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【回文〆日記】 #30 くりさがりの暗算

10年近く前のことだが
原付バイクで事故を起こした。

幸い誰も巻き込まず
自分が電柱にぶつかっただけだった。

通りがかりの人が通報してくれて
救急車で病院に運ばれた。
らしい。

頭を打って意識を失っていたので
後から聞いた話だ。

骨折などの大きなケガもなく
数日の入院で済んだのだが

家に帰ってきてから
あることに気づいた。

買いものに行ってお金の計算をするときに
足し算はできるのだが
引き算ができないのだ。

正確に言うと
「繰り下がりのある引き算」の「暗算」
ができなくなってしまっていた。

例えば店で
764円のものを買おうとして
小銭がなかった場合

千円札を出せば足りる
ということはわかるのだが
おつりがいくらかということが
ぜんぜんわからないのだった。

店員さんがおつりを差し出すまでの間
懸命に考えても
金額にまったく確信が持てなかった。

家に帰って筆算すれば
繰り下がりのある引き算もできたので

どうやら事故の衝撃によって
私の脳内の
「繰り下がり」と「暗算」のつながりに
不具合が生じたらしかった。

逆に
「繰り上がりのある足し算の暗算」は
普通にできていたので
その不具合の法則性のなさに
もやもやした。

だったら掛け算や割り算は?

思い出そうとしてみたが定かな記憶はない。
特に印象に残っていないということは
たぶんできていたのだと思う。

それにしても
繰り下がりのある暗算だけができないなんて!

そんなシュールなことが!

信じられなかったが
だめなものはだめだった。

退院してからもまだ
事故の余韻でぼんやりしていたし

しばらくは
思いがけない症状が出るかもしれないと
病院で言われていたので

深刻な気持ちにはならなかったけど

買いものに行って
レジでおつりをもらうときは
毎回小さなストレスを感じた。


うっ!「繰り下がり」が去り、苦痛。

→ うつくりさがりがさりくつう ←


そのころは現金での買いものが主流で
それ以外に支払い方法を思いつかなかったので
そういう事態になっていたけど

クレジットカードという手があった!
ガラケーの電卓機能を使ってもよかった!
と今になって思い至る。

高額な買い物はしなかったし
店員さんがおつりを間違えることなんて
あまりないから

割り切って
差し出されるおつりを
ただ受け取ることにしたけど

これまで自分に備わっていた機能が
使えなくなったことは
漠然と悲しかった。

と同時に

なんだなんだこの奇妙な状態は!へんすぎる!
と面白がっている自分もいた。

その症状について
定期健診で相談した記憶はないので
結局
2週間とか1か月とかで
自然に復旧したような気がする。

脳のしくみの不可思議さを
つくづく実感したできごとだった。

自ら
しでかしたまぬけな事故ゆえ
思い出さないようにしていたが
時がだいぶ経った今
ふと書いてみる気になった。

あのときあのまま
異世界へ移行していた可能性もあったわけだから
大きな後遺症もなく
今こうしてこっち側で元気にしていて
noteに投稿なんてできていることは
あらためて
貴重な状況だと思う。

もちろんちゃんと
繰り下がりの暗算もできる。

はず…

最近は店での支払いは電子マネーで
残高不足でもその場でチャージできることが多いから
ざっくりした計算しかしないし

その他
計算が必要な時はすぐスマホの電卓機能を使う。

そんなわけでいつの間にか
細かい暗算を
前ほどしなくなっていたことに気づく。

たまには意識的に
「くりさがりのあんざん」をやろう。

一度は家出したけど
再び戻ってきてくれた
愛らしい子だから。


計算、サイケ。

→ けいさんさいけ ←






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