直に、そして勇敢に表現することができたのは、チームにとっても、観客にとっても、なんと幸せなことだったか。
演技の面では、私にとってこれまで以上に大きなチャレンジでした。誰もが見れる生配信で架空の物語を演じるのは初めてでした。 ポイントはどこで、 観客は誰か、どうやってつながるのか? これらの問を持ちながら演技を探っていきました。稽古では、セリフ、動き、視線、風景、トランジション、道具など、何度も実験、調整、鍛錬を重ねました。
当時の私は古代ギリシャの劇場での公演を終えたばかりで、自分の演技のスタイルや習慣の多くを洗い流し、組み立て直さなければなりませんでした。 スクリーンやピクチャー・イン・ピクチャーの技術的・表現的な制限があり、映画のように後処理や編集ができない中で、すべてがオン・カメラの演技で、劇場公演のアドリブ性とコントロールの両方に対応しなければならなかったのです。 これは信じることでしかできない作業でした。
演出については、テクニカルスタッフがこの作品の最大の功労者であると言えるでしょう。 物語の要素に欠かせないカメラのスイッチ、ビデオ映像、視覚効果を下さいました。そこからも沢山の着想を得ました。 一方、衣装や美術も抜かりなく、まるで映画と演劇の完全な二刀流でした。皆さんと同じキーホルダーが宅配便で届いたとき、本当にみんなと長い付き合いになったような気がしました。
広報部門の皆さんも制作部の皆さんも、細部にまでこだわった大きな仕事量と、想像力にあふれた企画をしてくれました。 特に仕事で外国の方と母語の中国語でコミュニケーションするのは初めてで、色々甘えてしまいました。 有名になったと錯覚するほど、これまで宣伝に携わったのは初めてでした。 本番の前後で、白浜美夏さんが3カ国語で順番に通訳を始めたとき、見ていた方もすごくショックを受けたはずです。 言葉ってなんてすごいんだろう。 人は人生に何を求めているのかと、 考えてしまいました。
中国の画家の黄永玉先生の言葉を借りれば、このような大舞台を作り出すのは、「逃げ出すしかない800匹のカニをコントロールするようなもの」でしょう。 しかし、小御門さんはそれを驚くほど見事に、しかも軽々とにやってのけました。彼はマスクをしてスクリーンの後ろに座っていたので、マサチューセッツで牧場の牛糞の匂いを嗅いでいた私は、その不安な気持ちを吸い込むことができなかったのでしょうけれど。
本番当日、私の出番になったとき、何の前触れもなく突然、端末が落ちてしまったのです。 あまりに混乱したので、慌ててログインし直しました。 今思えば、その瞬間は、北米大陸に一人取り残され、10台のパソコンと部屋いっぱいの日本のクルーに呼びかけながらもアジアに接続できない、私にとってのコロナ禍の始まりの縮図のようなものでした。
本当にうまくいってよかった。
そして私は、劇中の登場人物のように、荷物をまとめて出発する準備はできています。
Nomeetsの皆さん、東京で待っていてください。 ANAから2020年に返却された400ドルのバウチャーがまだありますから、逃げずに待っていてくださいね。

贤儿sherry(Momo役)

今回「Lost and Found」に参加できて、本当によかったです!生配信公演という形式は、他の表現方法よりも緊張し興奮し不安も感じました。 特に本番当日、私が演じたMomoが電話に出た途端に急に電波が悪くなってしまい、パートが電波のせいで台無しになってしまうかと思いました・・・・・・・。それでも一緒に演技をしていた役者の先輩たちのアドリブのおかげで、本番はこれまでのリハーサルよりも臨場感があり、さらにいい内容にすることができました。本当に一緒に演技をした皆さんのおかげです!
国をまたいだ公演だったので、稽古のたびに、私の側は夜で暗く、他の役者さんの側は昼の明るさでした。それを見る度に 時差があっても、どれだけ離れていても、ビデオ通話をするだけで世界はこんなに近くなるんだ!といつも実感しました。 もちろん、いつかオフラインで会いたいです! Momoは、もう一度日本のイベントに参加してコスプレ衣装を取りに行かないといけないからね! (笑)
私のように、言葉がうまく話せなかったり、色々なことが苦手で、未知のことにたじろいでしまい、挑戦できないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 しかし、感情は言語を越えて伝わり、行動は世界を越えることができると信じています。ちょうど、「Lost and Found」が私たちに伝えようとしていることと同じように!
最後に、こんなに今の世界にあった脚本で、多くの視聴者が自己の価値についてあらためて考えられるような素晴らしい舞台を提供してくれたスタッフの皆さんに、改めて感謝したいと思います。

