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回文〆ショートショート#6 破壊のかなしみ

ほんの数日の間に、
食器などを立て続けに割った。
いずれも、ちょっとした不注意で。

派手な5連発。

  その1 10年以上前、香典のお返しカタログでもらった丼。
プラ製のふたつきで、保存容器として便利だった。


その2 ファミレスGでおまけにもらった皿。
毎朝フルーツをのせていた。2年くらい使ったか?


その3 丹山窯のマグカップ。
見た目、大きさ、重さ、手触り、口への当たり方、
全てが好みだった。
「これが手元にあって、今日も使えてうれしい」と毎日思った。
使用期間、1年4か月。


その4 物干し場のハンガー。何年も使った。
累計にしてそうとうな枚数の服を、陽にさらしてくれた。


その5 昔から家に放置されていたふくすけ人形。
今年に入ってからふとPC机に置き、
作業を見守ってもらっていた。
一瞬、割れていないと思ったが…



形あるものはいずれ壊れるし、
どれもそれなりの期間使ったから、
天寿を全うしたと捉えればよい。

そう理屈ではわかっているのだが。

身近なものが次々と砕け散っていくさまを
目の当たりにして、
私はたいへんかなしかった。

あれもこれも割った…割れてしまった!

特にあのマグカップ。
何か月も探してやっと見つけて、
気に入っていたのに…。
もう私の一部みたいになってたのに!

ふくすけだって、あんなむごい頭の割れ方!

モノには執着していないつもりだったが、
実際には、この執着心。

思考は千々に乱れた。

あーあーあー。

丼も皿もマグもハンガーもふくすけも、
もう二度と元には戻らないんだぁー!
もう二度と!

あーあーあー。

しかし、なんだよ?この嘆きようは。

失恋かよ?


→大混乱、壊した私は。混乱?恋だ。←

→だいこんらんこわしたわたしわこんらんこいだ←


5件目の破壊、
ふくすけの後頭部が粉々になったとき、
私のかなしみは臨界点に達した。

あまりの耐え難さに、
昼間から酒を飲んだ。
なんとか気を紛らわせるために。


自家製梅酒と市販の梅酒、
両方飲んだ。


でも、酒では、
私のかなしみは癒えなかった。

むしろ、アルコールによって、
かなしみは増幅したようだった。

いっそ、浸りきってやれ。

かげりゆく西日の中、
壊したものを撮影した。

12月でも
西日の影は、
濃かった。

まだ日没前なのに、
目の前が真っ暗に感じた。

このまま、もう二度と夜は明けないのかも。
明日なんて来るのか?

沈んだ気持ちで酒を飲んでいるうちに、
私はいつしか寝てしまったようだった。

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どのくらい経ったろうか。
私は目を覚ました。

日が沈み、
ほんとうの宵闇になっていたが、
気持ちは若干、
ましになっていた。

そうだ、明日、普段は買わない、
ちょっと特別なお菓子を買ってきて食べよう。
そしたら少しは気が晴れるかも。


直径11cmのでかい酒まんじゅう

竹皮で包まれたこしあんのもち
がいい


バイバイ、
そしてありがとう。

私のくらしの一部だった
食器3個とふくすけとハンガー。

まだ未練たらたらだけど、
そのうち自然に忘れるね。

そうなることを、知っている。


「酔う、苦。視界、夜な。来るか?明日。」「私、明るくなる。良い菓子、食うよ。」

→ようくしかいよるなくるかあしたわたしあかるくなるよいかしくうよ←






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