【回文〆日記】 #12 あの凧
あっ!あの凧、出とる!
街灯がなくて墓地がある、夜はこわくて通らない近道。その道沿いにそう広くない田んぼがあるのだが、毎年実りの季節になるとそこに、防鳥用の凧が出される。
凧のある田んぼの風景に出くわしたときはいつも、妙にわくわくする。鳥を模した凧の珍しさと、黄金色に染まりかけた穂波の美しさと、おいしい新米への期待、それらがあいまって変にテンションが上がる。
それにしてもあの鳥の凧、かっこいいなあ。ほしいなあ。あの凧が世間で活躍し始めて以来、見かけるたびにそう思ってきた。今年もやはり鳥の凧に心を奪われた私は、ついに「田んぼ 凧」と入力してネット検索した。ネットショップには「カイト鷹」の名で売られているものが多かった。とんび?と思っていたが、鷹だったのか。色やデザインが違うのが何種かあり、あんがい手ごろな値段のものも。鳥の凧熱に浮かされてあやうくポチりそうになるも、すんでのところで思いとどまった。うちの家庭菜園はたいして風が吹かない。鳥の凧は揚がってなんぼ、だ。それに、住宅の狭間で終わりかけの夏野菜たった数株のために出すなんてばかみたいだ。
稲刈り前のこの時期は、田んぼの横を通るたび、鳥の凧との再会を喜ぶ。微風のときは垂れ下がったままぶらぶら揺れる覇気のない姿を見、豊かに風が吹くときは高いところをすいすい飛び回る勇姿を眺めて、田を守り通すミッションを帯びていることに、ちょっとしびれる。
確かや。舞う尊き鷹の凧、田の敵、とうとう、まやかした。
→ たしかやまうとうときたかのたこたのかたきとうとうまやかした ←
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