María Paredes(Claudia役)

Lost and Foundファミリーと一緒に仕事をすることは、現実離れした体験でした。人として、また自分の技術として学び、成長する機会を得ただけでなく、この才能豊かで勤勉なクルーと一緒に働き、魔法を体験することができたのです。
演出家の小御門優一郎さんの指示に従うことで、常に創造的かつ感情的に豊かな気持ちになることができました。仲間の演技を見て、彼らの技術から学ぶことは、とても光栄なことでした。
全体として、物語を愛し、意味と心を持った物語をこの世に送り出すためにベストを尽くすストーリーテラーたちと一緒に働き、つながることができたのは、本当に幸せなことでした。
この素晴らしい経験を、私は一生持ち続けるでしょう。またお会いできる日まで!
愛をこめて。

Evgeny Klimkin(Aleksandr役)

プロフェッショナルな演技、優れた演出、生配信の経験だけでなく、感情的、知的、精神的なレベルでも、これまでで最高の作品のひとつとなりました!キャストと制作チームは、私にとって家族のような存在になりました...。この素晴らしいオンライン演劇作品のオーディションを受けに来た時には予想だにしなかった、この一生に一度の経験を私は決して忘れないでしょう!もし今後、また皆さんと一緒に仕事ができる機会があれば、それを無駄にすることはありません!約束します!

Taz Singh(Oliver役)

この作品は私にとって初めての日本のプロジェクトですが、個人的に幼少期にアジアの友人や日本文化に囲まれていたこともあり、将来的には俳優としてもっと日本のプロジェクトに参加することが目標の一つとなっていました。制作に携わったすべての人に心から感謝したいです。テクニカルチームは、このコンセプトが世界中で生放送されるよう、配信を成功させるために、とてもプロフェッショナルな仕事をしてくれました。マーケティングチームと翻訳も的確でした。制作チーム。キャスト。すべて。みんな。皆さんの努力と頑張りは、すべて注目され、感謝されるべきだと思ってます。私たちのプロジェクトがこれほどまでに多くの人とつながっているのは、みんなの力が結集しているからです。嬉しいような、悲しいような。チームとして、家族として、多くの時間を共有できたことが嬉しい。そして、生配信が終了し、幕を閉じてしまうことが悲しい。思い出に残る楽しい旅でした。そして、観客の皆さん、世界中のすべての人々にとって、パンデミックとともにあったこの2年間は、私たち全員にとって、それなりの旅でもありました。私たちは皆定期的に浮き沈みに直面していますが、私たちのパフォーマンスが観客の皆さんに感動を与えるものであったことを祈ります。  皆さんの人生の目標が何であれ、人生が与える試練にもかかわらず、旅を続けることを願っています。ありがとうございました。

イトウハルヒ(タカハラアサヒ役)

世界同時演劇をご視聴いただいた皆さま、本当にありがとうございました。この2年間で世界は大きく変わりました。日本国内にいても人と離れてるなと感じることがあるのに、世界の皆さんとつながることができるのか少し不安に感じていました。でも、この物語を経て不安は軽くなりました。画面の向こうとこちらで演劇を通して会話した時間、同じ劇を観ながらチャットで数カ国が飛び交っていた時間、私たちは確かにつながっていたと思います。変わった世界の中でも変わらないものに少し触れられてた気がします。貴重な機会をいただき、本当に感謝いたします。

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